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破邪の気炎 〜手遅れの世に、人ができる残されたこと〜  作者: 北岳 梟
天登《あまと》立志編
15/99

15.目覚め

 四つん這いの男の下になっているのは、綺麗な女性だった。

 目を大きく見開き、月を眺めている。

 

 しかし……!


 なんと腹部を食い破られており、絶命している。


 僕は一瞬驚いたが、甘美な血の香りに自然と先客の横に四つん這いとなり、血を舐めてみた。次に、飲んだ。あまりの美味に、やがて肉にかぶりついた。夢中で咀嚼しているうち、頭の上から男の説明が聞こえてきた。


 なんでもこの女は妖魔殺しの仕事をしており、男の敵だそうだ。そして男の敵は、僕の敵だという。

 何の疑問もなくその考えを受け入れたのは、妖魔の血のせいだろう。僕は身体の60%の血が妖魔に由来するという。


 破邪士の血肉を食らってから、僕は妖魔としての力に目覚め、翌日から、闇夜に紛れ、夜な夜な人を殺しては、血肉を喰らった。


 男によると、僕のように破邪士ではないただの人肉を欲する妖魔は、いないことはないが、多くはないようだ。妖魔の好き好きというやつだそうだ。


 妖魔の力は、人間の身体能力を圧倒している。

 超常的な力で食人のための狩りと後始末をやっていれば、昼間は普通の中学生をやっている僕を、誰も変に思わない。


 そうやって、50人は喰らったろうか。

 男がたまに破邪士の死骸を提供してくれることがあったが、これは普通の人間とは違ったうま味があり、ご馳走様だった。


 またある時、夢を見た。

 幼稚園の時の、あの事件の女の子がいた。

 僕が指を噛むと、みるみる顔が歪み、泣き叫んだ。あの日の再現だった。

 この子は、僕に好意を持ってくれていたから、指に触れ、口に含んでも許してくれたのだ。

 子供の頃とはいえ、あそこまで人に受け入れられたのは、あの時しかなかった。あの時歯を立てたことから、僕は彼女を失い、人生が変わり、今は食人妖魔になった。


 夢から覚めると、僕は泣いていた。何かとてつもなく大切な何かを、失ってしまった気がした。

 遠い昔に失ったものだから、もう取り戻せないことは当然にわかっていた。それでも、涙が止まらなかった。


 起床後はそんな夢をすぐに忘れてしまい、また夜になれば人を食う。

 いつしかそんな僕の行動を、幼稚園児の僕が後ろで見ている気がした。

 そんな時は、人を喰らいながらも、涙があふれてきた。


 ある日、男から連絡があった。

 破邪士の少女が来る。食っていいという。僕はニュータウンの造成地で彼らを待ち、襲った。


 彼らは、強かった。少年は光の弾を無数にぶつけてきたり、光の剣で斬りつけてきた。

 少女は、すごいスピードで僕の攻撃をかわすし、彼女の剣は目に見えない。

 でもこんなに強い破邪士の女の子って、どんな味がするんだろう。

 僕は彼女を捕まえた。

 自慢の長い腕を精一杯伸ばし、ぐるぐる巻にして、身動きを封じた。彼女の剣が僕の心臓を貫いたままだが、かまやしない。

 彼女を味わうことの方が大事だ。

 いざ彼女の頭にかぶりつこうとした時、不意に涙が込み上げた。

 なぜか。

 自分の涙の意味を、頭をぐるぐる回して考え、ようやく思い至った。


 僕は、生きている人をこんなに近くに感じたことは、今までなかった。そう、あの時以来。


 この鼓動、この香り、この温もり。人って、こんなにあったかいのか。親の温もりさえ忘れてしまった僕にとって、人の温もりの記憶は、あの幼稚園児の女の子だけだ。

 あの時僕は、一時の快楽に身を任せ、彼女を失った。そこからは、快楽だけを求める日々だった。


 果たして僕は満たされたのか? この涙は? 今また、彼女を食らうことで、何かを失うのではないのか? もはや僕は涙を止められなかった。


 心臓が貫かれているから、きっと、僕はもう絶命している。

 身体が崩れゆくのを感じながら、この少女と、幼稚園の時のあの子に、こう言いたかった。


 「終わらせてくれて、ありがとう。傷つけて、ごめん……」

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