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Ep.7 噂の義賊、あるいは機械仕掛け

 

「……こんな感じで色々話す約束をして、セレスさんにここに連れてきてもらったんです。」


 あれから、10分は経っただろうか。

 災厄を終わらせる力を得るため、ここに来たこと。門番での出来事。


【システム】を破壊する、という目的を伏せて、俺は残りを洗いざらいしゃべった。


「なるほど。しかし、ここまで全て話してしまって大丈夫なのですか?」

「信頼できる、と思ったから話しただけです。」


 本音だ。素性が分からない時点で助けてくれたセレスさんが信頼している人、っていうのもあるけど、あの時の手の温かみに、嘘は、なかったはずだから。


「……やはり危ういですね。この世界の事、まだまだご存知ないようです。」


 どういうことだ?

 あの時、セレスさんが使った魔法みたいなものもそうだし、元居た世界と理が違いすぎて、さっぱりわからない。


「どういう意味ですか?」

「……この世界で、ギルドマシーンによって付与される【スキル】というものが存在する、というのはご存知ですか?」

「ああ、まあ。存在していることだけは。」


 はあ、と"おじい"さんはため息をつき、語りだす。


「そのスキル、というのはギルドマシーンにより一人一つだけ与えられる個性そのものです。稀に、スキルではなく【魔法適性】というものを得る人間もいるのですがね。なお、スキルの魔法と適性の魔法は大きく違います。スキルのものには制限があり代償はないのに対し、魔法適性の魔法は、制限なく奇跡を起こせるぶん大きな代償を伴います。」


 スキルと、魔法適性か。そんな区別がされているとは、ややこしい。


 ってか、そんなにホイホイ魔法使える世界じゃないじゃあねえか。セプトの噓つき……と言いたくもあるが、もしかしたら情報が古かったのかもしれない。そうだとすれば、システム自体、セプトが知る時代のものと同じかどうかも怪しいわけで……。


 いや、彼女は過去の記憶はあまりないから確かめられないしどうしようもないっちゃどうしようもないのだが。


「まあ、大抵の人はスキルを得ることになりますので、知らなくてもよいかと。むしろ平民が知っているはずのない情報ですので。【スキル】も、何一つとして使えないものは存在しないですし、他者に自らの力の情報を伝えるのは危険です。」


 まあ、相手に手の内を明かすのは危険、というのは元の世界でもそうっちゃそうだったけどな。


「【スキル】には、いくつかの技能ラベルと職業適性があります。

 技能ラベルなのですが、【力】【魔力】【知力】【速力】【技術力】【運命力】の六つが主です。まあ、他のラベルの力を得る人間は少ないですからね、覚えるのはこのくらいで良いでしょう。

 また、ラベルがあるのにもちゃんと理由があります。職人は【技術力】、王は【運命力】といったように、向き不向きをここで判断しやすくしているんですね。極まれに、強すぎる力を持ったために国によって捕まえられてしまうこともあるようですが。」


 なるほど、実質ステータス表記の役割も担っているのか、スキルは。

 ラベルによる分類とは、また、便利な……。


 しかし、ヤバいのもあるのか。チートもいいもんじゃないんだろうな。

 でも、弱すぎると、俺自身には権力がない以上危険だし。

 せめて中の上ぐらいの強さのが欲しいなぁ……。


「しかし、個性というのは必ずしも良いものであるとは限りません。

 犯罪者の適性があるものには犯罪者らしいスキルが、代々貴族の従者になる一族の人間には従者向けのスキルが。そうして、スキルに合わせて職業を選ぶわけですね。」


 個性、か。いやまあ、深く考えてたら話についていけそうもないな。


 しかしなるほど、ギルドマシーンに情報を登録して所属するギルドを決める、というのは適性職業を探して就職するのとほぼ同じ、ということか。


 ……本当に、そんな社会の仕組みを作り上げている【システム】を、破壊してもいいのか?

 落ち着いた今では、どうしても破壊しようと考えることができない。


 だって、それはきっと、この世界を滅ぼすことだから。


「なるほど……なら、適性がないものにはなれないと言っても過言ではないのか」

「そうでございます、と言いたいところですが、ここにおりますのは薬師向けの力を持った従者でありますゆえ。私に断言することはできませぬ」


 ……あれ? 自分の力の方向性を伝えるって危険な行為なのでは?

 やっぱり、どうしたらこの人を信用しないでいられるか不思議に感じてしまう。


「やっぱり俺、そんな手の内を明かすに等しいことをする貴方を疑う理由がないです。」


 優しいこの人になら、俺はきっと託してもいい。大丈夫だから。大丈夫、だから。


「本当に貴方は甘いです。世の中にどれだけ、人の悪意が満ちているかわかっているんですか!?」


 悪意。

 大丈夫……じゃ、ない。

 人の、悪意。悪、意。


 考えるな、考えるな……考えすぎたらきっと、心が……。


 そう思っているうち、ガチャリと音をたてて扉が開いた。


「大丈夫か、青年?」

[あれから夜もすぎ、見事に一晩経ちましたが、落ち着きましたか?]


 セレスさんとセプト、二人が部屋に入ってきた。


「ええ、執事さんのおかげで大分落ち着いたよ。セレスさんには、感謝してもしきれない。」

「そう。スキルについても聞いてるっぽいから、後は礼をするのみのようじゃの。」


 ……あれ、そのことはまだ執事さんしか知らないはずでは?


 この世界に、盗聴器があるとは思えないし。サブカルが伝わっても、どうしても機械なんていう触るのに技術や知識が必要なものを伝えられるとは……少し、想像ができないが。


「先刻の、話すというのはどうなったんです?

 聞く必要がない、というならば。俺と執事さんの話、どこで聞いてたんですか?」


 疑問を、口にする。

 ……ため息をつかれた。


「ハァ……そういうところが甘いと、おじいに言われるのじゃぞ。よいか、【スキル】の中には、盗聴や透視、暗殺さえも簡単にできてしまう危険なものもある。シンプルな一つのスキルを応用すれば、どんな強敵でも一撃爆砕、なんてことも可能な世界なんじゃ。」


 怖い!?


「そして今回、わしは君が信頼に値するか、面白い話を知っているか、というのを確かめるために使わせてもらった。自分で招いた客人にする所業ではないが、君たちの素性は謎が多い。だから……すまんの。」

「謎が多いのはお互い様ですし、仕方がないことです。気にしないでください。」


 お互い様、という言葉に、彼女は一瞬だけ、ニヤッと笑う。


「わしは、今この時、判断を下そう。

 君たちは、足元の崖にさえ気づけないほどの愚者だとわしは思う。知識が足りな過ぎるし、その点においては非常に危うい。実際の能力は、カードを発行しないとわからないがのう。しかし、信頼には値する。だから、今後とも……よろしく頼むぞ。」


 ……よし、とんとん拍子でこの世界初の味方ができた!

 これなら、きっと、問題なく探索を進められる。


[自己紹介が送れました。改めて、私はセプトで……]

「俺は、アキラだ。今後とも、よろしくお願いします。」


「ああ、よろしくのう! わしの、数少ない友人たちよ!」


 ああでも、俺からは友人というよりは取引相手っていう感じに扱わせてもらうけどな。

 友達ねぇ……俺には、ずっといなかったもんな。


『友達、かぁ……ニーチャンは重く考えすぎなんだよ。例えば、自分の背中を預けたり、自分の秘密を打ち明けたり、逆に話を聞いてあげたり。そんなもんだよ、友達って』


 ……そういえば昔、一回だけリオに相談したんだっけ。

 友達になるには、背中を預けられるぐらいの信頼は必要らしいもんな。さすがにそこまではちょっと。


「さて、本題に入らせてもらおう。フラーレン各地で流れる噂……それはじゃの」

「それは……?」


 ごく、と固唾をのむ。


「それは、『"クロックワークス"という名の義賊ギルドが、悪徳貴族や、差別主義者どもの味方の土地を荒らしに荒らしまくって、貧乏人や善人に与えてまわっている』という、御伽噺も真っ青な噂だったのぉ。

 しかし、噂を裏付けるように、無数の予告状が出ているし。

 襲った時に悪党どもの悪事の証拠を盗み、審判省にそれをたたきつけ、国王から直々にそいつらの【断罪許可状】が出て、処刑を行っているケースも何度かあったのう」


「国王……【断罪許可状】……。」


 やはり、法も秩序も違うのだろうな。地球とは。


「ああ、君は知らんのか。国王の名はパリス。断罪許可状、というのはつまり、平民や貴族などの身分を問わず、私刑を行うことの許可を行う書類じゃ。よほどの裏切り者でもない限りはでまいて」


 変な汗が出てきた。そんなの、実質的に死刑宣告じゃないか。

 しかも、平民に殺される可能性もある、と。プライドがあるやつにはさぞ屈辱なのだろう。


「覚えておきます。それにしても、【だった】というのは……?」

「うむ、やはりすぐに気づくか。そう、過去形なのだ。その辺りには込み入った事情がある。

 それは、今回私が、『情報屋』として、ある人物に受けている依頼にも深くかかわってくるんじゃ。今は詳しくは話せない。」


 依頼ってか、情報屋なのか。

 下手にヤバい情報をぶっこ抜かれたらヤバ……いや、すでに手遅れか。まあ、秘密を守ることに関しちゃ信頼はしてるしいいけども。漏らしたら商売にならないだろうし、情報屋ってのは信頼が第一……だと、アニメやゲームで知ったからな。


 よし、追求するのはやめよう。


「深く、関わっている? なんだか穏やかじゃない予感を感じますけど。」

「……まあ、これぐらいならいいかの。私は"クロックワークス"の正体を知っているんじゃ。

 それで色々面倒が増えている、とそれだけじゃ。わしゃ、彼らを裏切る気はないんじゃがの」


 なるほど。俺は彼女の目を見ながらこくんと頷いた。納得したからだ。


「……で、ここからは個人的なことなんじゃが。わしは、二人をギルドマシーンにかけて、得たスキルによっては直接【クロックワークス】の人間に会わせてやろうと思っている」


「つまり……」

「今からゴー、ということじゃ。君が着替えたら転移するぞよ。まあ、君の体格は解放している間におじいが確認してるじゃろうし、サイズは会ってると思うぞ。ほら、これ」

「あ、ありがとうございます。」


()()()()()()()()()()()()()()


 彼女がそう言い指振ると、何故か一瞬で服が変わっていた。手に持っているのはもともと来ていた服に、着ているのはもらった服に。

 黒いマント、白い上着と長ズボン、黒いベルト。なんかモノクロだ。

 髪の毛も目の色も黒いし。割と引きこもってたし、日焼けも赤くなって肌荒れ起こすタイプだから黒くなる要素なくて、真っ白だし。見事に白黒人間だ。


 それにしても……こんな早着替えを実現させるなんて、魔法ってめちゃくちゃだァ!?


「さ、行くぞよ!」


 き、切り替えが早いィ! ツッコミを許さないペース!

 焦った俺は、なぜか彼女の腕をつかんだ。その俺の手を、セプトは掴む。やめて、笑顔で睨まないで。

 物理的な接触は確かにいらなかったけど、だからってそんな……


有罪(ギルティ)、です。」


 セプトさん、ちょ、待って、有罪判決早い、あ、目の前に、握りこぶしが――


()()()()()()()()()()()()()()()()()、じゃ!!」


 セレスさんが言葉を発すると同時に殴られた俺の顔は、グシャ、と嫌な音をたてた。


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