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巧血の乙女の人たち  作者: 功野 涼し
エレノア・ルンヴィク
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冒険者の乙女

 それは簡単で割りの良い仕事だ。1人の少女の訓練相手として本気で戦う。ただそれだけ。

 報奨金に加え、倒したら特別報酬まで上乗せされるという。


 噂には聞いていた。どんなに無様でも報奨金はもらえるから安心しろ。ただ治療費で8割くらい消えるかもしれないと。

 そんなバカなと、それは先の奴らが弱かったからだろうと……思っていた。


「よっと! あ、頭上注意ね」


 一人の仲間が少女の鮮やかな蹴りで倒れ、背後から迫っていた仲間は、上から落ちてきた氷の塊で頭を強打し倒れる。

 何が起きたかも分からない、考える暇もなくいつの間にか目の前にいた少女に見上げられ戦いの最中にドキリと心臓が跳ねる。


 心臓が跳ねたのは、可愛かったからなのか、恐怖なのか、考える暇もなく顎を殴られ、脳が大きく揺れ意識が遠くなっていく。



 * * *



「お父様! 私、冒険者になります!」


 エレノア(12歳)一族の会議中、立ち上がり発言する。

 どよめく周りなど気にもせず、目を輝かせエレノアは続ける。


「お父様はいつも、戦いの中で固まった考え方をするな、思考を常に巡らせ、知識と知識をかけあわせ敵を翻弄し圧倒しろ! そうおっしゃていますよね!」


「あ、ああ」


 エレノアの勢いに圧される父の返事にはキレがない。


「先日戦った冒険者の人たちの戦い方に感銘を受けました! 冒険者になればもっと多彩な戦闘方法を学び、思い付くと思うんです」


「だがエレノアよ、お前は跡継ぎ候補の筆頭、ここで家を空けるのは今後に響く」


 兄3人を差し置き、その実力と機転の良さから、今や本家の跡継ぎ筆頭のエレノア。


「それは仕方ないでしょう! ここで私が家を出て跡継ぎ候補から外れるようでしたら、それまでのことです! そんな人間が当主になっても未来はありません。そこは予定通りイノ兄さんにお任せしましょう!」


 開いた口が塞がらない、まさにそんな言葉がぴったりの顔の父を見て、日頃感情を表にあまり出さない母が、くすくす笑い出す。


「それに、世の中不穏な空気が漂っています。噂では魔王なる者が現れたとも聞きます。ここで私が活躍しルンヴィク家の名を知らしめるのにも良いのではないでしょうか」


 ルンヴィク家の名を知らしめる、エレノアにその気持ちがないわけではない。だが、ほとんどない。

 寧ろ家から出たい気持ちの方が強い、名前は名乗れば良かろうの精神である。


 仕来たりを重んじるルンヴィク家に置いて、よくよく聞けば無茶苦茶な言い分だが、それを堂々と宣言する。


 それも家族だけでなく、一族の前で行うことで皆を動揺させ、反対以外の意見を引き出させる目論み通り、エレノアに跡を継がせる反対派の意見を味方にして、家を出ることに成功する。


 冒険者エレノアの誕生である。



 * * *



 金髪ボブの少女は小さな木造の家の中で、初老の男性と若い男性とテーブルを挟んでなにやら言い合いをしている。


 テーブルの上に雑に広げられた紙には、魔物の討伐依頼の文字が見える。


「私たちギルドの正式な手続きを踏んでここに来たんです! なのに報奨金は半分以下ってどういうことですか!」


 テーブルにドンッと両手を突き、男性2人を睨む金髪の少女。

 初老の男性はニヤニヤしながら答える。


「契約書の希望欄に、5星勇者又はそれに準じる実力者希望と書いてあるだろう? あんたらがそれに該当するって証拠がないんだが」


 書類に記載されている、希望欄を指でトントンと叩いて『5星勇者』の文字をアピールしてくる。


「でもワイバーンの討伐はちゃんと果たしてます! 討伐証明書もギルドの方から出ています! 死体もちゃんと見ましたよね」


「ああ見たとも、確かにワイバーンで間違いないが、依頼書には胸に傷があるワイバーンが暴れて困っていると書いてるだろう? あの死体には身体中に傷があって、依頼のワイバーンなのかまでは分からんのだが?」


「くっ、討伐するときに付いた傷が付くのは当たり前です! それに傷が新しいかどうかを見れば分かるんじゃないですか!」


「こちらと素人でね、傷の鮮度なんて分からないわけさ。ほら、お金はきっちり半分払うからこれで帰ってもらえるか? あんたらもここにずっといても金増えないって分かるだろ?

 それとも、あんたと連れで今晩相手してくれるってなら、残り半分も考えてやらんでもないがな」


 ニタニタ笑う2人の男に、金髪の少女は嫌悪感を全面に出して睨み付ける。


「もういいです!」


 少女はお金の入った袋を引ったくると、ドアを乱暴に開け背中に、憎たらしい「ご苦労様」の言葉を受けながら外へと出ていく。


 外に出ると子どもたちと遊んでいた赤い髪の黒いゴシック調のワンピースドレスを着た女性、エレノア(15歳)が、金髪の少女に気付き、話しかけてくる。


「どうだった? 交渉上手くいった?」


 少女はドカドカと足音を鳴らしながら、不機嫌な顔で歩いて来るが、近くでエレノアの顔を見るとシュンとして項垂れる。


「私に交渉任せてくれってお願いしたのに、失敗しました……ごめんなさい」


「よしよし、シェルは頑張ったっ」


 エレノアはシェルと呼ばれた少女の頭を撫でると、ますますシェルはシュンとする。


「私らみたいな女は嘗められるからねぇ。すぐ足元を見られるし、相手も嘗めた態度取ってくるでしょ。これも経験、経験! 次頑張ろっ!」


「ふぅ~、ありがとうございます。はい、頑張ります」


 そう言って帰ろうとするシェルの肩にエレノアが手をかけて引き留める。


「さて、もう一仕事して足りない分に加え、お金を更に上乗せしてもらわないとねっ!」


 ニタリと笑うエレノア。



 ────────────────────────────────────────


『転生の女神シルマの補足コーナーっす』


 みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。今回で2回目っす!


 ※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。


 まずは用語の説明から


 ワイバーン……ドラゴンに似た生き物ですが、この世界では地上を4足歩行で走る大きなトカゲみたいな姿をしています。

 前足には翼がついており、それを利用して滑空する姿を見た者もいるとか。


 ギルド……エレノアたちの住むエウロパ王国に存在するギルドは、冒険者と依頼主の中継を担っています。

 国の組織に属してはいませんが、関わりはかなり大きかった模様。


 依頼主は、ギルドに対して依頼を出した際依頼金を払います。

 このとき8割をギルドが、2割を達成した冒険者に支払われる金額となります。

 これに加えて、達成した際の報酬、報奨金を設定します。


 この報酬金はギルドには入ってこないお金となりますので、実際に設定した金額が支払われないケースも、逆に冒険者側が恐喝するケースも希にあります。


 討伐依頼の際、本当に討伐したのか、トラブルを避ける為に討伐証明書をギルドが発行してくれますが、これは冒険者側がお金をギルドに払い依頼します。


 証明する担当者と現地に向かい、討伐した死体を鑑定し、紙に複写出来る投影魔法を使用したカラーと鑑定結果、ギルドの印を押してくれます。


 それがあっても今回のようにトラブルになるケースはあります。

 エレノアは、駆け出しの冒険者、シェルの経験の為に今回の交渉は全て任せています。



 次回『血も滴るいい乙女』


 冒険者としての生き方を教える先輩エレノアのお話っす!

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