伍代の指揮
「そうか、そりゃそうだよな、全部わかってるよな。それでこそ俺たちの天守だ。よしわかった!」
「ありがとう、伍代さん」
再びスマホに向かって天守が呼びかける。
「これから、私が信理の治療に入るに伴い、結界を解きます。破邪士以外の非戦闘員は、全員退避! 全破邪士は、龍虎一党の襲撃に備え、総力を結集! 総指揮官は伍代政輝! この戦いは、ゴテンを守るためではない。人類を守る戦いだ。死守しろ!」
最後に、天守が付け加えた。
「みんな、お願いします! 私が行くまで全員、生き残ること!」
あらゆる場所で天守の声を聞いた破邪士達。
放送の当初は、奮い立つ者、恐怖で色を失う者、考えを整理できずに狼狽える者など様々だったが、最後には皆、腹が据わった顔をしていた。
天守の言葉の内容もさることながら、その声が導く方向は、どこか人に可能性を感じさせるものだった。
次に伍代に代わった。
「あー、伍代だ。天守の命令で絶対なのは、誰も死なないことだ。具体的には、ゴテンを守ることだが、ゴテンとは人のことだ。建物じゃない。そこはしっかり認識してくれ」
「作戦を言う。今ゴテンにいる破邪師は35名だ。正門は俺と胴間の隊。それに、新人の武丸慶次、日皐月小雪、津神天登」
「もう一つの門、東門は、瑠川ひろみの隊と、新人は雨神楽錦、田鋤五右衛門、網川樹々《じゅじゅ》」
「そして、天守閣には、安藤千夏を配置する。雑魚は全て遠隔全体攻撃で無力化してくれ」
「作戦ってほどでもないが、以上だ。破邪士は総勢112名、大半が妖魔討伐で出払っている。ここにいる35名だけで龍虎を相手にするにはちょい痺れるが、みんな、やってやんぞ!」
伍代が振り上げた右手に呼応し、モニターの向こうで、破邪士全員が右手を振り上げた。
中継放送が終わった。
同時に天守が信理の治療のため、病室に入った。
破邪士全員が持ち場に走る。
途中で、ゴテン全体の空気が冷たくなるような、というより、今までがあったかい居心地良い空間だったのが、外界と変わらない空気に変わった。天守が結界を解いたのだ。
その頃龍虎は、函館郊外に聳える山の頂にいた。
小柄な子供の姿。
顔はフードの下に隠れているが、タバコの煙がフードの奥から立ち上っている。
床几机に腰を下ろし、幹部とみられる妖魔3体が傍に控える。
配下の妖魔が市街地攻撃をしており、龍虎は街を見下ろすこの場所から指揮している。
この山にも、夥しい数の妖魔がひしめいている。
「おまえら、感じたか?」
「おぉ」
「はい」
「えぇ」
三体が声を揃えた。
「有栖川が結界を解いた。兵を呼び戻せ。ゴテンを攻める」
立ち上がった龍虎に、何百とひしめく妖魔が応えた。
「おぉ!」
天登と小雪が正門に着くと、既に慶次が来ていた。
「慶次、もう大丈夫なのか?」
「あたぼうよ!身体がなまって仕方ねぇ! 復帰戦で妖魔のドンが相手たぁ、上等だ!」
「ハハハ! その意気だ!」
伍代が隊とともに現れ、慶次の背中を叩くと、慶次は前の地面に突っ伏した。
小雪が笑顔を見せる。
みんな、絶体絶命の危機とわかりながら、どこか吹っ切れた様子だ。
天登は、刀を抜いた。
「お、夕霧だな」
「伍代さん、知ってるんですか?」
「おぉ。錦ん家のだろ? いい刀だ」
「はい。錦さんにもらいました」
「そりゃ、あいつも相当お前に期待してるな。きばれよ!」
天登も伍代に背中を叩かれ、立ち上がりかけた慶次にぶつかった。
みんなが笑った。




