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66.天登の疑問

 「あら津神つがみ天登あまと君、どうしたの?」


 天登あまとは天守の部屋にいた。


 「暴走族の狗縷巣くるすとの戦いじゃ、大活躍だったそうね。雨神楽あめかぐら君が一緒だったとはいえ、10血が相手じゃ大変だったでしょう?」


 「……」


 黙っている天登あまとをみて、天守は悟り、微笑んだ。


 「何か、聞きたそうね?」


 「はい。妖魔のことです」


 「狗縷巣の幹部に、アキラという妖魔がいました。8血で、遠隔攻撃と、異空間に敵を閉じ込める技で、俺たちは苦しめられました」


 「うん」


 「彼は怒っていました。300人の狗縷巣の構成員を俺たちが倒したからです。俺は、10血と戦っていたにしきさんや、他の幹部を一人で引き受けてくれた慶次けいじのおかげで、時間をかけて巨大心気弾をつくり、それで200人近くを一気に倒しました」


 「えぇ」


 「彼は、仲間を倒されたことに強い怒りを覚え、俺を攻撃しました。俺は異空間に閉じ込められ、戦いから遮断され、慶次けいじに攻撃が集中することになりました。仲間をやられる気持ちをわからせてやると」


 「そう……」


 「あの、天守様、俺が言いたいのは……」


 「わかりますよ。妖魔なのに、なぜ、そこまで仲間を慕うんだと……」


 「はい。妖魔は本来残虐で、利己的で、強欲な存在で、連帯感から組織されるような個体ではないと聞きました」


 「一般にはそうね」


 「でも、狗縷巣は、少なくとも幹部の一部には、何か絆のようなものが通い合っているように感じました。リーダーで10血のトオルが、仲間を盾にするような行動を取った時、幹部のアキラがトオルに怒りをぶつけました。そのあと、トオルは明らかに戦意が落ち、俺たちに倒されました」


 「そんなことがあったの……」


 「はい。アキラは過去、破邪士に襲われていたところをトオルに助けられ、一緒にいるようになったと言っていました。仲間とただつるんでいるだけで、楽しかったと。なぜ、妖魔は人間と殺し合わなければいけないのか、そんなことがなけりゃ、ずっと仲間と一緒に笑っていられたのに……。そう言いながら、彼は死んでいきました」


 天守は、絞り出すように語る天登あまとを、真っ直ぐに見つめていた。


 「天守様。妖魔って、全部が悪なんでしょうか? 俺、アキラとなら、普通に出会えば、きっと良い友達になれたんじゃないかと思います。彼は8血でした。8割が妖魔の血であっても、そんな奴もいたんです」


 天守が口を開いた。


 「あなたの疑問は、雨神楽あめかぐら君も聞きに来たわ」


 「にしきさんが?」


 「そう。内緒よ。彼の伊勢の家は、代々破邪士の家系ってことは知ってるわね? 独立して活動していた彼が、ゴテンの破邪士組織に参加する時、彼は私に、真っ先にそれを質問した」


 「!」


 天登あまとには、信じられなかった。

 にしきは誰よりも妖魔に厳しく、倒すべき相手と見定めていると感じていたからだ。


 「彼の家は破邪士家系だけど、それは武を持って伊勢を守るのはもちろんな一方、話のわかる妖魔は味方にしたり、付き合いを持って、均衡を保っていた。妖魔にも千差万別の個性があって、良い妖魔、凶悪な妖魔、人間を襲う妖魔、人間社会に興味や憧れを持って、社会参加したがる妖魔とか、いろいろなタイプがいたの」


 「まるで、人間みたいだ……」


 「そうなの。雨神楽あめかぐら家は、そんな妖魔の本質を見抜き、伊勢という広大な神域が存在する地で、心気を含む人間が生まれやすい、つまり妖魔からすれば襲いたい人間が多い地を、見事に均衡させていた。これは武をもってだけでは、到底なしえないことだったと思うわ」


 「そうだったんですか……」


 「雨神楽あめかぐら家では、孤児だった女の子の妖魔を引き取り、養っていた。にしきは、血のつながりはなくとも、その妖魔と兄妹のように育った。そんなこともあって、今までのやり方では伊勢や日本を守れないと感じた雨神楽あめかぐら家が私達に合流した時も、方針を確認する目的もあって、私のところに来たんだと思う」


 「にしきさんも、疑問だったんだ……」


 「そうね。にしきだけじゃない。名うての破邪士は、皆その疑問を持っている。大半は胸に秘めて、自分の中で折り合いをつけている。伍代も、瑠川るかわも、胴間も、安藤も……」


 「そうだったんですね」


 「私の答えは、残念ながら『わからない』です。その事実をどう扱えば良いか、私にはわからない。多様な妖魔に一律の態度で望むことが良いことか、悪いことか。国はこの組織の推進に当たって、妖魔を絶滅させることを目標に置いている。これを間違いとは思わない。中途半端な気持ちで対峙できる相手ではないことは、あなたもよくわかっているはず。こちらが全力で戦わないと、妖魔を殺し、絶滅させるつもりでかからないと、絶対に負けます。私たちの負けは、人間社会の終末を意味します」


 「それでも、あなたが、にしきが、気づいているように、我々と友人になってくれる妖魔もいる。私は、この事実は、事実として、しっかり受け入れたいと思う」


 「はい」


 「そもそも、人間同士だって、心底分かり合えることなんてまずない。いろんな奴がいるんだから。だから、戦いの中で、自分で見極めなさいと、私はにしきに言ったわ。その目を養いなさいと。私ももちろん、そう努めなければならない。だから、同じことを、私はあなたに命じます」



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