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仮面と白いチューリップ

作者: 高宮章

 僕は、失恋をした。多分、他の人から見ればただの意気地なしの恋なんだと思う。でも、ちゃんと恋をしてた記憶が僕の中にある。

 今は、広い海の上に浮かんでいたい。そしてそのまま海に溶けてしまいたい。何からも拒絶された世界で一人じっとしていたい。なんの声も、なんの音も、聞こえない場所に行きたい。孤独になりたい。いや、孤独とは違う。この世界から僕だけが消えてしまいたいんだ。

 

 彼女との出会いは、高1の春、入学式の日。空は、一層雲が広がっていた。雨が強く降っていた。そんな暗い場所で彼女の笑顔だけが数メートル離れた場所からでもわかるくらい光っていた。傘を指す彼女の姿は、凛としてきれいだった。

 その出来事から一年がたった。2年になり彼女とは、同じクラスになった。出席番号順に座ると席は隣。その時は、彼女のことをすっかり忘れていた。僕は、何も書かれていない黒板をただ眺めていた。そんなとき隣の彼女は僕によろしくと挨拶した。きょとんとしている僕に彼女は続けて名前、前のクラス、所属部活を言った。僕は、一度、我に返り仮面を被った。偽りという仮面を。

よろしく、と返す僕を彼女はじっと見つめていた。そして、あのとき見た笑顔で笑った。多分、気づかないだけでこのときからだったんだと思う。違う、気づきたくなかったんだ。

 彼女とは、同じ委員会になった。それもありLINEも交換した。それからは何日もLINEを続けた。話すことはたくさんあった。前のクラスのこと、部活のこと、委員会のこと、ほんとにたくさんあった。勿論、現実の世界でも話すことはあった。楽しかった。彼女と話していることが。ずっと続けばいいと思っていた。 

 修学旅行。班もバスも違った。別に合わせる必要もないと思っていたから。バス移動は3時間と長いときもあった。バスガイドも気を使って何も話さず、周りの友達も眠り車内はシーンと静まり返っている。僕は、窓の外を見る。永遠と景色が変わるのではないかと思うくらい外の景色は変化していった。外の世界を見つめていると携帯の画面がつく。彼女からのLINEだった。

今、寝てる?

寝てない。寝れない。

私もなんだよねー笑

彼女とのLINEは、久々だった。そこから今日はどんなことしたかとかを話した。既読は送ればすぐにつく、互いにそんな感じだった。修学旅行の風に吹かれて恋愛の話にもなった。互いに相手のことを恋愛対象として見てないからできたんだと思う。

 最後に僕が送ったのでそのLINEは途絶えた。彼女が寝てしまったから。寝れそうにないって言ってたのに。少し裏切られたような気がした。その後、彼女に会ったとき、僕は偽りの仮面をつけて接した。何も気にしてないような対応をした。

 あれから月日がたった。文化祭もクリスマスも僕達の関係にはなんの進展もない。ただの友達だから。

 彼女に彼氏ができた。相手は、僕が嫌いな人だった。その話を僕は彼女に一度している。僕はムカついてしまった。当てつけだと思った。僕は、軽蔑も含めて彼女としていたLINEに既読をつけて返信しなかった。親友にこのことを話すと”変わり者" "意固地"などと散々のいわれようだった。そんなことは自分でも理解してるつもりだ。でも、このときの僕は、これ以外のやり方を知らなかった子供だったんだ。

 僕は、彼女に彼氏ができたことを知って初めて自分の気持ちに気づいた。彼女に恋をしていたこと。ずっと、隣にいてほしいとおもっていたこと。でも、そんな気持ちはもう遅い。今更気づいてもどうしようもできない感情だった。はけ口のない厄介な感情。嫌いになろう、彼女のことを、そう胸に言い聞かせた。

 LINEを返さないと決めたときから数ヶ月がたち、3年生になっていた。彼女とは、またクラスが同じになった。前と同じクラスだったのは、彼女だけ。でも、僕達の間にある溝は深く深くなっていた。彼女のことは、なんでもないただの委員会が同じ人という関係でしか見ていなかった。LINEを返さないことには、徐々に罪悪感はなくなっていた。だけど、たまに彼女が帰り際笑顔でじゃあねと僕に言う。それをされてると僕は、自分のやっていることがあまりにも子供っぽく、バカなことをしてると思う。自分のやるせなさをただ彼女にぶつけてるだけ。十分にわかっているつもりだった。でも、体は動かない。行動に移すことはできなかった。

 ある日、親友から朗報だと連絡が来た。彼女がそろそろ別れるらしい。という内容だった。元々、彼女は乗り気じゃなかったらしいが、男のほうがかなり粘ったそうだ。気づいたら、僕は、彼女にLINEをしていた。

ごめん。

それしか送れなかった。許してもらうつもりはなかった。ただ自己満足で謝ったというものが欲しかった。数時間たち、彼女からのLINEが来た。

わっ。驚いたよ笑久しぶりだね笑

前と同じように返してくれた彼女にとんでもなく申し訳なくなってしまった。

気にしてない?

と送った。先程のごめんといい今のこの発言といい自己中すぎる発言だった。でも、そんなことを気にする余裕のないくらいに自分が悪いことをしてないという自覚が欲しかったんだ。

うーん、ちょっとくらいは笑

と、彼女が返す。続けて

きっと、私が付き合ってること聞いたんだなって思ってた。前に言ってたよね、あの人のこと、嫌いだって。

と返ってきた。うん。としか返せなかった。

でも、もう別れるよ。

と彼女から送られてくる。知っている。知っていて連絡をした。自分のズルさを感じた。でも、彼女には、それを知られたくなかったから嘘をついた。仮面を被った。

え、そうなの。なんで?

知っている。知っているけど、知らないふりをした。この後に及んで彼女に嫌われたくなかったから。笑えてしまう。自分の負の部分があまりにも大きく深いものだったと知ったから。

話聞いてくれる?今ちょっと、性格悪い期だけど。

と彼女から送られてきた。

うん。全部聞く。

その後は、彼女が彼氏となんで付き合い始めたのか、付き合っているときのこと、なんで別れようと思ったか、色々聞いた。同じ部活で気まずくのが嫌だから断れなかったと言っていた。

聞けば聞くほど、心の深い場所で喜ぶ自分もいた。つくづく自分の狡さが嫌になる。

ねえ、なんて別れるときなんて言ったらいいと思う?

そう聞かれた。僕には、そんなの答える権利なんてない。答えて言い訳がない。でも、返信してしまった。

良くないと思うけど、新しく彼氏を作るとか?笑

もう戻れない。自分のやっていることがどれほど浅はかで薄っぺらなことか。別れてほしいからアドバイスをしてしまった。普通ならそこまで気にすることのないことだろう。親友も気にしすぎだと言っていた。でも、僕は、"変わり者"だから。そのことがとても悪く感じた。大きな重りをつけたような気分だ。

 彼女は(無事?)別れたようだ。別れを切り出したときも彼氏から相当粘られたらしいが彼女は、頑なに自分の意見を曲げなかったと笑って言っていた。

 あれからも彼女とはLINEを続けていた。常に他愛もない話で盛り上がっていた。楽しいと思う反面、彼女とどんなに話しても、あのときの自分のズルさを拭いきれなかった。何度もLINEを返すのためらった。でも、返信をしないという選択肢は最終的にはなくなってしまう。僕には、彼女と話す権利があるのだろうか。平気に笑っていていいのか。そんなことが頭の中をぐるぐると回る。親友は、気にしすぎだ、というがやはり考えてしまう。ましてや、彼女に告白しようなんて禁忌としか思えない。もし、彼女に僕の思いを伝えたら、自分のずる賢さ、狡猾さが彼女に露呈してしまう。そうすれば、彼女は僕を軽蔑するだろう。そうなれば、彼女とは、友達でもいられなくなる、話すこともできなくなってしまう。笑っちゃうだろ、ここまできてまだ、彼女と友達でいたいと思ってしまっている。矛盾しているにもほどがある。自分があまりにもバカで自分勝手なのかよくわかった。

 彼女を好きな気持ちは段々と大きくなっていく。伝えたら、どんなに楽になれるだろうか。心のなかにある重りは消えるだろうか。そんなことを考える。

 僕は、最低だ。僕は、ずるい人間だ。クズだ。ベットに入ればそんなことが頭をよぎる。枕に顔を埋める。でも、消えない。そんな夜が何日も続いた。

 ある時、気づいた。彼女を嫌いになろうと。そうすれば、誰も傷つかずにすべてが終わるのではないかと思った。彼女が自分に脈がないのはわかっていた。そんな中で彼女を好きでいるのがどれほど苦しいか。今は、LINEだってしたくないほどだ。そんな気持ちになるなら恋なんてしなければいい。好きじゃなくなればいい、そう思った。

 僕は、仮面を被った。その仮面は、今までよりも一層に厚く、他人には、自分の本当の顔がわからないくらいのものだった。彼女は、好きでもなんでもない人そう言い聞かせた。

 教室の窓からは、色とりどりのチューリップ畑から一輪の白いチューリップが小さく見えた。

 

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