67.小雪のピンチ
天登はゴテンを出て、少し晴れやかな気持ちになっていた。
妖魔は敵だ。
母さんやあかりに対してされたことを、俺は絶対に許さない。
虐魔のような奴もいる。
それが、パテラや、その王である龍虎の意思の結果ならば、俺は龍虎を伐つ。
しかし、全部の妖魔がそうではない。
天守様が言うとおり、見極める目を持とう。
持てるよう、精進するんだ。
慶次が回復するまでしばらく出撃はなさそうと聞いた天登は、母の病院へ行ってみた。
母はやはり眠っていたが、穏やかな表情に天登は安堵した。
正式に破邪士になったこと、狗縷巣との戦い、妖魔について持った疑問など、天登は眠り続ける母に語った。
あかりは来ていないようだったが、新しい花が生けてあり、頻繁にあかりが母の世話をしてくれていることがわかる。
ありがたさに胸が熱くなった。
いつのまにか、母のベッドの端に突っ伏す形でうとうとしていた時、スマホが震えた。
小雪だ。
珍しいと思いながら、天登は病室を出て、受信をタップした。
「もしもし?」
「もしもし、天登です。どうしたの小雪?」
「あの……、わたし、ピンチです……」
「ピンチ? どうしたの? 詳しく!」
「わたしの家が、妖魔に包囲されています……。支えきれません……」
「!!」
「今すぐ行く!それまで持ちこたえるんだ小雪!」
「ツーツー」
電話は切れてしまった。天登は、病院を飛び出した。
小雪の家は神主をしている。
破邪士の家系では珍しくなく、錦の雨神楽家も、古くに伊勢の宮司の家系から別れた。
神主である父が病に倒れたため、支えるために一旦実家に戻っていた小雪に、異変があったのだ。
天登は錦にもらった夕霧の鯉口を握ったまま走り、小雪の実家である神社の石段下まできた。
ここから100段ほどの石段を上がると、神域に入る。
一気に駆けあがろうとした時、またスマホが震えた。
「はい! 小雪?」
「うん」
「下に着いた。今から上がる。ご家族は無事?」
「うん、でも、来ちゃダメ。8血、9血が6体いる」
「でも、行かないと助けられない」
「遠隔攻撃のやつが2体いる。そいつらだけ片付けてくれれば、私が討って出られる」
「そいつらは、どこにいる?」
「わからない。本殿を取り巻く木々のどこかから狙ってるとは思うんだけど……」
「ちょっとは、時間をかけていい?」
「もう丸1日耐えてるから、多少は」
「わかった。石段を避けて、離れたところから近づく」
天登は神域を頂く小山の反対側に回った。
木々と薮と草に覆われ、獣も通らないような斜面を、天登は慎重に上り始めた。
音や気配で悟られては元も子もない。
20分ほどかけ、ようやく神社の裏手から甍を確認できる場所まで来た。
妖魔はどこにいるかわからない。
側に一際高い杉の木があり、天登はそろそろと登ってみた。境内がよく見える。
(いた。妖魔が1、2、3、4体。棍棒、槍、剣、素手。あと2体が木の上にいるんだな……)
天登は目を凝らして、建物を狙えそうな位置にある木を探し、見渡してみた。
(高い木は限られるな。境内の水場と、端にある大樹と、この木か……。ん?)
天登は、上を見上げて驚き、思わず声が出そうになった。




