69.最凶、再び
「あとは、あいつだけだ」
天登が呟いた。
小雪は、短期間で見違えるように強くなった天登に、驚きと頼もしさを感じた。ついこないだまで、夜回りで私についてくるのに必死たったのに……
しかし今の天登は遠隔攻撃に加え、剣も振るっている。
破邪士として理想的だ。
最後の妖魔が、パチンと指を鳴らした。
「ずいぶん腕を上げたじゃねぇか。この間まで瑠川の変態野郎に守られてやがったのによぉ」
妖魔がゆっくりとフードをとった時、天登と小雪は戦慄した。
それは、迅鬼だった。
「……!」
「小雪っつったか……。お前を初めて見た時、早めに殺しておかないとと思ってマークしてたんだ。仲間と離れる時を狙ってたんだが、もう1人、殺しておきたいやつができたわ。ラッキー」
「……」
天登は、瑠川との修行中、迅鬼に殺されかけたことを思い出し、本能的に恐怖を感じた。
「くっ……!身体が、震えて動かない……」
小雪は、天登の異変を察知し、前へ出た。
「私がやる」
「ほぉ。ひとりでやるのか? 俺相手に? さっきの雑魚どもとはちがうぜぇ、俺は」
「あれから10人以上は腕利きの破邪士を食ったしなあ。お前らがどんなに鍛錬しても、俺は飯を食うだけで、簡単に、お前らより遥かに、強くなれんだよ!」
「ごちゃごちゃうるさい」
「悪かったなあ、だが俺は、戦闘中のおしゃべりが大好きなんだ。おっそうだ!」
何かを思いつき、迅鬼はさらにパチンと指を鳴らした。
「なあ嬢ちゃん、その天登ってやつ、俺が怖くて動けなくなってんだろ?? そんなへタレやめて、俺の女になんねぇか? しばらくは食わずに可愛がってやるからよぉ」
「……」
小雪は無視し、剣を握り直して、隙を伺っている。
「そういや、瑠川の女も、いい女だったなあ。破邪士じゃなかったけど、なぜか心気をたっぷり含んでやがった」
「その人を、どうしたんだ……?」
小雪は目に激しい怒りを灯している。
「あぁ? 食ったに決まってんだろうが! 正確には、楽しく遊んでから、食っただな。瑠川のお留守中に……」
「お前を……殺す!」
小雪は怒りで打ち震えている。
「あの時、食い終わる前に戻った瑠川に半殺しにされてよぉ。なんとか逃げたけど、それから俺は打倒瑠川を誓ったんだなぁ。食後の一服を邪魔されたんでなぁ」
小雪は一瞬姿を消し、迅鬼の首を狙って剣を横払いした。
手応えを感じ、迅鬼の首が飛ぶ。
しかし次の瞬間には元の情景が戻った。
迅鬼はそのまま生きている。
小雪は何が起こったかわからない。
「嬢ちゃん、焦るなよ。この小便野郎を殺したら、遊んでやるからヨォ」
小雪は、何度も何度も迅鬼を切りつけた。
その度に迅鬼を死に至らしめる急所を狙い、実際に手応えを感じる。
しかし、次の瞬間には元の情景に戻る。
訳がわからない。
「小雪!」
天登の声がかすかに聞こえた。
「小雪!」
だんだん大きくなる。
「小雪! それは迅鬼じゃない!」
小雪は、はっとして我に返った。
すると激しく切り合っている天登と迅鬼が目に飛び込んできた。
そばには、木が倒れている。
小雪は、自分が幻覚を見ていたことを自覚した。
迅鬼と思って何度も切ったのは、樹木だった。しかしどうして……。
「へへへ、我に返りやがったか。お前はあとでゆっくり弄びたいからな。先にこの邪魔者を片付けようと催眠をかけたのさ」
「どうやって……?」
「最初から俺が指を鳴らしていただろうが。妖気を音に乗せると、催眠ぐらい簡単なのさ。お前は知ってるだろう? 天登?」
「あぁ、知ってるさ。そして一度使った相手にはもう効かないことも」
「そうだ。だからカラクリを明かしたんだ。ゆっくり夢みておきゃ、そのまま楽にあの世に行けたのによ、嬢ちゃん」
「小雪、残念ながら、コイツは今の俺たちの力を超えている」
小雪はうなづく。
「だがこいつは、野放しにはできない。人や破邪士への被害が大きすぎる」
「うん。差し違えてもってことでしょ?」
「あぁ、俺は、こいつはそうしてでも止めなきゃいけないと思う」
「私も。もとより、いつもそのつもり!」
小雪は地を蹴って、迅鬼に突進した。




