28.言葉にできないこと
天登は、母の病院へ行った。病室にはあかりが来ていた。
「やあ、あかり」
天登は、あかりに母のアザについて話した。
「そう。まだ分からないことが多いんだね。でもひとまず心配はなさそうでよかった。それと天登、これみて」
あかりが神妙な顔でスマホ画面を見せてきた。動画だ。そこには、母さんが自ら右手を上げて、あかりの手を握っている様子が映っていた。
「母さんが腕を上げている!」
「そうなの。一回だけじゃない。何度かこうやってお母さんが動く時がある。お医者さんも原因がわからないって言ってるけど、その時はバイタルデータが活性化して、起きている人に近づくんだって」
「あかり、この母さんの反応は、いつが多い?」
「お医者さんは夜間って言ってて、私はあまりみたことがなかったんだけど、1週間前は、私がいた夕方に動いたのよ」
「夜間と、1週間前の夕方……」
「何か心当たりあるの?」
「いや、俺が戦っている時間帯だ。それも必死でやっているとき……。心気が関係しているのか……?」
「心気って、前に瑠川さんが言っていた、破邪士が戦う時に出す超能力だよね?」
「そう。でも昼間にやってる訓練でも心気は使ってる。夜間や1週間前は、これは実戦のときだ」
「天登の戦いにお母さんが反応しているってこと?」
「わからない。でも、可能性がある。これは何か大切なヒントのように感じる! あかり! 俺は正式に合格して破邪士になったよ! これから函館で天守さまっていう一番偉い人に会って、任務につく。妖魔のことをよく知っている人も多いだろうし、核心に近づける! 俺頑張るよ!」
「え、え、天登、函館? 北海道に行くの?」
「うん、どうやら妖魔の本拠地も北海道にあるってことで、破邪士も前線に本部を置いてるんだって。でも任務は全国にあるから、結局いろんなところに行くんだけど」
「そうなんだね! 天登、頑張って! お母さんを助けるために!」
「うん、ありがとうあかり! じゃあ俺行くよ!」
「うん、ばいばい!」
あかりは、病室を後にする天登を見送った。
そのあとも、あかりは天登が出て行った後の、ドアをじっと見つめていた。
あかりの目から、涙が溢れた。
天登と一緒にいたい。
お母さんを、天登と一緒に、一緒でなくてもせめて、同じ街で、見守りたかった。
もしくは、自分も天登について行って、お母さんを助ける方法を見つけたい。
でも、天登はそれを承知しないとわかっていた。
困らせるだけだとわかっていた。
だから、何も言わなかった。
あかりは、天登を信じて待とうと思った。
病室を出て走りながら、天登はあかりの覚悟と我慢を感じていた。
感謝をもっともっと伝えたかった。
あかりが無理していることをわかっていると、伝えたかった。
しかしできなかった。
あかりを連れては行けない。
俺が街に残る訳にもいかない。
天登は自分のあかりへの甘えに、悔しくて、悔しくて、走りながら涙を抑えられなかった。
ゆっくりしちゃいられない。
一刻も早く、母さんを助ける術を見つけ、俺は帰ってくる!
病院前には小川に沿った歩道が整備されている。
天登が走り抜けたあと、すっかり色づいた枯葉が一枚、川面に落ちた。
その葉は、真っ赤な真っ赤な、紅葉だった。




