46.普通とは……?
私は、いつのまにか眠っていた。目覚めたら、窓から入る光の量から、もうお昼ぐらいかなと思った。
両親は出かけたかな?
出て行ってみよう。よいしょ。なんとか立ち上がれた。
居間に行くと、なんと昼間なのに父がいた。
「何勝手に出てきてんだてめぇ!」
わたしは咄嗟に逃げようとしたが、髪を掴まれた。
「あ、こいつ汚ねぇ! 何しやがんだ!」
髪についた血に触れたようだ。
「お前は親に迷惑ばかりかけるやつだ! 思い知らせてやる!」
今度もグーだった。ビンタの方が血が出ないのに……。何度かのグーで、わたしは再び気を失った。
目覚めたのは、再び浴室だった。
下着がぐっしょり濡れているから、気を失った時におもらししちゃったんだろう。気を失う前は顔をグーで殴られたと思ったけど、今はお腹も痛い。おもらしで余計に殴られたのかな……。
窓から入る月明かりで、もう夜なんだとわかった。お腹空いたな、寒いな、わたし、なんで生まれてきたのかな? これが普通なのかな? 学校に行ってる同じ歳ぐらいの子達は、みんな元気で楽しそう。
どっちが普通なのかな? わたしみたいなのが、たくさんで、学校に行く子が、特別なのかな?
人間の子どもは、こうやって生きてるのが、普通ってことだよね……?
冷たい床、なんかもういいや、眠くて、寒くもなくなってきた……。このまま……。普通で……。
「普通なわけないだろ!!」
誰?
男の人の声……。でも父じゃない……。
「君! 大丈夫? 話せる?」
天登は持参した毛布で女の子を包んだ。意識があることを確認し、経口タイプの補水液を口に含ませる。
「よし、飲んでる。もう大丈夫だよ。よく頑張ったね」
なんで、このお兄ちゃん、泣いてるんだろう。
「よく頑張ったね、よく頑張ったね、こんなの普通じゃないんだよ。おかしいんだよ」
天登はスマホを取り出した。
「一人、女の子を保護した! 妖魔は、まだ。うん、この家にしっかり気配がある。わかってたけど、この子を先に助けたかったんだ。2人とも、そっちは済んだんだね。わかった!」
「よし、もう大丈夫だ。お兄ちゃんの背中に乗って。お馬ごっこみたいに」
お馬ごっこって何? 知らない……。
「とにかくまずはここを出よう、乗って……」
天登は、女の子のあまりの軽さに、思わず膝が崩れた。
「お兄ちゃんどうしたの? 重い?」
「そうじゃない、そうじゃないよ……。ごめんね、俺たち来るの、遅かったね、つらかったね……。とにかく、ここを出よう」
天登は女の子を負ぶって立ち上がり、アパートの玄関に向かって進んだ時、前に大きな人影が立ち塞がった。怒りで打ち震えている。
「何してんだあああああ!!」
天登はあらかじめ左手に強めの心気弾を、ピンポン玉程度に凝縮させていた。
「こっちのセリフだぁぁ!」
天登はそれを、妖魔と化した父親の顔面に叩き込んだ。妖魔が吹っ飛ぶ隙に、部屋を出る。アパートの階段を下り、慶次、小雪と合流する予定の河川敷へ急いだ。
女の子を背負っているが、速度に支障はない。そこにはアクラも来てくれているはずだ。
「ぐおおぉ!!」
咆哮と、玄関のドアが破壊される音が後ろで聞こえた。この妖魔も、並のクラスじゃない。
天登は全力で走った。




