32.天守御前試合
「さあ、上がろうぜ」
胴間が促し、5人はゴテン本部へ入って行った。
和風装飾が豪奢に施された内装のエレベーターで上層階へ上がり、通されたのは畳の大広間だった。
広間の周囲には廊下が取り巻いており、四方の障子が開け放たれているため、ゴテン裏の紅葉山のほか、旅館街の街並み、ここに来るまでに抜けてきた森、小川を見下ろすことができる。
眺めもさることながら、紅葉山の木々は手を伸ばせば葉に触れられるのではないかという近さで、四方の自然を肌で感じることができる造りだ。
同期達はすでに到着していたようだ。
大剣を背負った小柄な男が1人、紅葉山を背に欄干に腰掛け、腕組みをして静かに目を閉じている。
畳部屋の端では、長い総髪を後ろに結び、一目で刀使いとわかる侍装束の男が、胡座をかいて端座し、瞑想している。
その反対側の端には、眼鏡の少年が畳に紙を広げ、教員であろう大人の男性と頭を突き合わせて、何やら検討中のようだ。まるで仲の良い親子のようだと天登は思った。
豊富な髪を2つに縛り、魔法使いのようなステッキを抱えた小柄な少女は、緊張した面持ちで教員らしき女性と、旅館街の方を向いて会話している。
「皆さんお揃いですね!」
大広間の奥の左脇の部屋から、女性が出てきた。
「あ、沙夜ちゃん!」
慶次が叫んだ。
皆が一斉に顔を上げる。
「古舘です。皆さん先日のリモート会議への出席はありがとうございました。広間中央へお集まりください」
「これから早速なのですが、天守御前試合を始めます。対戦表はこちらです」
沙夜の説明中に降りてきていたスクリーンに、プロジェクタが投射される。
皆、名前と顔が一致しておらず、リアクションを取る者は少ない。
①日皐月小雪✖︎田鋤五右衛門
②武丸慶次✖︎網川樹々《じゅじゅ》
③海堂信理✖︎津神天登
④不戦勝 雨神楽錦
「観戦は端で各々ご自由に。まもなく天守様と伍代さんが入られます。開始の合図で一回戦が始まります。日皐月さんと田鋤さんは、中央に残ってください」
天登は小雪を見た。
表情が薄いのはいつものことだが、気合は十分のようだ。
田鋤も目を伏せたままうなづいた。
一堂が端へ散り、小雪と田鋤のみ広間中央に残り、正面を向いて威儀を正し、並んで正座した。
やがて天守と伍代が入ってきた。
中央の座に天守、傍に伍代が着いた。
天守が口を開く。
「皆さん、ゴテンへようこそ。着いたばかりで何もわからないと思いますが、身体を動かして緊張を解きほぐしましょう。早速ですが、試合をはじめます。日皐月小雪、田鋤五右衛門、両者構え」
「はじめっ」




