24.アクラ
いつから、道を踏み外したんだろう……
子どもが好きで、私の知っていることを何でも教えたくて、教えて、懐いてくれるのが嬉しくて、教師になったんだった……
でもいつの頃からか、子どもを好きな気持ちが変に歪んでいった。
可愛いのに、愛おしいのに、失いたくないのに、傷つけてしまう。
可愛すぎて、抱きしめたくて、エスカレートして、女の子の耳をかじっちゃった。
泣き喚く女の子の血の味に正気を失い、気がつけばその子を丸呑みしていた。
私は、子どもが可愛いだけなのに。
私が知っていることを教えたかっただけなのに……
悲しいよぉ。悲しいよぉ。
教師になった、あの頃に戻って、やり直したい‥‥。
天登は夢を見ていた。
サキュバスの最後の思念だろうか。
彼女の、櫻井桃子としての記憶のようだった。
本物の彼女の思念かどうかはわからない。
天登の意識が戻りかけている。それに反比例するように、櫻井桃子の思念と思われるものは、意識の底へと沈んでいった。
天登が目を覚ましたのは、学校の保健室のような部屋だった。
朦朧とする意識を奮い起こし、上体を起こそうと両手を支えにしようとした。
ん? 両手で支える?
俺の左腕はほとんど千切れてたんじゃ‥‥?
その時、ベッド脇に、不思議なものが見えた。
動いている。
ん? 耳? ネコの?
天登は意識をしっかり保とうと、今一度目をぎゅっと瞑り、再び開けた。
見た。
やはり、でかい、赤いネコの耳が、ベッド横から出ている。
「ネコ……?」
天登は自分の意識がはっきりしてきたことを自覚した。
「あの、君が俺を治療してくれたの?」
異形の妖魔と戦ってきた天登にとって、化け猫程度は、可愛いものに感じられた。もとより、このネコからは邪気を微塵も感じない。
「は、はい! 私があなたの担当医の、ア、アクラです!」
耳から下の顔がのぞいた。
確かに化け猫のようだが、幼女のような可愛らしい顔つきだ。
「そうか、ありがとう。腕も、君がくっつけてくれたの?」
「は、はい! 痛くないですか?」
天登は左手をぐっと握って、開いてみた。
違和感なく、しっかりと力が入る。
「とてもいい感じだ。本当にありがとう。アクラはすごいお医者さんなんだね!」
「えへへ、よかったです」
天登は上体を起こしながら言った。
「俺は天登。妖魔と戦ってたら、意識を失っちゃったみたいだ。どれぐらい寝ていたんだろう?」
「1週間とちょっとです! 小雪さんが、ずっと寝ないで看病してました!」
アクラが指し示す方をみると、小雪が刀を抱いて椅子に腰掛けた姿勢で眠っていたが、ゆっくりと目を開けた。
「天登? 意識が戻ったの?」
「うん、小雪、看病してくれたんだね、ありがとう、もう大丈夫だよ!」
みるみる小雪の目に涙が溢れる、しかし小雪はぐっとこらえた。
「約束……。あの時、守ってくれて、ありがとう」
小雪は涙声を必死で絞り出し、一語一語を発した。
「仲間じゃないか。そんなこといいんだよ。あの時、実は俺は挫けかけていた。小雪の呼ぶ声で目覚めたんだ。俺の方こそ、ありがとう!」
天登の明るい返事に安心したのか、小雪は力が抜けたようだ。
「それで小雪、サキュバスはどうなった?」
「あなたと私で、倒した。討伐リストからも、削除された」
「人質の高校生は?」
「無事だった。2人いて、どちらも衰弱し切っていて、サキュバスに食べられる寸前だったけど、命には別状はなかった。警察病院に入院したけど、3日後には退院して、もう学校に行ってる」
「そうか! よかった! 今まで食べられた人達は助けられなかったけど、最後の被害者は救えたんだ!」
「うん」小雪がうなづいた。




