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Ep.4 異世界人たち、あるいは旅団

 

「ぐぉぁ、ってーなー! ……ぶえっ!!」


 穴を抜けると同時に、俺はどこかの地面にたたきつけられた。頭からいかなかったのは幸いか。


 ……痛みが故に、この時からしばらく、俺は先刻の激情を忘れてしまうことになる。

 それが、後になって俺の心を苦しめるのは……当たり前の事だろう。


 直後、グシャッ、と音をたてて俺の背中がつぶされ、目の前にスタッと音をたててその足は地面に降り立った。

 上空から彼女が降ってきて、僕をクッション兼踏み台にして、着地したのだろう。

 音からして絶対そうだ。


[ふむふむ、やはり先に行かせて正解でしたね……]


 起き上がると、彼女は真面目な顔をしてそんなことを言っていた。

 身体はここに来ても相変わらず透けたままだった。


「はあ。君、最初はそんな性格じゃなかったでしょ? 急にどうしたのさ。」


[貴方が先刻の戦いで力を使い、私に過度に蓄積されたエネルギーを消費してくれたので、本来の性格がようやく出てきたんです。そういう意味では、多少は感謝しています。]


 ふむ、どうやら、さっきのあの機械化……ブレイヴ・デバイスと彼女の命とは、何かのつながりがありそうだ。


「で、君は何者? 名前は? ここはどこなんだ?」


 辺りを見回すと、森だった。だが、木や草は、見たことがないものばかりだった。

 元居た場所とは全然違う、ということだけは理解したが、他には何もわからない。


 そして、よくよく考えなくても名前がわからないと不便だったし、彼女について俺は何も知らない。

 これから行動をたぶん共にする彼女について、俺はもっと知りたかった。


[私は端末。誰かによって作られ、誰かの目的のために動く……自動人形(オートマトン)、いえ、本来は腕時計のような姿であるのに無理にこうして姿を変えている、意志ある時計(クロックワークス)です。その無理やりの姿の変更がたたり、こうして存在が希釈され……薄くなってしまっているのです。]


 意志ある時計、オートマトン、か……。

 本来の姿は、変身した時に手についてたあのスマートウォッチみたいな端末なのか。


[また、先ほどのブレイヴ・デバイスの動力源でも、あります。誰に作られたかは知りません。

 名前はないので、好きなように呼んでください。おまかせしますので。

 では、今から。最も重要な質問である、ここがどこか、というのにお答えしたいと思います。]


 それらを口にする時、彼女は辛そうにしているように思えた。

 あんな性格の子が、自分が誰かのために動く人形だなんて……。


 いや、今はよそう。それを、考えるのは。

 彼女が近くの切り株に座るのを見て長話になるだろうということを察知した俺は、その場に座った。


 ***


 端的に言えば、ここは異世界みたいなもの、と思ってもらって結構だと思います。


 まず、この世界について話さなければなりませんね。


 ここは、君らの棲む世界のかつての……中世ごろの姿と、よく似た姿をしている世界。

 よく似てこそすれど、決してその理を共にはしない世界。

 貴方のいたセカイと、決してその知を共にはしない世界。


 この世界における地球―人々の棲む星の名を、アルカレスといいます。


 この世界では、ある時を境に大地から人ならざる者が湧くようになり、空から平然と天使が舞い降り、杖を一振りすれば魔法が使えるようになってしまっているのです。


 あいにく、その原因はわかりません。

 知っていたはずですが、記憶ごと消去されているのでしょう。


 とにかく、そんなわけで、この世界には【ギルドシステム】が誕生したのです。その経緯は全世界最強のギルドによって、全力を挙げて秘匿されているのですが……まあ、今はそこは考えなくていいです。


 そのシステムなんですが、【ギルドマシーン】という機械が、全世界の各地域に存在するそうで。


 手を置くと、その人間に最も合うギルドとのマッチングを行い、希望に合わせてジョブを正式に登録し、一つだけスキルを付与し、そして、個人のデータが書かれたカードを発行するのだそうです。そのシステムができてから人々は魔法を使えなくなりました。結果的に、人々は魔法と引き換えにスキルを得たのです。


 そんなマシーンに、人々が情報を登録することで成立しているのが、【ギルドシステム】というものなのです。


 ……さて、この星のある国。


 この星で最も活気のあふれる場所、最も文明の進んだ場所、最も多くの人の集う場所……そうですね、貴方の世界にかつて存在した、ローマというところが、例えるのに最も適切であろう場所。


 その国の名をフラーレンといいます。ええ、今いるこの場所から最も近い国です。


 そしてここがどこかというのを把握している理由なのですが、こちらに来るのに、私を生み出した人物があらかじめセットしていた場所だから把握しているだけで、決してそのような機能が備わっているわけではないので、ご了承を。


 で、そのフラーレンには、一年ほど前からとある噂が流れているそうです。


 それについて、まずは調べたいと思っています。


 ***


「……なるほど。つまり、ここは異世界だ、と。で、俺たちの最終目的は?」


[この世界の、最も重要な秘密を暴くこと。そして、【システム】を破壊することです。]


 この世界になんの恨みがあるんだ。


「何故、さっき言ってたなんたかシステムを破壊する必要が?

 世界にとっていいものを提供してるんじゃないのか?」


 その、さっき言ってたやつを壊すのって、世界のライフラインを断つようなことだと思うんだ。

 ヤバさを例えるなら、俺のいた世界の地球上から水道管と浄水場と下水処理場を消すレベルだろう。


 この世界に親でも殺されたのかってレベルだ。


[記憶データが消去済みですので、お答えできません。

 しかし、少なくともそれを目指せば、強さは得られるでしょうね。あの機械兵を倒せる程度には。

【ギルドシステム】を破壊するには、全世界最強のギルドどころか、世界を敵に回す必要があるのですから。]


 まあ、無理はあるが多少は理解できる。

 まだこの世界について知らないから、わからないかもしれない。この疑問はいったん置いておこう。


 疑問は、まだ他にもある。


「何故、噂なんかについて調べるんだ?」


[わかりません……が、意味のないものではないのではないでしょうか。]


 彼女が首をかしげる。やはり、彼女は断片的にしか知識がないということだろう。


「意味がなかったら、困る。」


[そうですね。私も、困ってしまいますね。]


 少し微笑んでいるような、困っているような、人間味あふれる表情を浮かべた彼女に、見とれてしまう。

 良かった。例えその姿が偽りでも、こんなにも表情や感情が豊かなら人と同じじゃないか。


[おっ、一目惚れですか?]


 こ、こいつ……!


「ちげーわボケ。さあ、さっさとそのフラーレンって国に行こうぜ。その国の都に行くのか?」


[……いえ、先に近隣の小さな町に向かいましょう。都では言論が統制されている可能性があります。

 小さな町のほうが、意外と噂が根付いているかもしれません。]


 確かに、小さな町なら、都に行った誰かが聞いた話も広まりやすく、珍しい話だから人々の記憶にも残りやすいだろう。言論の統制も、多少マシならもしかしたらその噂について深く知る人物に会えるかもしれない。


「最初の目的地は?」


[ここはフラーレンの国の南にある森の最北端付近、つまり、ここから最も近い町は。

 フラーレンの最南端の町、"メリディナリス"です。]


「じゃあ、行くか。」


 俺は立ち上がると、この世界における、最初の第一歩を踏み出した。


[あの、すみません。そっちは南方向ですので、町に向かうならこっちです。]


 彼女が手に地図と方位磁石を持って、反対方向を指さしていた。

 あの、そういうのを持っているなら早く出してください。というか、方位磁石使えるんですね。


 ……あーあ、恰好つかないなあ、俺は。

 ここで迷ったらシャレにならないので、彼女におとなしくついていくことにした。


 歩きながら、考える。

 彼女の名前は、何がいいだろう。


 透けてるからインビジブルからとってビズィ……いや、忙しそうだからダメだ。

 ここは詠唱したあれからとって、ルビナスかサファイラス……いや、なんだか単純すぎる。


 うーん、そうだなあ。

 終われなかった8月……迎えられなかった9月……。


 『ニーチャン』


 考えてしまいそうになって、声が頭で再生されて、思い出しかけて、踏みとどまった。


 ……ああ、君の声をもっと聞きたかった、君と共に過ごしたかった、迎えたかった、9月。

 それに希望を見出したい、9月。


「……あのさ。俺、君の名前、セプトがいいんじゃないかと思う。」


[へえ、どうしてです?]


「元居た世界で迎えられなかった9月(セプテンバー)を、君の助力があるなら迎えられるんじゃないかと思った。だから、セプテンバーから取って、セプト。」


[……まあ、いいでしょう。アキラ、改めて。このブレイヴ・デバイス起動用腕時計型端末『セプト』をよろしくお願いいたします]


「ああ、よろしくな。」


 商品名みたいにされたことは不満だが、彼女とはうまくやっていけそうだ。

 何もわからない、右も左もわからない異世界で。俺たちは、ここで初めて心を通わせた……気がする。


 気のせいって言われたら、俺は大声で泣いてやるからな。


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