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破邪の気炎 〜手遅れの世に、人ができる残されたこと〜  作者: 北岳 梟
天登《あまと》立志編
8/99

8.小雪

 「天登あまと、怪我はないかい?」

 瑠川るかわ天登あまとに声をかけた。


 怪我はないが、破邪士と妖魔の本気の戦闘を間近で見た衝撃に、天登あまとは打ちのめされた。

 なす術がなかった。

 「何もできませんでした」

 「気にすることはないわ。奴は、迅鬼じんきは、9血。それに数知れず破邪士を食ってる。超一流の破邪士でも、1人で相手にするにはきつい」

 「9血……?! もしかして、あれにもまだ上がいるんですか……?」

 「あぁ、いる。だから、強くならないといけないよ、天登あまと

 「は、はい……」


 「それと小雪、助かったわ。ありがとう」

 瑠川るかわが小雪を労った。

 「いえ……」


 「紹介するわ。今日からここで一緒に修行することになった、津神つがみ天登あまとよ。天登あまと、彼女は、君の姉弟子にあたるね。日皐月ひさつき小雪といいます。歳は、高2だから、同い年ね」

 「あ、あの、俺、天登あまとと言います。小雪さん、よろしくお願いします」


 「よろしく。敬語じゃなくていいから」


 「フフ。敬語も何も、小雪の口数が少なすぎて、どっちでもいいんじゃない?」

 「天登あまと、小雪は見てのとおり、剣技が得意なの。9血の妖魔に物理的にダメージを与えるのはそう簡単じゃないけど、小雪のはその域にきている。今はさらに剣技の才能を磨き上げることと、刀に心気を伝える修行を中心にやっているのよ」


 確かに、小雪が迅鬼じんきに一刀を見舞ったとき、背後が見えると言う迅鬼じんきでさえ、不意をつかれたようだった。

 小雪の剣技の実力は相当なものなのだろう。

 「あの、瑠川るかわさん、俺も何か武器を持った方がいいんですか?小雪は刀、瑠川るかわさんは鎖鎌を使いますよね」


 「そうだねぇ、小雪はもともと破邪士の家系に育って、剣の修行は小さい頃からやってきた。才能と合わさって、もはや刀は身体の一部というところまでになっている。天登あまとはよっぽどマッチする武器が見つかれば別だけど、そうでない限り、武器ありきで考えなくていいと思うよ。まずは心気を使いこなそう。自分の闘い方やスタイル、得物なんかも、後から自然と身に着いてくるから」


 破邪士の戦い方には、セオリーはないようだ。ベースになる心気の質•量に個人差が激しいからだろう。


 「それはそうと、天登あまとはさっき、心気弾ができたね。岩の抉れ方から、なかなかの威力が出ている。今で潜在力の1割ぐらいは、威力に転換できたってところかな」

 「たった1割ですか?あの威力で?」

 「あら、自分を過小評価しちゃいけないよ。君の心気はあんなもんじゃない。催魔さいまに打ったやつでも今の倍はあったよ」

 「確かに……。ただあの時は咄嗟で……」

 「そう、それをコントロールできるようにならなきゃね。その方法が、これ」


 瑠川るかわは右手を空へ向かって突き上げた。

 やがて腕全体が光りだし、右手に集中していく。

 「それっ!」


 右手に集まった光が上空に放射状に伸びて飛んでゆく。

 5〜6階建てビル程度の高さまで達したろうか。

 「今、私の心気は上に向かって扇を広げたように散開しているね。これを、束ねる」


 みるみる広がっていた心気が一本の筒状にまとまり、長さも縮んでくる。

 色も白から青みがかってきた。

 最後には、突き上げた右手から1.5メートルほどの長さ、直径10センチメートルほどの太さにまで、心気がまとめられた。

 「心気は広がっていると威力も分散してしまう。こうやってまとめ、束ねることで、大きな力になるし、形状も戦いに応じて、柔軟に変えられるようになる。ここまでできれば、妖魔との戦闘でかなり優位に立てるはずよ」


 瑠川るかわは続ける。

 「ちなみに、これは基礎の領域ね。まずはここを目指そう。ね、小雪も」


 「はい……」

 小雪が顔を赤らめる。心気のコントロールは苦手なんだろうか。


 

 その夜、長い長い一日が終わり、床に就いた記憶がないほど、天登あまとは泥のように眠った。

 小雪も早い時間に寝入ったようだ。

 

 神社の境内は静寂に包まれ、墨のような深い闇があたりを塗り込めていた。


 しかしそんな境内の片隅に、瑠川るかわがいた。

 怒りと苦しみが合わさったような、苦悶の表情を浮かべ、境内の大樹に、拳を打ちつけている。

 瑠川るかわの拳には、血がにじんでいる。


  「迅鬼じんき……。必ずこの手で、殺す! 和美の仇は、必ずはらす!」

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