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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十三話 同じ昼、同じ夜、違う人生
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 国立市 養護施設「伊万里園」中庭


 尾地の「ホリーチェは錬金術師だ」という言葉に驚いた伊万里リンジュは


 「そう…それは確かなの?」


 静かに確認をした。


 「言ったとおり、俺は彼女と仕事を…モンスター討伐をしていた。その戦闘のさなかで彼女はメモリーから物質を創造した。完全にゼロからだ」


 「まあ、あなたが言うのだから確かなのでしょうね。それで?」


 「口封じと証拠の隠滅。出来る限りのことはした。これまでもその才能の片鱗はあったが、俺の想像を越えた才能だった。危険領域に入ってしまった。他に手段がないからと彼女に実行させた俺にも問題があった」


 「私の代替品が手に入ると政府に知られたら、それは危険なことよ」


 「だから、ここに来た。助言をもらうために」


 「助言?あなたが私に助言を求める?全部知ってるくせに!」


 リンジュの声は一段高くなった。


 「分かってる。分かってるけど、キミがどうすべきだと思うかを聞きたい」


 「私がどう思おうと、あなたに関係があるの?私を恐れて、逃げたあなたに?」


 リンジュの言葉の圧に押し込まれていく尾地。


 「逃げた…わけじゃない。俺ではどうしようもなかったから、なにも出来ないから。一緒にいられないって思ったから…」


 弱々しく言い訳を続ける。


 「そうね、教えてあげる。錬金術師がどういう目に合うのかを、私がどうなったのかを!」


 尾地は、今まさに目を開かんとするメデューサを前にした人間のように縮こまっている。


 「錬金術師…忌まわしきその名は私のために作られた。極めて特殊な才能。メモリーとの圧倒的な親和性。


 錬金術師、それはメモリーで万物を創造できる天才の称号。メモリーさえあればなんでも作り出すことができる。凡人が”再生”という児戯に苦労している間に錬金術師はビルを創造する。脳内に完璧なイメージさえあれば一人で都市すら作れる。


 錬金術師は天が与えた最後の希望にして、社会に飼われる奴隷の名前よ。


 全ての人間が私を奪おうとする。再建のために、社会の復興のために、世界の復活のために。アレを作れ、コレを作れ、駅だ、橋だ、ビルだ。メモリーさえ与えれば奇跡のように建物が生まれる。大人たちは大喜びよ。廃墟となった東京を蘇らせられる、しかもタダで。


 あなたは知っているの?ビル一つにいくつの部品があるのか?何十万という部品を覚えさせられる。そして出来たら、水平じゃない、水が通らないって罵声を浴びせられる」


  尾地は亀のように首をすくめ、嵐に耐えるしかなかった。自分が招来した嵐だ。


 「私の人生は建物の件数で分割させられた。一人の人生を使い切れば何百棟ものビルが建てられるって。私の才能は、人生は、人類のための物だって。衣食住を与えていればビルをひり出す女として扱われた」


 尾地は耳をそばだていた。彼女の静かな怒りを聞き逃さず体内に取り込まなければならかった。それが彼の義務だった。


 彼女の嵐はようやく収まった。


 「だから、この目を潰したの。もう誰も、私に建物の設計図を見せることは出来ないのよって」


 リンジュの開かぬ眼が尾地を見つめていた。


 「でも、目を潰しただけでは、取り出しただけでは魔法で治される。だから目を取った痕に別の器官を新造したの、錬金術師らしくね。デタラメな内蔵を作り出し定着させた。もうこれでどんな白魔法使いも私の目を治せない。私自身にも」


 静かに語り終えた。尾地は凍りついたように動けない。彼女の顔を、その傷痕を見ることができない。


 「いいこともあったわ、その愚かな女を哀れんでか、政府は施設を用意してくれた。その盲目の女はそこに自分の教会を作った。頭の中の教会を再現してみせた。どんな出来かは残念ながら見られないけど、想像はつくわ」


 人の手を介さないでメモリーによって作られた教会が、中庭に影を落とし始めていた。種子から生まれなかった奇跡のバラの、半透明の輝きが陰る。


 リンジュは紅茶を一口のみ、積年の恨み言を吐いて乾いた喉を潤した。


 「だから、キミに会わせる顔はなかったんだ」


 尾地がようやくそれだけ言うと。


 「そうね」


 紅茶を見つめながら、リンジュは残念そうに言った。




 「彼女を、ホリーチェを守りなさい。尾地」


 リンジュが命令する。


 「無理だ。俺では…俺は人を守れない」


 「私を守れなかったことを少しでも後悔してるなら、ホリーチェを守りなさい。そうすれば、アナタも少しは楽になるはずです」


 「キミもか?」


 「そうね、同じことが起きないってだけでも、被害者の心は浮かばれることもある。だから、守りなさい」


 「俺は…約束できない」


 尾地のその情けない返事に、リンジュは諦めのため息をついた。


 



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