10.天登の可能性
昨日やったとおり、母とあかりとの幸せな時間を思い浮かべる。すると掌が輝き出した。
心気が発現したのだ。
「よし、スムーズにできた。次はこれを空に向かって伸ばす……」
掌を空へ掲げ、伸ばす形状を意識したその時だった!
天登が作った心気はすごい勢いでみるみる上空へ伸び、瑠川が達したビルほどの高さは悠に越え、先が見えないところまで上がったのだ。
瑠川も小雪も口をポカンと開けている。
やがて伸びきったと見られる天登の心気は先で円形に広がり始め、まるでカリフラワーのように傘が垂れ下がってきた。
「お、驚いた。なんて心気の量なの?」
瑠川がつぶやく。
小雪は声も出ていない。
「る、瑠川さん、こ、これ、まとまるんでしょうか……?」
「はは、私もここまでのは見たことないや・・。まとまるのかな? でもまとまったら、すごい力になるよ。トライあるのみね!」
天登は、心気をまとめる訓練を開始した。
前代未聞の規模のようだが、やってやる!
朝から夕方まで、天登と小雪は広がった心気を絞る訓練を続けた。
だが、大きさはほとんど変わらないうえ、心気を放出し続けること自体が相当な負担だ。
気を抜けば放出している光は小さくなる。これは無論、絞ったことにはならない。
小雪は心気を出し慣れているようで、最後までほぼ心気の規模は変わらなかったが、天登のそれは、カリフラワーが小さくなったり、大きくなったり、斜めに傾いたりと、安定しなかった。
結局、この日の訓練としては、心気を放出し続けただけだった。
瑠川がやってきて声をかけた。
「はい、本日は終了でーす。夕飯を食べましょう」
身体は疲労困憊だった。
庫裡に下りると、麻婆豆腐の香りが食欲をそそった。
「いただきまーす!」
3人で黙々と食事した後、瑠川が言った。
「小雪、昨日言ったとおり、この後の夜回り、天登と一緒に行ってね。天登、少し休んだら本殿に来て」
本殿に行くと、既に瑠川が待っていた。
「今から、夜回りに行ってもらうわ。文字通り夜回りだから、町内の決まったコースを一周して、帰ってくるだけ。普通なら、20分もあれば戻って来れらる距離よ」
「でも、妖魔が出る」
いつの間にか隣にいた小雪が補足した。
「そう、徘徊する妖魔を退治することが、夜回りの目的」
「妖魔って人が通る道を、夜な夜な徘徊してるんですか?」
驚いた天登が尋ねた。
「普通に人間社会で生活していれば、妖魔として行動するほどの血の濃度、3血以上に遭遇する可能性は低いわ。でも、この街には、私たちがいる」
「つまり、破邪士がいるってことですか?」
「そう。破邪士は、妖魔の敵。敵である私たちを倒すため、もしくは牽制するために、破邪士の拠点周辺には、通常の数十倍もの数の妖魔が集められている。隙あらば私たちを倒そうと、虎視眈々と狙っている」
天登は身体が緊張してくるのを感じた。
「それに、心気を操る破邪士は、奴等にとって絶好の餌なの。彼らは心気をまとう破邪士を食うことで、パワーアップする。野心的な妖魔にとっては、真面目というか、計画的というか、考えて行動するタイプほど、破邪士を食えるチャンスをいつも探している。拠点の近くは、そんな妖魔が現れる確率が高い」
「下級の妖魔は、本能で食べにくる」
小雪が言った。
「そうね。妖魔には、破邪士が美味しそうに見えるみたい」
破邪士の前に人間である僕らを、妖魔とはいえ、ベースは人間と同じ生物が「食す」という事実……。
衝撃だ。
「だから破邪士の拠点は、妖魔を引きつけちゃう。これは周辺住民の方々にとっては、甚だ迷惑な話ね。だから、毎晩妖魔を倒して、数を減らす活動をしなきゃいけない。それが夜回りなのよ」




