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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十五話 立川アドヴェンチャーズスクール
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 朝、尾地が教室に入るとキリカとイインチョウが二人で教科書を開いて盛り上がっていた。


 普段どおりにそのまま着席し、地蔵のように授業開始までの時間を待つこともできたが、彼女ら二人が話しかけてきたのは昨日のことである。


 空気のような存在と思われるのはいいが、不義理かつ無作法と思われるのは心外である。


 やむなく尾地の方から話しかけた。


 「おはようございます。なにがそんなに面白いですか?」


 「オハヨー、オジ。教科書見てたらさー。原宿口ダンジョンって二十階層から下が発見されたのってつい最近ってあってさー。ヤバくない?」


 「はぁ」


 その情報でどう盛り上がるというのか、尾地には謎であった。


 「それを発見したのが、怒竜剣って若いパーティーだなって、ちょっとかっこいいなって」


 イインチョウの方は少し恥ずかしそうだった。若いかっこいい冒険者に盛り上がっていたのを見られたのが恥ずかしいようだ。


 「ホラ、この人達、すごいよね。私らとそんなに歳も違わないのに」


 「赤羽駅ルート開通したのもその人達だって」


 教科書には不釣り合いな若者の姿がカラー写真で載っていた。冒険者の歴史は浅く若い。つねに歴史が書き足される熱気ある生きた歴史書なのだ。


 「あー若くてかっこいいですね」


 尾地は無感動に言った。若い女の子が若い男の子にキャーキャー言ってる。特にかかわる必要のない会話だと思った。


 「カッコよさとかどうでもいいの!」


 キリカもイインチョウも同時に言った。


 「この、わかんないかな!私らでも手が届きそうな。がんばればいけそうな…凄さっていうか」


 「もどかしさっていうのか、こういうの初めなんです!今いる場所が未来につながってるって感じ」


 「イインチョ、いいこと言う~」


 二人の少女は尾地の前でジタバタとする。


 「ワタシらもがんばれば、なにかすごいことができそう…っていうか!」


 「まだ手つかずのダンジョンが私達を待っている…っていうか!」


 二人は熱い思いを言葉にできずに悶えているようだ。やがてクラスメートが次々と入ってきて、チャイムがなったため、尾地はその場を離れて自分の席に着いた。


 ただ、彼女たちが発した熱をモロに浴びたため、普段のような石のような気持ちには戻れなかった。


  


 窓から入ってくる風がカーテンを揺らし、熱に当てられた尾地の体を冷ました。それでも心はまだ揺れていた。


 教科書の小口のに指を当て、パラパラと無意識にページを流す。


 尾地が今、感じた熱がなんであるのかは検討がついた。彼も伊達に歳はとっていない。


 若者が青春を燃やす熱だ。正確に言うと、世間を知らない若者が世間に飛び込む時にのみ発する熱。コレこそが自分の人生と信じた時に生まれる、唯一無二の熱だ。


 「フー」


 熱に当てられた体を冷ますため、尾地はため息を一つついた。その熱は体の深部にまで入り込んだようで、まだ冷めそうになかった。



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