77.遠隔戦
「はぁはぁ」
天登が天守閣に登りついた時、千夏が歩み寄ってきた。
「あら可愛い男の子だと思ってたけど、たくましくなったじゃないの」
「はあ」
「いろいろ聞いたり触ったりしたいんだけど、さすがの私も今は後にするわ! いい、聞いて」
「はい!」
「今から、私が正門に近づく敵本体に向けて特大の一発を放つ。あなたは東門の敵別働隊へ同じく攻撃して」
「はい!」
「急ぐわよ! 心気を溜めながら聞いて。その後、必ず、敵の遠隔攻撃の妖魔からえげつない爆撃のような弾が飛んでくる。私はこれを残らず迎撃する。その間は攻撃できないから、あなたが両隊への攻撃を継続するの」
「はい!」
説明しながら千夏が溜めている心気は、天登の何十倍はありそうな規模だ。
圧がすごい。
「雑魚は私たちの遠隔攻撃で一掃する。おそらく8血未満は葬れるはず。私たちの敗北条件は、医務室へ踏み込まれること。一匹たりとも逃がさないで」
「はい!」
天登も負けじと心気を溜める手に、強く力を込めた。
◇
「今!」
千夏と天登が、特大の心気弾を放った。
下で見上げていた小雪には、真っ昼間に太陽と月がもう一つずつ生じたかのように見えた。
太陽の方は正門前方へ、月は東門の方へ飛んでいく。
着弾まであと数秒というとき、別の、真っ黒な太陽と月が、高速で飛んできた。
地面から30mほどの高さで、白と黒の太陽と月がそれぞれ接触し、大爆発を起こした。
大地が揺れ、木々が根こそぎ吹っ飛び、薙ぎ倒された。
何百体か爆風に巻き込まれた妖魔がいたようだが、本隊、別働隊とも、行軍速度に変わりはない。
「迎撃されたわね。天登、ここからは私も迎撃戦に入る! 攻撃は任せたわよ!」
「はい!」
言う間に、上空に馬鹿でかい真っ黒な球体が上がった。
黒の中の黒という色み。
漆黒。
あらゆる生物に絶望を強いる色。
暗黒波だ。
その球体はやがて弾け、無数の小さな暗黒弾に分かれ、正門、東門の破邪士へ降り注ぐ。
「任せろ!」
千夏は心気を巨大な円盤状に練り上げ、放った!
両門の屋根のように円盤状の心気が展開し、暗黒弾を受け止める。
「千夏さん、すごい……」
「感心してないで、攻撃!」
「はい!」
天登は溜め切った心気を散弾銃のように細かく連射し始めた。
「心気弾! 連射!」
無数の気弾が本体へ降り注ぐ。
下級の妖魔が被弾して倒れていく様子がわかる。
また天登は左手から発する分を、東門に振り向けた。
ここからは位置の有利があるため狙撃には向くが、敵の数は多い。
合計1,300に達した敵は、最初の攻撃で1,000ほどにはなったが、どこまで削れるかは、自分次第だ。
千夏は暗黒波の迎撃、天登は妖魔への攻撃に集中していたが、天登の頬を小さな気弾が掠った。
気のせいかと思ったが、少し傷になっている。
「千夏さん! 妖気弾が飛んできました!」
「角度的にありえないわ! ここは地上のどこからも死角のはず! なんかの破片じゃないの!」
「確かに妖気でした! あ、また!」
天登はなんとかかわした。
「暗黒波の破片でしょうか!?」
「……、暗黒波だわ……」
天登は千夏の視線の先を追った。
そこには、美しい金髪の女性が、微笑みながら宙に浮いている姿があった。
「飛んでる!」
「魔界のエネルギーを無尽蔵に操る妖魔、エリス! まさか飛ぶこともできたとはね!」
千夏はダンプカーほどの気弾を即座に作り出し、宙に浮くエリスへ高速で放った。
しかしエリスは軽くかわす。
「こりゃ厄介だわ。でも!」
「天登、よく聞きなさい! もう敵の隊は、ここから角度がつかない、つまり狙えないエリアまで侵入してしまった。大体半分ぐらいは減らせたわね。あなたはすぐ正門へ降りて、地上戦に加わりなさい! 私はアイツを引き受ける!」
「え、でも千夏さん、敵は空を飛んでいます!」
「私もできるの」
千夏は両手を上げ、心気を全身に行き渡らせる。
すると千夏の小柄な身体はふわりと浮き上がった。
「エリスは私が絶対に止める。あなたは、あなたの使命を果たしなさい」




