70.絶望
「算段はついたかぁ?? 無駄な算段は?!」
迅鬼は両手の爪を瞬間的に伸ばした。
手から十本の爪が放射状に走り、天登と小雪に迫る。
広範囲の攻撃だが、飛べばその後身動きできずやられる。
やむなく天登は右へ、小雪は左へ、ギリギリで攻撃を避けたが、大きく態勢を崩した。
「へへへへ! もらった!」
迅鬼は飛び上がり天登目掛けて10本の爪をグルグル巻きにして太い一本にし、突っ込んでくる。
天登が避けられないことを悟ったその時、小雪が技を放った。
「白華剣! 風の殺気!」
小雪が居合で一閃した刀から鋭い真空刃が飛び出し、背後から迅鬼を切りつけた。
「いでぇ!」
傷は浅いが、これによって迅鬼の攻撃はそれ、天登は態勢を整え、距離をとった。
「風の殺気!」
連続して小雪は真空刃を放つ。
迅鬼は避けながら、
「居合みたいな一撃必殺の剣を連射するなんざ、可愛い嬢ちゃんのやることじゃないねぇ!」
迅鬼は小雪に向きあったが、連続して飛んでくる真空刃を警戒し、前へ進めない。
小雪の真空刃は、通常の居合のように鞘に収めず、抜き身のまま発生させる。
超人的なスピードと鋭く尖らせた心気を鞘の代わりに使い、抜刀時の効果を連続で得られるようにしている。
「ぐわぁ!」
またもや迅鬼の背後に、斬撃が見舞われた。
迅鬼が振り返ると、離れたところで刀を縦に構えた天登が、峰に掌を当て、心気を込めている。
「青天の太刀……、斬気閃!」
刀から青白い心気が高速で飛んでくる!
小雪の真空刃が物理現象であるのに対し、天登の斬気閃は心気を鋭く高速で飛ばしものだ。
どちらも中距離斬撃を可能とするもので、かつ連射されるため、迅鬼は対応に苦慮した。
「チクショウ、お前ら厄介だなあ、へへへ!」
しかし余裕は失っていない。
パテラの幹部クラスとも言われる迅鬼ともなれば、天登や小雪と、自分との力量差は十分に認識している。
「ちょっとだけ本気だしてやろうか、へへへ、吠え面かくなよ!」
迅鬼は妖気を溜め始めた。みるみる凄まじい妖気が迅鬼にみなぎっていく。
天登は改めて、今までの妖魔との格の違いをみるようだった。
「いくぜ!」
「?」
迅鬼が消えた。
天登と小雪は、完全に敵を見失った。
と次の瞬間、天登の目の前に迅鬼が現れた。
「ガラ空きだ!」
天登の腹部へ、妖気みなぎる拳が叩き込まれた!
心気を集める間もない!
天登は嘔吐し、うずくまろうとした時、顔面へ強烈な膝蹴りが入った! 天登は額から血を出しながら吹っ飛ぶ!
小雪は迅鬼の背後から技を放つ!
「玉串!」
一撃必殺の激しい突きの技だ。
しかし、迅鬼の背中を通らない。力を一点に集中する突きが通らないほどの強度を、妖気みなぎる迅鬼の身体は手に入れていた。
「嬢ちゃんも、そろそろおイタが過ぎたなあ」
迅鬼は後ろ回し蹴りを小雪の腹部に見舞った。
小雪は一撃で吹っ飛び、神社の柱を突き破って飛ばされた。
「もろいなぁ、人間てのは。ちょっと本気出すとこれだもんなあ。こんなもれくて弱ぇのに、なんでこんなに増えてんだか」
天登も、小雪も、虫の息だ。
迅鬼は、両手に天登と小雪の首を掴み、持ち上げた。
「こ、小雪、家族は……?」
「わたし、が、出るときに、逃した……」
「そうか……、よかった……」
「他人の心配は済んだかい? あの世で仲良く心配してればいいさ、あばよ!」
迅鬼が力を込めようとした時、凄まじい突風が吹いた。
「くっ、この風はまさか!」
迅鬼が叫んだ時、何かの影が横切り、天登と小雪の2人を抱き抱え、空へ飛び上がった。




