2話 敵に回した相手は
「ネフィラ、久しぶりに会えたのは嬉しいが……いきなり、とんでもない話題になったな……」
「も、申し訳ありません……セシル様」
「いや、別に構わないんだが……そうか、婚約破棄か……」
スタイン様に婚約破棄を言い渡されてから1週間後、私はセシル王太子殿下の元を訪れていた。
彼は私の3歳年上の20歳だけれど、王太子という立場に立っているのだ。幼馴染ではあるけれど、侯爵令嬢の私が霞んでしまう程にセシル様の地位は高かった。
「スタイン・ハルベルト公爵令息とマーシオ・フォルブース公爵令嬢の婚約、というのも少々驚きではあるな。それに君が巻き込まれたというわけか」
「は、はい……正確には、マーシオ様と婚約するので、私との婚約は破棄するということだったのですが……」
「スタイン・ハルベルト……なかなかやってくれるな」
セシル様はなんだか、顔つきが怖くなっていた。普段の彼なら、温厚な表情を絶やさないので、その二枚目な顔と合わせて女性陣を虜にすると言われているのに。
ちなみに私は彼の顔を好きになったわけではない……ちゃんと、誠実な内面を好きになったのだ。まあ、見た目が良かったというのも多少はあるけれど、それは今は関係なかったわね。
「あの……セシル様、ええと……どうしましょうか?」
「そうだな……確かに、貴族の勢力バランス的には両家が婚約するのは避けたいところだな。まあ、それ以上にネフィラを蔑ろにした罪は重いがな」
「セシル様……ありがとうございます。そう言っていただき、とても光栄でございます」
「私達は幼馴染なのだから気にする必要はないさ。私に相談に来てくれたのは、非常に良かったと言えるだろう」
セシル様は私の味方をしてくれている。それは間違いない……彼に相談に来て、本当に良かったと思えた瞬間だった。
「ふふふ、スタイン殿も大変だな。彼は私……というよりも、王族を敵に回したのだ。マーシオ嬢との婚約の件も含めて調べる必要がありそうだな」
「セシル様……?」
「ネフィラは何も心配する必要はないさ、あとは私に任せておくのだ」
「は、はい……畏まりました……」
セシル様の表情が少し怖かったのは気のせいではないはず。彼は一体、何を考えているのかしら? 王太子殿下と言う肩書き……さらに、王族を敵に回したという発言もあった。
これはもしかすると、スタイン・ハルベルト公爵令息にとって、とても厳しい状況になるのかもしれない。セシル様の発言と表情を見れば、それはほぼ間違いなさそうだけれど……。