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巧血の乙女の人たち  作者: 功野 涼し
エレノア・ルンヴィク
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エレノア生誕

 エレノア・ルンヴィクは、ルンヴィク家の長女として、父アルダスと母親リリーの間に生まれる。


 彼女には腹違いの3人の兄がいた。基本、代々男が家を継ぐルンヴィク家において、エレノアは当主とは無関係な立場であり、ある程度の戦闘訓練を経たのち、結婚に向け生きていくそんな人生であったはずだった。


 だがそれは、彼女の力が発現し、その力が兄たちを凌駕するものであることが分かるまでの短い期間であった。


 基本女性は家の決めた相手と結婚するのだが、そんな古い仕来たりなど吹き飛ばすほど彼女の力は強かったのだ。


 自らをの体を傷つけ、血を流し、文字を書く『巧血鏖殺術こうけつおうさつじゅつ』は、幼い頃から体に傷をつけることに慣れる必要がある。


 エレノア(3歳)が泣き叫び暴れるのを皆が押さえ、父親がエレノアの腕を切り、出た血をエレノアの指で掬わせ、手を握って無理矢理宙に描いた魔方陣。


 それを泣きながら怒ったエレノアが殴ると、魔方陣から激しい炎が舞い上がり、周囲の人を驚かせる。その後も、各属性にて強い適応性を見せ、尚且つ戦闘センスもあることが分かる。


 その才能に惚れ込んだ父親は、エレノアに厳しい修行を課する。その修行は一歩間違えば死に至る程の激しいもので、周囲の人々の方が心配するものであった。


 初めこそ父の教えを、忠実に守ろうとするエレノアだったが、彼女は厳格な父をも困らせることがあった。


 それは豪快奔放、大胆不敵とも言える性格。


 大人しく、物静かな母から生まれたとは思えない彼女の性格に、皆が振り回されはじめる。



 * * *



 どこか和風を思わせる、横長の大きな屋敷で、大人たちが騒ぎながら走り回っている。


「いたか?」


「いや、見てない」


「くそっ、エレノア嬢はどこへ」


 3人の男が向かい合い焦っていると、上から叫び声をあげながら1人の男が落ちてくる。


 落ちてきた男は、上半身だけ起こすと震える手で上を指差す。言葉は交わさずとも3人は理解し、屋根へと飛び上がる。


「うわっ、3人も増えた。最悪だ!」


 屋根の上で別の1人の男を蹴り転がすと、新たに上がってきた3人の男を見て、心底嫌そうな顔をするのはエレノア(9歳)である。


「ま、来たからには遠慮しないよ」


 ニタリと笑うエレノアが、自分の右腕を切ると、滴る血を這わし指先で描く魔方陣が赤く輝き始める。


 武器を手に身構える男たちの目の前で、エレノアは腕に雷を纏い低く構える。


 それを見て3人は自らに、雷耐性の魔法をかける。


 相手の属性魔法に対し耐性魔法をかける、この世界では至極常識なことである。


 雷鳴と共に横一閃に走る雷が、3人の防御を激しく削る。

 だが耐えれないわけではない。耐えきったら反撃に! 男たちは一瞬だけそう思った。


「あまあまだねっ」


 エレノアが、パチンっと鳴らす指に合わせて、男たちの足元に水の線が走る。

 流れる水に足を取られ盛大に転ける3人。彼らを未だに襲っていた雷は、水という新たな媒体を得て水上を走り抜ける。


 一撃目でギリギリだった彼らの防御は、2撃目であえなく破られ感電することになる。

 ついでに水の流れでスリップして顔面を強打するオマケ付きだ。


 手をパンパンと払い、ご満悦つな笑顔を見せるエレノアの元に1人の男が立ちはだかる。


「エレノア! また訓練を抜け出したな! 最後まで参加しろと言っているだろう!」


「セシリオ兄さん、そんな怒んないでよぉ。組み手10人抜きしたら、今日は終わりぃ~って話だったじゃん。なんなら今の合わせたら16人くらい倒してるよ」


 屋根の上に登って来た男はエレノアの兄、名をセシリオという。

 年も14歳と近く、真面目な性格の彼はエレノアと相性が悪く、ことあるごとにぶつかっていた。


 セシリオは問答無用とばかりに自らの腕を切り、流れる血を手のひらに塗り大きく円を描き文字を描いていく。


「火炎球ねぇ、セシリオ兄さん直感的すぎ。私の方が先にここにいるんだから警戒しなきゃ」


 セシリオの描いた魔方陣が発動する前に、エレノアが上空にばらまく小石は、屋根の上に描いてあった魔方陣から水の蛇を生み出す。

 蛇はセシリオを捕らえんと、体を伸ばし執拗に攻撃を繰り出す。


 セシリオが魔方陣を掻きむしるようにして、火の玉を発動させエレノアに飛ばすが、既に姿はなく明後日の方へ飛んでいく。


「みんなさぁ、魔法に頼りすぎ。ついでに直感的すぎだって言ってるじゃん」


 いつの間にか目の前にいたエレノアに驚くと同時に、鳩尾にめり込む拳。だが9歳の女の子の攻撃、14歳で尚且つ鍛えているセシリオは、不意を突かれたとはいえ、腹に力を入れ耐える。


 しかし、その努力も虚しく、両腕から水の蛇が螺旋を描き絡み付き、両足、全身を蛇に縛られ、す巻きになり目と鼻しか見えていないセシリオは屋根に転がる。


「これで、訓練終了ってことで。お疲れさまでしたぁ!」


 す巻きのままモガモガ言いながら、バタバタ跳ねるセシリオを置いて、屋根をぴょんぴょん飛んでエレノアは逃げていく。


 その途中下にいた父親と目が合うが、すぐに反らしそのまま去っていく。


(まったく、お父様はこうなることを分かって、セシリオ兄さんたちを焚き付けたんだ。

 実践形式で訓練するってこういうこと? 油断も隙もないんだから。それにこれって完全に私が悪者じゃん。腹立つわ~)


 自由奔放に生き、生半可な訓練もこなせるエレノア。

 皆と一緒に普通に訓練しても伸びない、そう考えた父は、実践形式の訓練と称して、エレノアに向け度々親族、弟子、場合によっては雇った戦士を送ってくるようになる。


 確かにこのことは、エレノアを成長させることになる。特に雇われた戦士たちとの戦いは、その多種多様な戦い方、チームで欠点を補い長所を生かす。そんな戦い方を見て外に出たい! エレノアにそう思わせる十分な切っ掛けとなるのだ。



 ────────────────────────────────────────


『転生の女神シルマの補足コーナーっす』


 みんなの女神こと、シルマさんが細かい設定を補足するコーナーっす。本編に直接関わらないっすけど、お付き合いいただけると嬉しいっす!


 ※文章が読みづらくなるので「~っす」は省いています。必要な方は脳内補完をお願いします。


 父親、アルダス(43)母親、リリー(19)で結婚して翌年エレノアが誕生。

 本家の当主であるアルダスと、分家の娘リリーの結婚は各家の思惑あってのものとなります。


 前妻のアーネ(27)はリリーと再婚する3年前に亡くなっています。

 アルダスとアーネの間にできた子は3人。


 イノ(長男)ジルス(次男)セシリオ(三男)


 本家に男の子が生まれており、再婚のリリーが女の子を産んだことで、跡継ぎは長男イノでほぼ決まっていたところに突如現れたエレノアの存在。


 過去に女性当主も存在していたとはいえ、現当主のエレノアを跡継ぎ候補に! の発言はどろどろの権力争いに! 


 色々事件はあったようですが、あまり大事にならなかったのは、エレノア自身の性格と、母に対しての想いあっての行動によるもの(このあたりはまた別の話)も大きかったようです。


 次回『冒険者の乙女』


 家を飛び出し冒険者となることを選んだ少女のお話っす!

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