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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十四話 お付き合いのはじまり
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 シンウ「今まで感じた最大の痛みってあの時でしたね。守るものがなにもない。仲間もいない。ただ一人で裸でダンジョンにいるような状態の時に、横から砂でいっぱいのドラム缶がぶつかってきたみたいな。


 痛みも限度を超えると感じなくなるっていうか、ギガントオークに殴られた上半身の横全面よりも、そのあと壁にぶつかった時の頭の方が痛かったかも知れないけど、とにかく……ひどかった。


 殴られた上半身がグシャグシャにひきつるみたいになって、床を転がった。でも弟だけは守らないとって、お父さんに約束したから。アイツのそばにいないとって這っていったら、彼がいたんです」






 「今日はついてるな」中年男性は確認するように言った。倒れた弟の前に立ち、這いずる姉の前に立ち、壁のようなギガントオークの前にも立った。全ての中心に立っていた。


 「生きてますか?」姉に向かって男は訪ねた。答えようとしたシンウの口は苦しい息しか吐けなかった。


 「大丈夫、よく頑張ったね」男は彼女の返事を待たずに優しく声をかけ続けた。返事の代わりにシンウの目から涙がこぼれだした。その涙には血が混じっていた。


 その涙を見て納得した中年は、ただ一人ギガントオークの前に立ちふさがった。シンウは倒れながら見上げるその背中が、とても嬉しかった。


 中年男は腰の装備していた折りたたみ式の手斧を展開し、小さな武器一つで巨人を対峙する。「今日はまだ用事がいっぱいあるんで」中年は襲いかかるオークにそう語りかけ、振り下ろされる豪腕が彼の顔をかすめた時


 「手短に済ます」


 彼の持つ小さな刃は空中を舞う光の帯に変わる。彼の装着したアーマーもメモリーの発光現象で輝き、彼の肉体の動きを流れる虹の様に描き出した。


 ギガントオークの体の下から上まで、残像と剣光が登りあがる。


 足元から順に生命のスイッチを消されたように、役目の終わったクリスマスツリーのように、その巨体は命を失って倒れた。


 中年男性は、倒れた巨体の前に、静かに着地した。


 わずか数瞬で巨体の急所という急所を斬りまくったのだ。的確に刻まれた小さすぎる切断面はわずかな出血によってのみ、認識できるものであった。


 「こういうやりやすい相手だってのもついてたな」中年男性は倒した巨人がメモリーに変わっていくのも無視してシンウのそばに近づいてきた。


 


 ニイ「どんな顔?」


 シンウ「中年男性で…眼鏡で…ヒゲボウボウ」


 ニイ「ヒゲの救世主か…イケメンだったの?」


 シンウ「覚えてないですよ。救助隊のおじさんですよ、おじさんの顔なんてそんなシゲシゲと見ないですよ」




 シンウはその男の顔から目が離せなかった。彼が無造作に彼女の脇腹から脇の下まで手を這わせていたときも、嫌悪感も生ず、その手の温かみをいつまでも感じていたいとすら思っていた。


 「アバラは大丈夫みたいだね。その…大丈夫ですか?」その言葉でようやく、自分がほうけていたことに気づいたくらいだ。


 「ハイ、ダイジョウブです」


 その言葉を聞いた男は倒れていたジンクの方を見に行った。ジンクも弱い声ながら無事だと伝えてきた。


 中年男は持ってきた背負子を展開し、歩けないジンクを背中に背負った。そして手をシンウに差し出し「さあ帰りましょう」と声をかけた。シンウは痛む脇腹を抑えながら彼の腕に引き上げられ、彼の体に半身を預けた。


 男の体の温かみを感じながら、ゆっくりと昇降機の方に向かって歩いていった。






 私が戻った時には昇降機は上に行ってて、あの男の子はもう先に戻ったみたいだった。まあ彼には彼の人生があり、守るべき優先順位があるってことです、本来ならその順位を遵守する場面と遭遇するはずもなかったんだが、不幸にも彼は事故と遭遇した。そこで彼は本当の自分と出会ってしまった。それこそが不幸な事故ってやつですよ。誰にでもある。私にだっていつかあるかもしれない。


 なんの話かわからない? ああ、じゃあ記録しなくていいです。


 で、二人を上層階の救助隊に引き渡した後、私は彼女たちの滑落地点に戻って、散々探して残り二人も見つけたってわけ。


 計五人、若き冒険者パーティーの未来を救ったってわけだ。






 「その後は、まあ結局居づらくなってパーティーを抜けました。会えないでしょ、お互いに。命がかかった場面で、お互いに証明をしてしまった。なにを優先する人間かってことを。それからしばらくジンクと野良のパーティーで過ごしました」


 シンクは自らの冒険の話を語り尽くした。ファミレスの窓からは、もう夕日が差し込んでいた。テーブルの上の食器たちはとっく下げられ、冷たい飲み物が三つ並んでいるだけだった。


 重々しい空気がテーブル席に充満している。冒険者アルアル話を聞けると思っていたスイホウとニイも、仲間の裏切りというハードな話をされて、神妙な顔で聞き続けるしかなかった。


 「だから、今回の募集を見て、ここだったらうまくいくんじゃないかなって思って応募しました」


 シンウは最後の最後で面接モードの締めを行い、場の空気を少なからず和らげてみせた。


 「苦労したんだね~」


 ニイもスイホウも泣き笑いでシンウを労った。一年前の事故で傷つき、成長した少女を褒め称えた。


 ニイとスイホウは目を合わせ、この子ならいいんじゃね?とお互いに思っていることを無言で確認した。その時、ファミレスの扉が勢いよく開いて、入店のチャイム音がひときわ大きく鳴り響いた。


 小さな可愛らしい少女が入り口に立ち、こちらを睨んでいた。


 ずかずかと近づいてきた少女は年上のニイとスイホウに怒鳴りつけた。


 「オイ!お前ら私に嘘の面接時間を教えたな!」


 小さな少女の可愛らしい怒声にオドオドと答えるニイ


 「ほ、ほら、最初は私達がフルイにかけて…」


 「それからリーダーが決定する流れがいいかな~って」


 スイホウが続けて答えるが、少女は納得しない。


 「お前ら、私がこのナリで面接したら、なめられると思ったからだろ」


 たしかにそのナリは愛らしい少女そのもので、とても面接官として審査する人間には見えない。社会科見学の子供としか見えない。


 「あ、あの~~」


 面接の応募者であるシンウがソロソロと尋ねると


 「どうも、このパーティーのリーダーのホリーチェ・世来です」


 少女は堂々と自己紹介をした。


 子供がリーダーとして登場し、シンウは少し、この応募を考え直さなければならないな、と思った。


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] ホリーチェたちをメインに据えた物語でもよかったかもしれません。尾地さんの来歴や言動がこのパーティとは異物感があり過ぎて馴染んでいない。これは狙い通りなのでしょうか?ただどちらのストーリーも…
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