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Ep.12 勝負の行方、あるいは想定外

 

 カランカラン、とドアにつけられた小さなベルが、隙間風に吹かれて音を鳴らす。


 町の道場、というか、木製の丈夫そうな小屋。一歩あるくごとに地面がギシギシと音をたてるので少し不安になる。また、地面には白線が2本だけ引かれており、勝負に最初の立ち位置以外のルールが存在しないことを予感させる。


 俺たちはそんな道場に連れてこられて、そして俺は渡された黒革の手袋をはめ、その直後に渡された木の棒……長さは鎌よりわずかに短いように思う……を受け取っていた。


「思っていたより、長い棒ですね」

「どうやら例の鎌が手になじんだらしいからな。短刀や暗器より、大きめの武器のが得手と見ただけだ。後は身のこなしを見て、どう仕上げるかを決めていく感じになるだろうな」


 そうだった、この人のバーサーカーオーラのせいですっかり忘れかけていたが、本来は俺が作ってもらう武器を決めるための勝負だった。


 そんな大事な目的を忘れさせる原因になるほどだ、この人からは武器職人よりも戦士のオーラの方が強いように思えてならない。

 セオさんの手には木刀が握られており、その姿から放たれる強者のオーラに圧倒されて、今にも逃げ出したい気分でいっぱいだった。というかこの人と戦って、俺は無事でいられるのか?


 正直、この人は雰囲気だけで言ったら、あの時俺が見た機械兵よりも怖いかもしれない。

 ただ、あの時のは、我を失っていたから恐怖が感じられなかっただけとも言えるかもしれないが。


「……怪我、するかもしれませんけど大丈夫ですかね?」

「自信があるのか?」


 違う、そういうことじゃない。


「あの、格の違いを感じているというか。俺が死ぬんじゃないかと思っただけです」

「なーるほど、大丈夫だ。死んだり全治数か月なんてことにはならんだろうからな。せいぜい全治数週間程度にしかならねえから大丈夫よ……」


 それを大丈夫とは決して言えないように思うのだが、この世界ではそれが常識なのか、と思ったが。


「何も大丈夫じゃないから止めを刺さないようにするんじゃぞ。これからするのはルール無用なケンカじゃなくて、この男の武器を決めるための試合じゃ。やりすぎは禁物じゃぞ?」

「あいあい、適度にやるさ」


 ニコニコと笑顔でセレスさんが補足したので、そういうことでもないようだ。

 なんだ、やっぱりバーサーカーじゃないか。

 しかもルールはないっぽいし。大丈夫だろうか。主に俺の体が。


[さっさと始めて終わらせましょうよ。ほら、お二人とも白線の後ろに並んでください。]


 明らかに待つのを嫌がっている、あるいは勝負を見るのを楽しみにしているらしいセプトの言葉に従い、俺とセオさんは白線の後ろに並ぶ。


「では、両者見合って……いざ尋常に、」


 セレスさんが、勝負の幕開きを告げる。


「勝負じゃッ!!」


 始まる、本気の勝負。せめて全治数週間だけは回避して、数日寝込む程度に抑えなければ。いや、怪我をするのは嫌だ。こうなったら死に物狂いで生き延びよう。


「まずはそっちから打ってこいや、ガキィ!」


 セオさん……ああ、めんどくさいから、バーサーカーな雰囲気の時はオッサンでいいや!

 オッサンは木刀をふりまわして、こちらを挑発してくる。


「じゃあ、遠慮なく……ッ!」


 こちらにあるアドバンテージは、間違いなく武器の間合いの長さにある。

 向こうの間合いに入らないように、適度な距離を保ちつつ、一手一手を確実に打たなければならない。


 だからここは、棒の端を持って、遠心力を利用しての中距離からの打撃を中心に、全力で防戦を強いるッ!


 速く、速く、速く。出せる限界の速度で打撃を。

 確実に俺の攻撃の一手一手を防がせ、余裕を少しでも奪う!


「うおッ……思ったよりもすばしっこいな、ならばッ!」


 オッサンは地面を踏み、一気に間合いを詰めてくる。

 俺の胴体狙いのようで、横合いから一気に木刀を振ってくる。

 それにしても木刀の角度が後ろ向きすぎる。肩がどうなってるんだ、この人は。


 それでもオッサンは、これでいて腕を振るのには全力ではこないだろう。つか、全力でこられたら、避けられなかったら俺のあばらとか数本持っていかれたり、内臓をやられそうだ。

 だから、間違いなくこれでも本気ではないだろうが、それにしても……速いッ!


 いや、腕を振るその初速がおかしい!

 居合とか、サムライみたいですねとか、そういうので片付けていい速さじゃない。あれはおかしい。

 これ、まともに喰らったら内臓が破裂しちまう!


 よって前言撤回、この人は俺をフルパワーで殺しに来てるという前提での対処をするッ!


「っおおおおおおっりゃあああああ!!!!」


 全力で地面を蹴飛ばし、さらに身体を全力でねじって、避ける。

 これを棒で受けたら、間違いなく俺の武器は真っ二つだから、避ける以外の選択肢はない!


 腰を若干かすめられ、せっかく用意してもらった服の脇腹の部分に、着た初日であるのに穴が空いた。この一撃をまともにもらっていたら、穴が空くのは服どころか……いや、考えるな。考えていたら失神しそうだ。


「……お前、面白いな。【事象】ラベルだしろくでもねえと思ったが、こりゃ楽しめそうだ」


 そういうオッサンの目は笑っていない。やめてくれ、俺にそんなバーサーカー的戦闘趣味はない。

 大体、戦闘に関しては素人のはずなんだが。先日のブレイヴ・デバイスの使用の影響なのか、命の危険を感じたからなのか、それとも両方であるのかはわからないが。


 ともかく、俺のこの必死の抵抗がオッサンに本気を出させたのは間違いないだろう。逃げたい。


[今のアレ、当たったらアキラが死んでたのでは?]

「いやまあ、全治数週間じゃったろうな。でもあれを避けたから、ある意味もっとヤバくなるぞい」


 小屋の隅っこで女性陣二人は何やら話しているが、俺の脳はその言葉を受け取ることを拒否した。


「勘弁してください、本当にまぐれですよ」

「それにしたって何度もいい動きをしたんだ。そうだな、今から俺が本気で攻撃するから、何してもいいから10秒耐えたら最高級の武器をタダで作ってやるよ」


 俺のちゅうにごころに、そのセリフはどうしようもなくクリティカルヒットした。


「……やってやりますよ!」


 最高級の武器。かっこいい武器。欲しがらずして何が男の子か。


「よぉーし、その意気や良し! 耐えて見せろや、青年!」


 人格そのものが武器屋にいた時と変わっていないか、この人?

 などと俺に思考する暇をくれることもなく、ニコニコ笑顔でオッサンは、知覚できないぐらいの速度で俺の眼前に迫ってきた。


 先程までとは比べ物にならないレベルの命の危険を感じた。


「うわ、やべぇッ!?」


 全速力で、棒で空を薙ぐ。多少でいいからけん制になるように。


 それとほぼ同時に、とんでもない速度でオッサンは迫ってくる。

 ヤバい、最初に俺がオッサンに強いた防戦を、今度は俺が強いられている。


 まあ、こうなる気はしていたけどな!


「ぬおおぉぉッ!!」


 避けるしかない攻撃を何度も繰り出されて、俺は一切攻撃をできず、余裕は全くなく、体力的にも精神的にもじわじわ追い詰められていく。


 息をつけば一瞬で眼前に迫られるし、気を抜けば上空から風を切る音と共に木刀が振り下ろされる。


 やばい、こんなのをあと数秒も続けてることは体力が足りなくてできない!


「あと、5秒じゃッ」


 セレスさんの叫びが耳に入る。

 その声で一瞬俺がひるんだ隙を、オッサンは見逃さなかった。


「っぜえええええええいぃ!!」


 斜め右上から、振り下ろされようとしている木刀。気づいた時にはただ避けるだけではヤバい位置に来ていた。


 クソッ、あと数秒! あと数秒なんだ!

 10秒なんて、おそらくオッサンとしてはめちゃくちゃ緩い条件でやってくれているんだろう。


 これを耐えきれなかったら、俺は武器をもらえない。それは嫌だ!


「おおおおっりゃあああああああああぁぁぁあアァァァ!!!!」


 汚い手なのはわかっているが、これしかない――。

 俺はオッサンの太ももを蹴ってそのまま全速力で後方へと下がり、オッサンが木刀を握っている右手の根本、右肩を狙って、全力で棒を投げつける。


「なんッ――」


 オッサンは度肝を抜かれた、といった表情を顔に浮かべながら、崩れかけた体勢のまま木刀を振って飛んでくる棒をはねのける。一瞬とはいえ体勢を崩したために、オッサンには大きな隙ができた。


 ――もう決めるなら、今しかない!


「ふおおおぁアオァアアアアア!!!!!!」


 もう喉から訳が分からない叫びを絞り出しながら、前方に向かって駆け抜けて、右の拳をオッサンの腹に打ち込みに行く。そこまで近づくのが厳しそうだったら蹴りに切り替えよう。


 もちろん向こうがそれをスルーしてくれることもなく、オッサンはこちらの方に走りながら構えた木刀を上から勢いよく振り下ろしにかかっている。しかし、先ほどの猛攻の時のような鋭さはない。不意打ちが効いたのかもしれないが……いや、これは手を抜かれている気がする。


 そういえば、また忘れかけていたが、本来ならば、こんな一撃喰らったら死にそうな本気の勝負じゃなくて、オッサンに作ってもらう武器を見繕ってもらうためのただの試合のはずだったのだ。


 なら、俺が武器を捨てて突っ込むのは、もはや当初の目的を無視していることになるのだから、予測はしづらいだろうし。少なからずこの汚い手が効いている、はず! ……だと思いたい!


 蹴りで一撃を入れるなら、距離はわずか。

 もう向こうの攻撃の速度を見るに、懐に飛び込んでいる暇はない。蹴りしかない。


 俺は自らの判断を信じ、地面をしっかりと踏み込み、このまま体を捻って蹴りの体勢に――


「「!!??」」


 しかし、その一撃が、勝負が、決まることはなかった。

 地面を蹴った瞬間。俺は地面に吸い込まれるように、物理的に下に落ちた。


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