68.成長した二人
なんと、天登が登った木の上に、妖魔がいたのだ。
右手に構えた望遠鏡で、しきりと本殿を窺っている。
偵察に集中している。
天登が妖魔に悟られないよう心気を抑えて接近したため、こちらには気づいていない。
灯台下暗し状態だ。
天登は息を抑えながら、望遠鏡の先を凝視した。
窓辺に、人影がチラチラと動いているように感じる。
妖魔の口元がニヤリとし、左手で妖気を溜め始めた。
(こいつ、あの人影を攻撃する気だ)
8血以上のため、溜まっていく妖気もすさまじい。
天登は音もなく夕霧を抜いた。
(心気を一瞬で刀に伝え、斬っなあとすぐに消さないと、他の妖魔に見つかる)
天登は、妖魔が妖気弾を放つ直前に狙いを定めた。
「…………、今だ!」
天登は素早く夕霧を一閃した。
妖魔の首は胴から離れ、身体がぐらつき、木から落ちそうになる。天登は落ちてきた首を左手で、倒れてきた身体の首根っこを刀を持った右手でなんとかつかみ、死体の落下を防いだ。
両足で自分の姿勢を保ち、妖魔の死骸が蒸発するまでしばらくそのままでいた。
天登は小雪にlimeした。
「1体倒した。東側の木の上にいた。本殿裏手のガラス戸に映った人影を攻撃しようとしていた。窓には近づかないようにしてくれ」
「OK! ありがとう」
「もう一体に心当たりは?」
「東側にいたなら、西側かも。居住スペースで縁側になっていて、庭から開放されている」
「西側か……。地上の4体に気づかれずにそっちへ回るのは至難だ……」
「大丈夫。一体を倒してくれたんだから、遠隔の連携攻撃はなくなった。奇襲でなんとかなる。心気弾で、西側の樹々を広範囲に攻撃できないかな?」
「できるけど、それだと、妖魔が隠れていたとしても、大したダメージにはならないよ?」
「大丈夫。あとは任せて!」
天登は隠密行動は終わりと悟り、両手に心気を溜めながら、本殿の瓦屋根に飛び移った。
「彗星弾!」
天登が天に向かって放った気弾は、上空で無数に弾け、本殿西側の木々に降り注いだ。
「妖魔はどこだ?」
天登は目を凝らすが、まだ出てこない。
その時、樹間から一体の妖魔が上空に跳び上がった!
弓矢を番え、天登に狙いを定めている。
矢の先には多量の妖気が込められていることがわかる。
天登は高速で攻撃が来る、避けられないと察し、両手をクロスして防御姿勢をとった。心気を全力で集中し、鋭利な攻撃も弾くつもりだ。
とその時、神社の縁側から素早い黒い影が飛び出した!
その影は上空の妖魔の真下に入るや否や、電光石火のごとく直角に上空へ跳ね上がり、妖魔と交錯した。
逆光になっていて天登には影が重なったようにしか見えなかった。
交錯した影は二つに分かれ、落下してきた。
ふわりと着地したのは、小雪だった。
次いで、妖魔が頭から落下し、地面に激突した。
よくみると、妖魔は頭からではなく肩からだった。首から上は胴から離れ、小雪が髪の毛を握り、立っている。
すぐに妖魔の首と胴は蒸発し、消えた。
天登は屋根から飛び降りた。
「小雪!」
「天登。遠隔型が2体だと空中を狙われるから動けなかったけど、あなたが一体倒してくれたから、私が飛び出せた。ありがとう」
「あと4体だね」
「うん」
表の境内にいた妖魔4体が集まってきた。
「なんだよぉ、この神社にはこんな麗しい巫女さんがいんのかよぉ! 早く言ってくれよぉ、おじさん頑張っちゃうよぉ!」
「へへへへへ、お前だけずるいぞぉ、お前は男を殺れよう。俺が巫女を喰らうんだぁ」
「君たち、下品だぞ。お嬢さん、あなたは、私が綺麗に皿に盛り付け、美味しく食してさしあげます」
三体が口々に、小雪に狙いを定めることを宣言している。
しかし小雪は無表情だ。
秘刀「楓」を握り直し、直刃を下に向けた。
天登は後ろのフードを被った長身の男が気になった。見たことがある気がする。
「げへへへへ!」
「ふぉぉぉぉ!」
「ハハハハハ!」
三体の妖魔が一気に襲いかかってきた。
小雪が前へ出る前に、天登は奴らの足元へ、左手で10発の心気弾をばら撒いた。
爆発の中で敵が足を取られた気配を感じる。
同時に天登は夕霧を抜き、気合を込めた。
「うおおおおお!」
夕霧に天登の豊富な心気が染み込むように伝わる。
刀が貪欲に心気を吸い込み、やがて剣が青く輝き出した。
爆風から最初に現れたのは、紳士口調の妖魔だった。
「あなた! 土埃とは汚いですよ! やはり破邪士というものは騎士の風上にもおけな……!」
言い終わる前に、天登の剣の一閃が、妖魔の口から上を切り離した。
切られた妖魔は仰向けに倒れる。
小雪は2体が土煙から現れるのを待ったが、風が吹いて視界がクリアになった時、2体とも胴と首が切断され、倒れていた。
天登の一閃で、2体とも倒されていたのだ。




