72.優天の過去
「優天、ゴテンには行ったことある?」
優天は首を振った。
「僕ら破邪士の拠点なんだけど、アクラはよくゴテンにいるよ。君もおいでよ」
「私、アクラが大好き。優天も。2人が一緒にいてくれると、私もうれしい」
天登は珍しく饒舌な小雪を、目を細めて見ていた。
「でも、僕は妖魔だし……」
「アクラもだよ。それに俺、まだ破邪士になったばかりだけど、いろんな妖魔を見てきた。心を通い合えると思った妖魔もいた。だから、君と会っても、驚かなかったよ」
天登は、アキラの話をした。
「だから俺は、戦うべき相手は、妖魔と一括りにするんじゃなく、この目で見極めなきゃいけないと思ってる。ゴテンの主、天守様に、そう教わったんだ」
「……」
優天は、ポカンとしている。
「僕、人間にそんなこと言われたの、初めて。破邪士は、すぐ僕を殺そうとしてきた……。その時は、思わず僕も破邪士を傷つけた……。殺しはしていないけど……」
「ごめんね、優天」
小雪が続けた。
「人間は臆病で、それは破邪士も一緒で、妖魔と見れば、殺さないと自分が殺されると思ってる。優天やアクラのような、優しい妖魔に会うことは、本当に珍しい。でも私たちは、ゴテンの破邪士たちに、あなたやアクラや、ほかにも、敵じゃない、分かり合える妖魔がいることを、訴えなきゃいけない。そうじゃないと、この戦いは絶対に終わらないと感じる。だから、私たちと一緒に、来て欲しいの」
噛んで含めるように話す小雪に、優天はゆっくりとうなづいた。
優天がすっかり回復した5日目の朝、天登と小雪はここに来た時と同じように、優天に抱き抱えられ空を飛び、島を後にした。
優天は気持ちが穏やかで、2人に対する思いやりに満ちている一方、迅鬼から2人を救った時の動きや、ヒト2人を抱えての飛行を軽々と涼しい顔でこなしているところを見ると、戦闘力も相当なレベルではないかと天登は感じた。
10血の妖魔の力は優天に厳然と存在する。
しかし天登は、誰にでも優しい優天の力を、戦闘に使わせたくないと思った。
◇
やがてゴテンに着いた。
天登と小雪は、優天を天守のところへ連れて行った。
天守は優天を笑顔で迎えた。
一部始終を天登から聞いた天守は、「たぶん天登が話したと思うけど、」と前置きし、話し始めた。
「私たちは、相手が『妖魔』だから戦うのではなく、人間がおびやかされているから、戦っています。だからあなたが仲間になってくれるなら、私たちとしては基本的には歓迎します」
「基本的には?」
天登が尋ねた。
「そう。基本的には。それには、妖魔であるあなたが、人間を脅かさない存在か、私たちが確信できないといけません。優天、あなたはそれを証明できますか?」
「証明……」
優天は悲しそうに俯いた。
「ごめんなさい、言葉が足りなかったわ。未来のことなんて、妖魔も人間も、誰も証明できない。過去から推し量るしかない」
「はい」
優天は素直にうなづく。
「あなたは、過去、人間を傷つけたり、殺したことはありますか?」
天登はまずいと思った。
優天は破邪士を傷つけたことがあると言っていた。
それを話すと、優天は受け入れられないのではないか?
「あります」
優天の答えに、天登は目を閉じた。
「どういう状況で?」
「破邪士の人に殺されそうになったので、逃げるために攻撃しました」
「その破邪士はどうなった?」
「わかりません。死んではいないと思いますが、大きな傷は負ったと思います」
その時ノックの音がして、古舘沙夜が入ってきた。
天守へ一冊のファイルを渡す。




