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Ep.11 考察、あるいは予測

 

 あれから、俺は武器屋の隅に置いてある木製の椅子……木材の断面がきれいなのに若干ガタガタしているし、おそらくセオさんが自作したんだろう……に座り、この世界について、この武器について、考えていた。


 この呪いの鎌を握ってすぐ、俺には何も起きていないように思えたのにも関わらず「さて、それでの呪いの接続は終わりだ。」などとセオさんが言うので、かなり驚いてしまったが、そこには武器の"呪い"の特性が絡むようだ。


 詳しい話を聞けば、どうも武器の呪いは握ってすぐに効果を発揮することはないらしい。


 武器の呪いというものは「持ち主が初めて持った時から経った時間に応じて呪いが強くなる」ものらしいので、いずれはそれにも対処しなければならないと考えておいて正解だとは思うが。


 また、「【事象の呪詛】があまりにも強力すぎて、武器の呪いの大半を武器に押し返してしまっているらしいから、当分の間はそちらの呪いの事は気にしなくていい」とセレスさんが付け加えた。


 その数分後、セオさんは模擬戦のために近所の道場を借りに行き、セレスさんは後に回すと忘れるから、代金を、そして彼女がうっかり回収してしまっていた俺の私物を取りに一度家へ。

 セプトも、少し周辺の探索を行う、と言って姿を消してしまったので、俺が退屈を凌ぐための道具は手元の鎌と思考しかなかった。


 ちなみに、セレスさんが代金ついでに取りに行った俺の私物というのは、ブレイヴ・デバイスの本体と思われるペンホルダーだ。


 俺としたことが、直ぐに転移したことや、地球にはいない種族のことや、スキルのことばかりに気をとられていて、セレスさんがあの一瞬での着換えの時にスマホとペンホルダーごと服を回収してしまっていることに気づいていなかったのだ。


 まあ、気づいたとしても指摘している時間はないに等しかったし、使う必要は今のところないし、むしろ使えば状況は悪化するだろうからな。


 この世界は、今見る限りでは【ギルドマシーン】以外に機械らしいものはない。

 そこから考えれば、電気技術や通信技術があまり発展していないのは察せる。

 スマホの用途がこの世界の人にバレてしまえば、研究目的で回収されてもおかしくないしだろう、ということでスマホは預けたままにしておくことにした。


 正直ペンホルダーも、持っていたら頼ってしまいかねないから、しばらく自主的に預けておきたいぐらいではあるが、いざ誰かに襲われた時のために、自衛手段として持っておくしかない。


 そもそも、変身なんかしたら新種族か何かだと思われて解剖されてもおかしくないかもしれない。この世界の倫理観、おそらくは中世に近いし研究材料にされるってことはあり得る。よって、変身はこの世界の事情をある程度把握できるまではしないことにしておく。


 なお、セレスさん本人もうっかり回収していたことに気づいていなかったらしく、家に戻ると言われた時にふと思い出して伝えたところ、泣かれそうになって焦った。彼女はあれが弟の形見だと知っているから、焦られても仕方ないか。


 セレスさんの泣きそうな顔を思い出して少しげんなりした俺は、ため息をつきながら、しばらく世話になる相棒を眺める。


 刃は薙刀のそれをより湾曲させ、刃の向きを逆向きにしたかのようなものだ。


 形状からして、普通に切ることは少々難しそうだ。できないわけではないと思うが、剣や刀でするのと同じ程度のダメージにしようとすると本当に難しい。普通に斬ろうとしても形状が故にどこかに引っかけて、相手の体を余計に抉ってしまう。


 抉る……。なんだか、少々気分の悪くなる響きだな。

 喉がうぷっ、と音をたてた。


 これなら、日用品や農具つながりで言えば、デカい包丁やナイフ、あとはずっしりした斧とか、柄が長めのちょっとでかい鉈……切っ先がある剣鉈だとなお良いだろうな……を使った方が、よっぽど手加減しやすいのかもしれない。

 最後二つは山とかキャンプで使えそうだし、役に立つ場面は多そうだもんな。


 なんでキャンプ用具にこだわってるんだ、俺。山にもキャンプにも行く機会はなかったし、鉈も斧も握ったことないはずだけど。まあいいか、確かに鎌よりは武器にしやすそうだもんな。


 斬る以外での攻撃手段となると、柄の長さを利用して力任せに振り回してそのまま刃に引っかけて、遠心力でもって相手を切り飛ばすなど、どうしても殺意にあふれた攻撃方法しか思いつかない。


 とにかく、この武器でじわじわ敵の体力を削ったりするのは少し厳しそうだ。

 急所を狙った一撃で致命傷を与えたり、四肢を欠損させたり、即死させることに特化しているように感じるし、おそらく実際にそれを目指して製作されたのだろう。


 技量や腕力があったら、刃がない薙刀とほぼ同じように扱ってボコボコに殴る、という選択肢もあるだろうが、腕に力には自信がない以上、万が一強い人を相手にする必要があるならどうしても一撃必殺狙いになるだろうが。


 強い人の相手をするなんてことは平時ではないだろうし、そうなる時は相手を殺しに行かないといけない状況だろうから、気にすることはないだろう。


 技を磨けば、同格以下を相手するときの戦い方の選択肢にそれも入れられるだろう。


 柄が長いから攻撃可能な範囲もそう狭くはないし、刃もそこまでデカすぎたりしない分振り回す時にバランスを崩すこともなさそうだ。そういう意味では、鎌と言われてぱっと想像する農具や大鎌よりは遥かにいいシロモノだろうな。


 こうして考えこんで、体感時間で5分ほど経過した頃に、セプトとセレスさんとセオさんは同時に店に戻ってきた。セレスさんはやはり転移してきたらしく、店の奥から出てきた。


 うーん……おじいさんからは、【魔法適性】の使用には重い代償があるって聞いていた気がするが。

 ここまでホイホイ使われると、「聞いた話は勘違いだったのではないか?」と疑いたくなる。事情があるにしても今は聞けない可能性はあるし、今聞いてずっと地雷の上でタップダンス……なんて事態にはしたくはないからな。そっとしておこう。


「セオ、代価は奥のカウンターに置いといたぞい。ふいごと純度の高い鉄塊、銅と錫、木炭も用意した。どれも最高級品レベルの魔力を突っ込んでおいたぞ」

「ありがたい。この短時間でそれだけ用意できるたあ貴族サマサマってやつだ」


 ふいごと純度の高い鉄塊は、鋼を作るためには必須。

 ふいご、というのは空気を送る道具の一種であり、楽器のアコーディオンのように押したり戻したりして空気の流れ……というか、風を発生させる道具だ。

 様々なタイプのものがあるが、ここが中世または近世に近い文明の世界であるならばそのタイプか、箱ふいご―強いて例えるならば、自転車のタイヤ用の空気ポンプが一番近いように思う―というもののどちらかであるだろう。


 それから銅と錫、これは青銅を作るための素材だ。

 木炭は無論かまどで鉄などを加熱するのには必須だろう。


 どうやら、製鉄などの技術や素材は、中世から近世あたりの地球と同じと見てよさそうだ。

 どうして全く同じ名称なのかはわからないが。


 これまでは、「通じるからいいや」とスルーしていたが、言語が同じであるのも若干不思議ではある。

 地球と交流が多少はある、にしても、セレスさんが、俺に帰る手段を提示しない時点で行き来の手段が確立されていないのは間違いないし、例の顔文字もそうだが、何故日本のものばかりが、という疑問もある。


 そういうものだ、で片付けられる問題ではないだろう。

 言語はこの地本来のものが間違いなくあったはずだ。言葉だけならセプトを通じて翻訳されている、などと考えることもできるが、あちこちを見る限りでは文字も同一のものだと思われる。


 もし言語が違うのであれば、俺の視界も何かによって修正されているということになる。

 その辺りの謎も、全てが【ブレイヴ・デバイスとは何か】という疑問に収束する訳だが、果たしてこの疑問が解ける日は来るのだろうか。


[周辺の探索は完璧にやってきました。結果は後で報告しますね]


 突然、セオさんとセレスさんが言い合っているのをいいことに、セプトが耳打ちしてきた。


 彼女のサポートは本当にありがたい。最初こそあんなに人らしい感情を感じられない子だったが、すっかり可愛らしく……。

 こんな子から感情がなくなる原因。ブレイヴ・デバイスの動力源であることが関係することだけは間違いないだろうが、これ以上は想像ができないな……。


「それから、はい、忘れてたペンホルダーじゃよ。返し忘れていてすまんのう……」


 丁度ブレイヴ・デバイスについて考えている時に、セレスさんが俺にペンホルダーを渡してきた。

 その眼は、「欲しい、もっとこれについて知りたい、研究したい、分解したい」と光っていたが、それをされると俺の身に何があるかわかったものではない。


 確かに同じようにそれについての詳細は気になっているが、執行者(ユーザー)登録、とやらをされているようだし、それをいじって俺にどんな影響が出るかが不明瞭なので、今は直接いじりたくない。


「あげませんからね」

「え、あ、ま、まっさかぁ~欲しいだなんて、そんな~」


 どうやら図星だったようで、彼女は急に同時にモジモジし始めた。

 自力で稼いで生きられるようになるまでは彼女の家に居候することになるだろうし、寝てる間にデバイスをいじられないよう、警戒せねば。


「バカやってないでサッサと行くぞ。俺がお前に期待しているのは最初から戦ってくれることだったからな」


 会話を遮って戦闘態勢に入るなんて、おいおい、バーサーカーかよ。

 止める間もなく、戦いたくて仕方がないし俺をボコボコにしたい、とギラギラ光る目をしたバーサーカー……ではなく、セオさんに首根っこを掴まれて引きずられ、俺は強制的に店の外へと出された。


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