21.攻撃
「なんて自己中な言いようだ。小雪、相手の能力が分からないから迂闊に飛び込むのは危険だ。心気弾で距離をとりながら、見極める」
小雪がうなづく。
天登は両手に力を込めた。瞬く間に両掌に青白い、ピンポン玉大の球体ができあがる。
「小さい‥」
小雪が呟いた。
「凝縮してるんだ。前よりも相当強力だよ」
「心気弾!」
天登が叫んだ。残光を引きながら目にも止まらぬ速さで光球が飛んでいく。
「っ!!避けられない!」
サキュバスは咄嗟に判断し、防御を固めた。凄まじい爆発音と煙が上がった。
やがて視界が開けはじめた時、天登と小雪は目を疑った。そこには人間の女からかけ離れた姿があった。
サキュバスの皮膚は紫に変色し、髪は緑色の蛇に変化していた。目は赤く血走り、長い舌が床まで垂れている。身体は白衣こそ着たままだが、皮膚は硬い鱗に覆われていて、右手には鋭利に先が尖った刺又を握っていた。爪も、巨大化した鉤爪になっている。
「あんたらただの破邪士じゃないね。6血のあの子を一瞬で葬った訳がわかったわ。こっちも本気で『食事』しないと、怪我しちゃいそう。いくわよ!」
サキュバスは一気に加速し、間合いを詰めてきた。刺又を突き出してくる。小雪が前へ出て、下から両手持ちの刀ですくい上げ、刺又を弾く。
小雪の空いた脇腹に左爪が差し込まれそうになる瞬間、天登は左手を右手の手首に添え、心力を集中し、サキュバスの腹に心気弾を打ち込んだ。クリーンヒットし、サキュバスは後ろに飛び退く。
「なかなかのコンビネーションじゃないか。あんたら付き合ってんのかい?」
(2人同時じゃ分が悪いかもねぇ。それなら‥)
サキュバスは一瞬力を抜いて目を閉じ、カッと再び目を見開いた。そして両手を自分の口に突っ込んだかと思うと、驚くべきことに、口の中から自らを左右に引き離しはじめたではないか。叫び声をあげ血が飛び散り、眼を剥いて、口からは泡が出ている。
「何をする気だ?まさか自殺する訳じゃないだろうに……」
天登が呟いた時、サキュバスの顔が真ん中で裂け、左右に分かれた。裂け目は首、胴と順番に伸びてゆき、遂に身体が縦に2つに別れ切った。
裂けた2つの身体は左右に倒れた。裂け目からは大量に血が流れ、肉はピクピクと動いている。戦闘不能か確認するため、小雪が数歩近づいた。
その時、サキュバスの傷口から流れていた血が立体感を持って凝縮し始めた。分かれた左右それぞれが独立して血の造形をはじめている。そして、それぞれがみるみる元の体の形を取り戻し、やがて2体のサキュバスが出来上がった。
それぞれ半分が血の造形のため、ドス黒い赤色をしている。
起き上がった2体が、声を揃えて言った。
「待たせたわね。この姿は好きじゃないんだけど、あんたらを相手にするには仕方ない。言っとくけど、分身のような生半可な術じゃないよ。それぞれの強さは元と同じさ。こんな風に!」
それぞれの個体が一気に間合いを詰めてきた。刺又を持っているサキュバスAは、近づいていた小雪へ向かう!小雪は刀で応戦する。
サキュバスBも天登へ突進をはじめたが、小雪はAに阻まれBに対応できない。接近戦は小雪の得意だが、遠隔攻撃型の天登は分が悪い。
Bが爪を剥いた右手を振り上げた。天登は心気を全身に巡らせ防御力を高めつつ、左手でジャマダハルを抜こうとした。
「遅いわ!」
サキュバスBは叫びながら右手を振り下ろした。天登は咄嗟に右腕で顔と胴を庇ったが、腕に大きな爪痕がつき、血が吹き出す。心気のベールを突き破っての大ダメージだ。
「くそ、痛い、めちゃくちゃ痛い……」
しかし相手はさらに攻撃を仕掛けてくる。
「そら!そら!そら!」
両手の爪を振り回し、天登に裂傷を与える。天登は両腕に心気を集中させ防御するが、裂傷の上に裂傷が重なり、もはや感覚がない。
「このままじゃやばい……!」
天登はじりじりと後ろへ下がっていたが、背後は壁。追い詰められた。小雪はAと激しい斬撃を交わし、息をもつけぬ戦いを繰り広げている。




