45.虐待
新章、破邪士使命編をスタートします。
8歳の自分にとって、食べることは即ち生きることだった。
それは、楽しいや、美味しいという感情を伴う行為ではなく、ただ死なないために、命の火を消さないために、身体に燃料をくべる作業だった。
だから、食事にありつけたときは、ガツガツと食べた。
食事は、不定期に与えられた。
物心ついたときから、決まった時間に摂ることはなかったから、そういうものだと思っていた。
母は、気が付いた時に菓子パンなどをくれたが、それも父の目を盗んでだった。
父は、母がわたしに施しをすることを毛嫌いしていた。なぜかはわからないが、父親とはそういうものだと思っていた。
ある日、あまりに空腹で、私は道に何か食べ物は落ちていないかと、アパートを出て1人で、ふらふらと外へ出た。
木枯らしは冷たかったけど、裸足でいるのが普通だから、足には何も感じなかった。
側溝にコンビニ弁当の箱が捨ててあった。残ったご飯が入っていないかと、伏せて手を伸ばした。母がたまにくれるから、コンビニ弁当のご飯の味は知っていた。
もう少しで手が届きそうと思った時、声をかけられた。大人の男性だった。母が見ていたドラマを盗み見した時に出ていた。「ケーサツ」という人だ。
「おじょうちゃん、どうしたの? 何か落とした?」
わたしは立ち上がって、首を横に振った。「ケーサツ」の顔が怪訝なものになった。
あとで考えると、わたしの格好があまりに汚くて、肌もアザだらけなこと、平日なのに学校に行かずフラフラしていたこと、捨てられたコンビニ弁当のガラに手を伸ばしていたことから、すぐに要保護と感じたようだ。
わたしは交番に連れて行かれ、家や両親のこと、アザのことなど、いろいろ聞かれたけど、そのときは何のことを聞かれているかわからなかったから、黙っていた。
「ケーサツ」が、あったかいおそばをとってくれた。油揚げが載っていて、こんなに甘くて美味しいものがこの世にあるのかと感じた。おつゆなんて、体に染み入るように味わって飲んだ。コンビニ弁当のご飯より美味しいものはないと思っていたが、「おそば」は、その上をいっていた。
やがていくつかの場所に連れて行かれ、何人かの大人に話しかけられ、身体を見られ、夕方にアパートへ送られた。
父と母は「ケーサツ」にペコペコと頭を下げていたが、わたしはなぜ両親がそうしているのか分からなかった。
「ケーサツ」が帰ったあと、父からひどく怒られた。いつものビンタではなく、その日はグーだった。グーは嫌だ。痛いのを我慢しても、血が出る。血が出てお部屋を汚すと、またグーが来るから。
わたしは気を失っていたようだ。気づいたら、お風呂場で横たわっていた。
真冬の、深夜のお風呂場。
あまりの寒さに目が覚めたんだと気づいた。流れ出た鼻血が髪にべったりとくっついていて、気持ち悪い。
このパターンだと、朝になって両親が出かけるまでここにいなきゃいけない。出て行って万一見つかると、また殴られる。
でも、ここは寒いなあ。床に溜まっていた水が氷のように足先を冷やす。お腹が空いたなあ。




