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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十五話 立川アドヴェンチャーズスクール
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 授業が始まっても尾地は惚けていた。


 若者の熱に当てられたわけではない。


 そう思いながらも尾地は自身の青春期を振り返った。


 「そんな熱を自分は持ったことはあるのだろうか」


 何者かになりたいと思った自分を探したが、それは見つからなかった。ただのモラトリアム期間だった学生時代。なにかに熱中することもなかった。いつかそういったものが来るかと思っていたら、首都沈没が起き、人生を失わせる氷河期時代に入った。未来への選択は奪われ、冒険者として徴用された。


 冒険者に対して憧れを感じたことは一瞬としてない。


 彼女たちは冒険者になりたいと思っている。それが人生を良くする道だと思っている。


 「それを否定する気はない」


 指先でいじっていた教科書。そのページを開いてみる。ダンジョンの構造についてのページだった。尾地は二十年以上冒険者をやってきた。それでもそこに書かれていることは、彼も知らない内容だった。




 「ダンジョンをしきる壁の厚さの平均は階層が深くなるほど厚くなっていく」


 どうでもいい知識だ。これが冒険者の活動に影響することはほとんどないといっていいだろう。


 「壁…厚くなってたかな…」


 尾地の長年にわたる経験でも壁の厚さに関する知識はない。なんどかぶち破ったことはあったが、気にしたことはなかった。しかし、この社会にはそれを調べた連中がいて、それをまとめ上げて教科書にも載った。


 ページをパラパラとめくり、違うページを読む。


 「ダンジョンの特殊形状の発生の割合」


 ボス敵がいるようなダンジョン内の特殊空間の発生率が各駅ごとに載っている。それは、尾地の経験とも合致していた。だが視点が違った。尾地のは実地で見た、戦った経験だが、この教科書に載っているのは俯瞰したデータだ。この知識たちは尾地にダンジョンに対する新たな見方を授けてくれた。


 知っていると思っていた男に、まだまだ知らないということを教えてくれた。


 尾地は教室の中で一人、次々とページを捲り夢中で教科書を読み始めた。




 体育実技はアーマーの使用法を教えるばかりではない。ダンジョン内での動き方も教え込む。戦闘技術の前提となる位置取りの基礎も教えている。


 「尾地ク~ン、扉のとこで止まらないで」


 ダンジョンの部屋に突入した際のクリアリング術。部屋を制圧する時のリスクを減らす技術だ。


 尾地は普段の仕事通り、部屋に入った時に扉を足で押さえてパーティーが分断される危険をなくす動きをしたが、教師のタジマに注意された。


 注意された尾地は体育館に設えられた模擬ダンジョンから出て教師のタジマに詰め寄る。


 その勢いがあまりに強いため他の生徒もタジマも歳上の尾地が注意されたことに怒ったかのように見えたが


 「どういうこと?」


 「前衛が扉を押さえるのって昔のことで、今は後衛がやるってことに変わったの。その方が突入スピードが増して全体としてのリスクを軽減しますから…」


 タジマは教科書どおりのことを教科書どおりに説明した。それを聞いた尾地はしばらく考えた後で、


 「なるほど…もう一回お願いしま~す」


 と他の生徒に声をかけて、今度は教科書どおりにやってみた。


 その動きに合理性を見出したのか、尾地は何度もその動きを繰り返して確認していた。


 とにかく尾地は一生懸命だった。


 他のどの生徒よりも真面目に動いて、誰よりも早く理解した。


 教科書に書かれるほどの知識の価値を、他の生徒よりも、教師よりも理解していた。


 体育実技の時、尾地は他の生徒との年齢差を全く気にしなくなっていた。同じ学びをする生徒の一人として、常に率先して動いた。


 ここにある知識を自分のものにしたいという意識は、若者と変わらず、あるいはそれ以上だった。


 それは座学においても現れた。


 マッパーの基本授業。専門職として行ったことはなかったが、彼の仲間のマッパーの仕事ぶりは長年見てきた。そのマッパーの動きの裏付けが教科書には載っていた。


 「モンスターの発生確率の予測精度は、ここ数年で飛躍的に向上している。予測プログラムの精度が上がったということもあるが、それよりも各パーティーに与えられた端末の情報収集精度が上がったこと、その情報を吸い上げるネットワーク能力の拡充の方が大きい」


 尾地が教科書の情報を熱っぽく読み上げるとイインチョウが


 「ギルドの情報処理部門が積極的にバージョナップを重ねているみたいです。今や情報処理能力の向上がダンジョン攻略の鍵になってるんです」


 知っている知識で喜んで返す。二人の盛り上がりにキリカはついていけないようだ。


 「わっかんなーい」


 いつの間にか尾地は、クラスでもっとも熱心な生徒になっていた。彼はこの教科書たちの情報の活用法も価値もわかっていた。宝を一粒残さず自分のものにしたい、というのは冒険者の性であった。


 その熱と姿勢はクラス全体に波及していったが、それを快く思っていない子供たちもいた。



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