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破邪の気炎 〜手遅れの世に、人ができる残されたこと〜  作者: 北岳 梟
天登《あまと》立志編
11/99

11.夜回り

 天登あまと瑠川るかわの説明を真剣に聞いた。

 「夜回りでは、妖魔と実際に対峙し、『戦闘』をすることになる。だから、天登あまとにはその基本だけは教えておきたい」

 「はい」

 「と言ってもシンプルよ。心気をためて、放って、当てること」

 「はい」

 「戦闘のタイプは、相手に接近して物理的な攻撃でダメージを与える近接型と、心気弾や弓矢•銃とか、飛び道具で攻撃する遠隔型がある」

 「天登あまとは大した修行もなしに心気弾が使えることから、遠隔型の攻撃ができる貴重な存在よ。対して小雪は、スピードと剣技が売りの近接型。敵と対峙した時は、近接型の仲間が相手に接近するのを支援するのが、遠隔型の主な役割。心気弾で相手の遠隔攻撃を牽制し、攻撃の態勢をとらせないこと。近づいてしまえば小雪の剣技は一流だから、あとは任せる。あなたは周囲にほかの妖魔がいないか警戒しつつ、至近弾を放てる位置に移動し、攻撃を続ける。これが基本スタイル」


 言われたことは簡単だが、初めての戦闘だ。本当にうまくいくだろうか。

 「不安は当然ね。まあ今のは指針みたいなもので、戦闘なんて想定通りにいくことなんかまずない。想定を持っていること自体が、臨機応変な判断を妨げるとさえ言える。その辺は経験と勘とセンスの世界ね。そこは小雪先輩に頼っていいわよ」

 「ね、小雪」

 刀の手入れをしながら、小雪は黙ってうなづく。


 「そして、はい」

 瑠川るかわが鞘に収まった一振りの刀を差し出した。

 「言ったように、戦闘は指針通りにいくはずがない。遠隔攻撃だけしか知らないあなたに、近接攻撃をしてくる妖魔が必ずいる。その時は、この刀で応戦しなさい。あくまで護身用」

 「はい、ありがとうございます」


 天登あまとと小雪は、境内を横切って鳥居を出た。


 昨日ここに来てから、初めて敷地外へ出る。

 いつも通っていた近所の道なのに、大海へ漕ぎ出すような緊張感がある。

 そんな心とは裏腹に、辺りは何の変哲もない。

 「普段と変わらないようだけど、本当に妖魔が出るのかな?」

 「もう、妖魔に見られていると思った方がいい。行きましょう」

 

 ルートは、神社を出て東進し、住宅街を抜けて、丘の上のニュータウン造成中の工事現場を目指す。

 そのあと南進し、街の外れを東西に流れる川にかかる橋を渡って、川沿いに西進。

 中学校前の交差点で右折して北進し、神社に戻るという経路だ。

 普通に歩けば20分ほどだ。


 住宅街に差し掛かった。

 午後10時。

 家々に灯りはついているが、空調を効かすためか窓を閉め切っている家が多く、静かだ。


 5分ほど歩いた時だった。

 天登あまとは突然悪寒を覚え、横の小雪をみた。

 小雪は刀の柄に手をかけ、上を見ている。

 「あそこ、屋根の上」

 「あっ!」

 天登あまとは思わず声を出してしまった。人影が屋根の上に這いつくばり、こちらを伺っている。

 「!」

 よく見ると、正面、左右それぞれの屋根に、待ち伏せている妖魔がいる。合計3体。天登あまとは戦慄した。


 「心気をためて。歩きながら」

 小雪に言われ、天登あまとは両(てのひら)に力を込めた。徐々に熱くなってくる。

 「私が合図したら、左右の妖魔を撃って。正面は、私が」

 「りょ、了解……」

 声が震えて情けない自分を自覚する。

 小雪は落ち着いているようだ。


 妖魔との距離が20mほどに迫った時、三体が同時に動いた。機敏だ。こちらに向けて飛びかかってくる。

 「獲物だぁぁ! 死ねええ!」

 「若くてうまそうだっ!」

 「げへへへへへ!」


 「今っ!」

 小雪の合図に、天登あまとは一気にてのひらの光の弾を左右に放った。同時に小雪は地面を蹴り、正面の妖魔に向かって突き進む。次の瞬間には、血飛沫を上げて舞う正面の妖魔の首が目に入った。

 (俺が放った心気弾は? 当たったか?)

 左を見ると腹に風穴が空いた妖魔が吹っ飛んでいくのが見えた。

 (右は?)

 煙だけで、様子がわからない。


 風が煙を散らし始めた。

 天登あまとは目を凝らして様子を伺う。すると煙の中に小さな黒い穴ができた。それがみるみる大きくなったと思うと、妖魔が飛び出してきた!


 獰猛な爪を生やした左手を突き出し、飛びかかってくる。右腕は千切れかけている。心気弾が掠ったのだ。

 天登あまとは後ろに飛んで距離をとった。再び両手に力を込める。構わず妖魔は距離を縮めてくる。

 (速い!心気を込める間がない!)

 (やばい! やられる!)

 と感じたとき、妖魔の腹から刀が突き出てきた。


 「ぐえぇ・・・!」

 うめき声をあげ、妖魔が倒れた。


 その後ろに、小雪がいた。

 小雪が刀の血を払いながら言った。

 「大丈夫?」

 「あ、あぁ、危なかった、ありがとう」

 

 初めて自分が参加した戦闘に、まだ手も膝も震えている。


 倒れた妖魔は、煙のように蒸発していく。

 この時、一瞬だが悪臭が伴う。

 催魔さいまの時も思ったが、死体も残らないのは、やはり彼らが人ではない種族だからだろうか。


 「さ、行こう」

 小雪が言う。

 彼女は相当慣れている。

 美しい横顔からは、あんなに激しい戦闘をやってのけた者と同一人物だとは思えない。一瞬で2体の妖魔を葬ったにもかかわらず、涼しい顔だ。


 「小雪は、怖くないの?」

 「別に」

 「これまでは一人で夜回りに?」

 「そう」

 「危ないことはなかったの?」

 「毎日、危ない」

 「そうだよね。でもそんなに落ち着いていられるなんて、すごいよ」

 「君も、慣れるよ」


 天登あまとは小雪のような境地に達する日が来るのかと、途方に暮れる想いになった。


 「さっきの妖魔は、何血けつ?」

 「4血ぐらいかな」

 「あの恐ろしさで、たった4!?」


 驚く天登を尻目に、小雪はスタスタと歩き出した。

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