20.サキュバス討伐戦
事前の情報では、学校から人が減る時間帯から、サキュバスは行動すると言われている。
この妖魔は桜井桃子という名で社会に溶け込んでおり、聖職である教師の仕事をこなしながら、表向きは問題なく過ごしているのだろう。
学校校舎にかかっている時計は5時半を指している。部活動で残っている生徒も、ほぼ家路についた時間帯だ。
桜井桃子は生物教師と聞いている。2人は生物実験室がある別館校舎に向かった。
校庭の隅に生えている背の低い草も、夕日を背に長い影を作り、視界の黒の面積を増やしている。どこから何が飛び出すかわからない。心気は、空気や匂いが妖魔に伝わるため、まだ溜められない。
しかし2人は警戒心を最大にして、歩みを進めた。
別館校舎のそばまで来た。
建物は部屋の大半が暗かったが、1階の端の部屋だけ電灯が灯っている。
外から様子を伺えないか、窓の方へ回ってみる。光はこぼれているものの、カーテンが引かれていて中の様子はわからない。
しかしはっきりわかるのは、この部屋にいる者は1人ではないということだ。2人、いや、3人はいる。女の話し声も聞こえる。全員妖魔だろうか。
小雪が小声でつぶやく。
「奇襲するには難しい人数‥‥」
「あぁ、全員が妖魔だと分が悪い。離れたところから部屋を攻撃して様子をみようか‥」
「行方不明の被害者が生きていた場合は危険……」
「そうか。だよね。しばらく様子をみよう……」
この場を一旦離れ、別館校舎の裏手へ回ろうとして、角を曲がった時、2人は驚きで声を失った。そこには驚愕した面持ちの男子生徒が立ち尽くしていたからだ。男子の表情がみるみる変わり、大声をだそうと口を開く。その形相は、一目で妖魔とわかる。
いち早く我に返った小雪は疾風のように駆け抜刀し、相手の口腔に刀をねじ込んだ。そのまま刀を右に払おうと小雪は力を入れたが、妖魔は歯を立て、刀を離さない。
小雪は止む無く、刀に心気を込めた。
「楓」の刀身が白く輝く。小雪が刀を右へ払うと、妖魔の顔は口腔から右に裂け、小雪の返す刀で左側も切られ、口上半分から顔が切り落とされた。妖魔は血飛沫を上げながら仰向けに倒れた。
「ごめん、心気使っちゃった」
「うん、でもそうしないともっと厄介だった。おそらくサキュバスも気づいたろうから、もう生物室へ突っ込もう!こいつがここにいるってことは、あの部屋には人質がいる可能性が高い」
「うん。私は校舎内から入る。あなたは窓から。3秒後に」
「了解!」
2人はそれぞれの配置へ駆け出した。2秒後には部屋前にスタンバイし、3で侵入を開始した。
天登はガラス窓を破って突っ込んだ。ドアから突入した小雪と目が合う。
室内には……、誰もいない! 人間が縛られ座らされていたであろう椅子とロープがある。2人同時に上を見た。天井に大きな穴が空いている。
「上だ!」
2人は急いで部屋を出、階段を駆け上がり真上の教室に飛び込んだ。同じく天井に穴があった。すぐ、さらに3階へ駆け上がった。そこでも天井は空いている。穴からは夕刻の空が見えた。
「屋上だ!」
最後の階段を駆け上がったが、屋上へのドアは鍵がかかっていた。
「下がって!」
天登は心気弾でドアを吹っ飛ばした。
外へ出て2人の目に飛び込んできた光景は、異様なものだった。
高々と十字架が掲げられ、意識のない女生徒が2人、磔になっている。さらに十字架はもう1本あった。
「あらぁ、2人だったのねえ、心気を感じた時は1人分のご馳走が飛び込んできたと喜んだのに、嬉しい誤算」
サキュバスが言った。
「その子を離せ!」
天登が叫んだ。
「うるさいわね男! 私は男が嫌いなの! そこのお嬢ちゃん、心気たっぷりでで美味しそう。男のお前、おまえも心気を含んでるな! 不味そうだが好き嫌いはよくない。嫌々ながら食ってやる!」




