42.破邪士頂上会議
「うぃっす!」
ザブンっと湯船が揺れる。
「何拳握ってんだ、天登!」
「慶次!」
「おぅ! 今日はお疲れ! 小雪ちゃん、どうだ?」
「あぁ、もう大丈夫だよ。全治3日。普通にご飯も食べてるって」
「そりゃよかった! あの子の根性すげぇな! てかお前も信理との一戦で、突っ込んでいってたな! 瑠川先生の流儀がそうなのか?」
「いやーー、ハハ! そういう訳じゃないんだけど、特に俺は実戦経験が乏しいから、あれしか思いつかなかった……!」
「ま、勝てばいいんだよな! ハハハ!」
「しかし、雨神楽錦さんは、えげつねぇな」
「あぁ、まるで太刀打ちできなかった」
「そうでもないと思うぜ」
「え?」
「俺は師匠の胴間さんから、錦さんの強さは事前に聞いてたんだ。ゴテンでも前から噂になっていたようだ。大型スーパールーキーが来るってな」
「胴間さんは、錦さんは剣を抜かずに優勝するだろうって言ってた。だけど俺たち……」
「錦さん、剣を抜いた!」
「そうなんだよ。2人がかりとはいえ、抜かせたんだ。俺たちやったよな!」
「そうだ!」
「俺たちも素質あるってことだ! 頑張ろうぜ!」
「おぅ!」
天登と慶次は、裸のまま立ち上り、笑顔で拳を合わせた。
◇
その時ゴテンでは、破邪士頂上会議が行われていた。
「事態は深刻だ」
伍代が話している。
「今年に入って、妖魔が絡むとみられる事案は前年比42%増えてる。人間が死亡、または食われるかして行方不明になってるのに限ると、70%以上の増加だ」
「それに地域も広がりを見せている。前は北海道が絶対数でも人口比でも突出していた。だから俺たちは、龍虎の拠点、パテラが北海道にあると踏んでいた。それが、全国満遍なく増えている」
「ついに龍虎が、人間社会への総攻撃を開始した、ということなの?」
安藤千夏が怪訝な表情を浮かべた。千夏は網川樹々《じゅじゅ》の担当教員だ。
「違いないな。俺の担当エリアでも、明らかに妖魔の活動は活発化している。それに、より組織的になってきた印象さえある」
胴間が感想を述べた。
その隣では海堂心理の父、正治が文献を繰っている。
「記録によると、約80年前もこんなことがありましたよね?」
「それは、戦時中に日本の国力が著しく衰えた時ね。まさに人間社会の弱体化を好機とみた妖魔が、攻撃を強化した」
瑠川が答えた。
「なるほど、しかしあまりに早い戦後復興に、妖魔は次第になりを潜めたってことですね」
正治が眼鏡を直した。
「そうだと思うわ」
「ではなぜ、今になって……」
皆の疑問を、千夏が口に出した。
「妖魔側の準備が整ったってことね」
天守が口を開いた。
「かつてなく、戦力の配備が進んだってことだと思う。龍虎の代になってどれぐらい経つか、正確なことはわからない。でも彼が、単独行動の習性を持つ妖魔を、組織として統制し、戦略的に行動させはじめたことは明らかね」
「これまで妖魔が、力で勝る人間になぜ勝てなかったかを、彼は分析し、組織で、集団で行動する人間を、倣ったんだと思う」
一堂、シンとした。
皆が、妖魔が一致団結したときの恐ろしさを想像し、背筋を凍らせたのだ。
それは、これまで唯一、そして絶対の、人間が妖魔に勝っている一点だった。その優位が崩れる……。
「みんな、希望がないわけではないわ。今日の試合を見たでしょ? 今年のルーキー達のレベルは、例年を遥かに上回っている」
「私達の戦力も、かつてない水準にある。引き続き、人間社会の被害を最小限に抑えつつ、パテラの探索を継続します」
「はい!」
「明日はルーキーたちのチームアップね。今年は全員が即戦力だから、当初から実戦投入していきます。皆さんフォローをお願いね」
「はい!」




