妖魔の王
龍虎は配下の妖魔と山を駆け降りながら、生まれて初めて訪れたこの日の幸運に武者震いが止まらなかった。
この一戦で勝てば、人間社会で組織的に妖魔へ抵抗する者はいなくなる。
そのあと妖魔の世を実現することは、赤子の手をひねるように簡単だ。
破邪士さえいなければ、人間は恐れるに足らず。
これまで奴らが築き上げてきた文明の上に、妖魔が幸せに暮らす社会を作る。
もうすぐだ。もうすぐ実現するんだ。
龍虎は周りをみた。
常に龍虎のそばを離れない、忠実な部下でありながら、戦いの師である獣人史竜。
温厚篤実、質実剛健。武人として主を敬い、規律を重んじ、俺の修行では、親のように叱咤激励してくれた。
前を走るは、鉄切りの真宗。
人間でありながら人間を憎悪する想いは妖魔以上。
2メートルはある斬馬刀を怪力で振り回し、敵を寄せ付けない。
元破邪士で妖魔に寝返った稀な存在。
何を考え、俺と行動を共にしているかは未だにわからないが、こいつは腕に覚えがある破邪の者をこれまで20人以上は葬ってきた。貴重な戦力だ。
背後を走るのは、暗黒波による遠隔攻撃の名手、エリス。
金髪碧眼の女妖魔。
魔界の力を自在に引き出す能力を持ち、己の妖気ではなく暗黒波と呼ばれる魔界エネルギーによる絨毯爆撃、スポット極大爆撃を得意とする。
彼女にキャパシティの概念はないため、人間の都市一つを吹き飛ばすほどの火力を、いつでも生成可能だ。
こいつらは、妖魔軍としても史上最大の戦力。
妖魔は古来、数で人間に劣後し、その状況は今でも変わりないが、数を圧倒できる質が揃った。
それに迅鬼。
あいつは俺に面従腹背だが、そもそも血や戦いに飢えている。ここにはいないが、必ず現れるだろう。
この戦力で叩けば、ゴテンは必ず落ちる。
龍虎はそう確信し、配下とともに山を駆け降りた。
「見えた!」
天守閣の屋根上から双眼鏡で物見していた安藤千夏は、スマホを通じて全員へ呼びかけた。
「妖魔軍は正門と東門にそれぞれ別れたわ。龍虎は本体800あまりを率いて正門へ、東門へ向かった隊500あまりの頭は……、大きな斬馬刀が見える。おそらく鉄切りの真宗!」
「了解。暗黒波のエリスは見えるか?」
伍代が確認した。
「どちらの隊にもいない。金髪で目立つはずなのに」
「おそらく、どっか見通しが利くところで遠隔攻撃の準備をしてるんだろう。千夏、迎撃できるか?」
「やるしかないわね。ただ敵の攻撃を一発も撃ち漏らしちゃいけない中で、攻撃と防御、両方はきついんだけど……」
「だよな。津神天登を登らせる」
「天登、悪いが、今から天守閣へ登って、千夏を援護してくれ。まとまった遠隔攻撃ができるのはお前だけだ。頼む」
「はい!」
天登はゴテンへ駆け戻った。




