40.雲上
「それでは、天守御前試合、決勝、三つ巴戦、開始!」
慶次と天登は、後ろに飛び退き、それぞれから距離をとった。
錦は動かない。
(どうする? 慶次はものすごく強いし、完全なる近接型。遠隔型の俺には不利な相手だ。そして雨神楽錦。シードされていたから、戦い方がわからない。背中に負った大剣から、彼も近接型だと思うが……)
天登がどう仕掛けようか考えている時、慶次が動いた。
「雨神楽さん! あんただけ、まだどんな戦い方かわからない! だから仕掛けさせてもらうぜ!」
慶次が錦に向かって突進した。
信じられないバネだ。
一気に距離が詰まるが、錦は微動だにしない。
「シュッ!」
慶次が右ストレートを繰り出す。
誰もがヒットしたと思ったが、次の瞬間、錦は慶次の背後に立っていた。
慶次はすかさず、後ろ回し蹴りを放つ。錦はこれも難なく跳躍でかわす。
落下時を狙って慶次が左フックをかける。心気が追いつき、威力もスピードも大きく上がった。
錦はこれを空中で左手で受けた。錦は小柄な方だ。身長も160cm台だろう。しかし、大柄な慶次の強烈なパンチを難なく止めた。天登はこの間、左手で右手首を握り、心気を集中させた。そのまま右手を地面に向けて心気を大きく溜めつつ素早く移動し、錦の側面に出た。
「これでどうだ! 心気弾!」
空中で慶次の打撃を受け止めた錦の左側面へ、渾身の一発を放った。慶次はすかさず距離を取った。
(錦さんは空中で身動きがとれない。どうするだろうか?)
大きな爆発音が起こり、天登の心気弾が錦へ命中した。
しかし一筋の光が煙を裂き、視界が一気にクリアになった。
錦は、無傷だった。
皆が注目したのは、彼の大剣だった。彼は身の丈に近いような大剣を、細い腕で軽々と扱い、肩に乗せている。
心気を剣芯に秘めていることは、一眼でわかる。
天登の渾身の心気弾も剣で受けたのだ。
錦は大剣を一振りした。
すると凄まじい衝撃波が天登と慶次を襲った。
突風ような衝撃に抗えず、天登、そして慶次の2人は、広間の端へふっ飛ばされ、壁や柱に全身を強打した。
なんとか受け身を取った2人がヨロヨロと立ち上がろうとした時、錦は剣を鞘に収め、天守の方を向き、黙礼した。
天守はうなづき、沙夜へ目配せした。
「そこまで! 勝者、雨神楽錦!」
天登にも、慶次にも、異論はなかった。
錦との力の差は、圧倒的だった。
錦が本気を出していないことは嫌でもわかる。
それでもこの差だ。
天登と慶次は、今起こったことが信じられない面持ちで、呆然としていた。




