23.戦う意味
天登は、意識レベルが極限まで低下し、自己を保てずにいた。もはや、ちっぽけに残った天登の理性は、戦うことを諦めていた。
(俺、普通の高校生じゃなかったか?なんでこんなつらいことをしてるんだ?なんでこうなった?)
天登の意識が混濁してくる。その時、誰かの声がした。
(アマト!アマト!)
(誰かが俺を呼んでいる……。小雪かな……)
(アマト!アマト!)
(小雪には、申しわけないな。もう、俺はここまでだよ……)
(アマト!何のために戦っているの?)
(それは、母さんを治すためだ。分かりきっている)
(もう、やめるの?あの幸せだった日々を取り返すのを、あきらめるの?)
(……)
(それでいいの?あなたがあきらめれば、あかりちゃんもつらい人生になる。小雪ちゃんも、この場で倒れるかもしれない)
(小雪ちゃん……?この声は……、母さん?)
(そうだ。俺は、母さんを治すために破邪士になったんだ)
(あかりにも誓った。小雪も一人で頑張っている。腕が千切れかけたぐらいで、諦めている場合か!)
天登は我に返った。すると目の前に、小雪の顔があった。天登の名を呼び続けていたのは、小雪だったのだ。
「小雪、ありがとう。君の声がはっきり聞こえた。そして、一瞬夢もみてた。呼んでくれなかったら、ちょっとやばかったよ」
天登は策を思いついた。
「小雪、俺はあと一度だけ、心気弾を打つ。それでなんとか間合いを詰めて、サキュバスに攻撃してほしい」
「でも、あなたは止血に集中しないと……。それに、その左腕は、もう……」
「うん、わかっている。でもそれしか方法がない。考えている時間はない!」
天登は心気を溜め始めた。
「小雪、ただ、サキュバスの急所がわからない。でも必ずあるはずだ。俺が心気弾を散弾で打ち込む。その時、奴が無意識に庇うところ。そこが急所だ」
「わかった!やってみる!」
「あぁ。一回こっきりだ!」
「死なないで。生きてるあなたに、お礼を言わせて!」
「こっちこそだ!いくぞ!」
天登は立ち上がり、残った右手に心気を集中した。心気を集めていた左腕の傷口からは、血が吹き出しはじめた。
「お前、捨て身の攻撃だね。ご苦労なことだよ。受けてやる!放ってこい!」
その時、天登のペンダントが青く輝きはじめた。天登の心気に呼応しているようだ。
(父さんも、俺を応援してくれている!俺は、やれる!)
サキュバスは天登に残った力は少ないと見て、受け止める構えをみせた。
(身体ごと避けられたら急所を判断できないと思ってた。しめた)
天登はわざと、心気を凝縮させずにスイカ大の大きさにした。ダメージ範囲を大きくするためだ。
「くらえサキュバス!これが最後だ!心気弾……散!」
天登の右腕から飛び出した心気弾は無数の粒となり、直径1メートルほどの範囲に広がってサキュバスに向かって一直線に飛んでいく。
散弾状になった弾を受けるため、サキュバスが体の面積を小さくしようと身体を捻った。その仕草が、左脇腹を後ろにするような印象があった。
散弾がサキュバスに次々と命中する中、天登は薄れゆく意識の中で隣を見た。
すでに小雪はいない。
天登は膝をついた。気力はもう、尽きたようだ。右手で左腕の傷口を押さえる。
小雪は天登の覚悟を想っていた。
大怪我の中、自分を賭して、勝機を見出した天登を、破邪士の後輩ながら、素直に尊敬した。
「このチャンス、絶対に無駄にしない!」
小雪はサキュバスに散弾が命中する中、敵の背後に回り込んだ。急所がどこであれ、散弾から遠ざけると踏んでいた。
それは背後だ。サキュバスは小雪を目で追っていたが、散弾が途切れない!
小雪が刀に心気を込める!
「白華剣!」
小雪の刀は、サキュバスの左脇腹を貫いた。刀を握った小雪が声を上げる!
「ここから!」
切り口から心気の光がほとばしり、傷口へ心気が注ぎ込まれ、中で膨張していく。
「うぎゃああああ!!入ってくる!入ってくる!」
サキュバスが叫ぶ。
「天地、鳴動!」
小雪が叫んだ。
その時サキュバスの中で膨張した心気が極大化し、その身体が大きく膨れ上がっていく!
「ぎゃああああ!!身体が!身体がぁぁぁ!」
大きな破裂音がした。
……………………
その後、サキュバスの散り散りになった組織が雨のように降り注いだ。
降るそばから、次々に蒸発していく。サキュバスが絶命したのだ。
天登は敵の絶叫を遠くに聞きながら、意識を失った。




