34.小雪の覚悟
五右衛門の渾身の技「万空波」が迫る!
小雪は一瞬目を閉じ、すぐにカッと見開いた!
刀を抜き、目の高さに水平に構え、左手を広げ、刀に添えた。心気を剣尖へ集中させる。いつの間にか、外套を脱ぎ、右腕にぐるぐる巻きにしている。
小雪は、五右衛門が作り出した斬撃の半球体へ突っ込んでいった。
「白華剣、玉串!」
小雪は構えた右腕を一気に伸ばし、反球体の中へ突き入れた! そのまま身体ごと、半球体に飛び込んでいく! 再び白い閃光がカッとあたりに満ち、観客の視力を奪った。
今度は一瞬ではなく、しばらく、光は消えなかった。そのままで、声が聞こえた。
「参った」
男の声、五右衛門の声だった。
閃光が消え、皆の目も慣れてきた時、誰もが目を疑った。
なんと、五右衛門の背後に小雪が立っていた。小雪の刀は五右衛門の首に肉薄している。
小雪が勝ち、五右衛門が降参したのだ。
しかし観客は、勝者敗者の関係を間違えたかと思った。
小雪は全身が深い切り傷でズタズタになっており、出血量から立っているのがやっとだとわかる。
心気で必死に止血しているが、無傷の五右衛門に比べ、限界なのは誰の目にも明らかだった。
五右衛門が叫んだ。
「この勝負は拙者の負けでござる! 早く勝者に傷の手当てを!」
古舘沙夜が叫んだ。
「勝者、日皐月小雪! 救護班、急いで!」
天登はすぐに小雪に駆け寄り、抱きかかえた。
「小雪、大丈夫か? しっかりするんだ! 君が勝ったぞ!」
小雪は一瞬笑みを浮かべた。
脇に控えていた3人の救護班がすぐさま小雪に駆け寄った。
しばし傷の状況を診るたあと、
「命に別状はないようです」
と報告した。
担架に乗せ、運んでいく。
そばにいた五右衛門が、いつのまにか天登の近くへ来ていた。
「そこもとは、小雪殿の仲間か? すごい少女だ。拙者も、もっともっと精進せねばならん」
五右衛門は、運ばれていく小雪の方へ向かって一礼し、続いて天守が座る上座へ礼をし、退場した。
戻ってきた天登に瑠川が声をかけた。
「五右衛門は、さっきの大技を小雪に当てるつもりはなかったんだろう。避けるには跳んで逃げるしかないはずの技だから、空中で峰打ちでもして勝負を決めるつもりだったんだろうね。それを真ん中から斬撃の隙間を見つけて、それをこじ開けて突っ込んでくるとは夢にも思わなかった。だから対応が遅れて背後に回られたってことね。五右衛門はすごい人材だよ。力量、技量は小雪を上回っている。それを小雪の観察力、スピード、咄嗟の機転と決断力、そして何より、覚悟が勝った勝負だった」
「小雪はすごく強くなっている。俺も頑張らないと!」
天登は奮い立った。
35.武丸慶次✖︎網川樹々《じゅじゅ》
「2回戦をはじめる! 武丸慶次、網川樹々《じゅじゅ》! 前へ!」
2人が広間中央に進み出た。
「はじめ!」
「俺、女の子を殴る趣味なんてないんだが、どうしたらいいんだよ」
慶次は最初から戸惑っている。
慶次は得物は使わず、素手の武闘家タイプだ。
対する樹々《じゅじゅ》は、ステッキを構え、攻撃に移ろうとする姿勢。
「よう、瑠川」
「あら大海ちゃん。武丸君、困ってるみたいね」
「へへ、あいつはお調子もんだけど、筋は通すやつだからな。女の子に手をあげることは絶対ないだろうな」
「武丸君はどのタイプ?」
「みてのとおり、近接型の格闘家だ。極限まで鍛え上げた肉体で、相手をぶちのめす。それだけだ」
「心気は?」
「あいつは不器用だからな。まぁ見てなって」
樹々《じゅじゅ》がステッキに心気を込めた。
しっとりと、かつ十分にステッキに心気が充満する。
同時に、樹々《じゅじゅ》の身体も心気に包まれる。
「行きます!」
地を蹴り、樹々《じゅじゅ》が慶次に接近し、ステッキで打撃を繰り出す。
なかなかのスピードだ。
慶次は素手で受けていく。
樹々《じゅじゅ》は思った。
「私の心気を込めた打撃を素手で難なく受けてる。こいつ、頑丈さが異常!」
一方慶次は、仏頂面で頭を捻っている。
「どうしようかなあ、受けてるだけじゃ勝てないし、かといって女の子を殴れねぇし……」
樹々《じゅじゅ》の攻撃は何ら響いていないようだ。
樹々《じゅじゅ》は飛び退き、距離をとった。
「あ、あの!武丸さん!」
慶次は驚いて応える。
「は、はい!」
「真面目にやってください!」
「え、ま、真面目にやってます! 考えてます!」
「何をですか?!」
「何をって……。君が女の子だから……」
「女だから何ですか?! だったら、そんなこと言ってられないようにしてあげます! 樹々《じゅじゅ》の、召喚術!」
樹々《じゅじゅ》は目を瞑り、ステッキの先端に手の平をかざし、神経を集中した。
するとステッキの先端から黒い雲がモクモクと立ち上がり、たちまち男性の人型に造形されていく。
やがて屈強な格闘家風の男性の、影のような姿が造形された。
「それは召喚じゃないのでは……?」
慶次が言った。
「召喚はここからです!」
樹々《じゅじゅ》は再びステッキに手の平をかざした。
ステッキからパッと上がった光が、造形物に吸収されていく。
「少年漫画ゴロゴロボールの主人公の思念を注入しました!」
「えっ?! あの大人気の?! 俺大好きなんだ!」
慶次が叫ぶ。
「さあ戦いなさい、召喚影!」
「武丸君が言うとおり、あれは厳密には召喚じゃないわね。樹々《じゅじゅ》ちゃんの心気による造形と、彼女が考える理想の格闘家像を心気に凝縮して造形物に込めたってところか。ちょうどロボットにソフトをインストールするように」
瑠川が言った。
「しかし、あの造形物やプログラムを込めた心気凝縮、あの子も只者じゃないわ。心気の量もさることながら、質も、天登のような実用向きというよりも、アートのような創造性を感じるわね」




