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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十二話 渋谷駅 「渋谷駅崩壊 おじさんたち死闘する」
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 崩れた壁からこぼれだした夜の闇が建物内部を染め上げていった。


 西側の壁を失った渋谷駅エントランスホールは、爆心地のような惨状だった。


 全てが崩れ吹き飛ばされ、元の位置に存在しているのは、わずかな鉄骨の柱のみだった。


 その枯れ木のような鉄骨には二階部分を形成していた床のコンクリがわずかに残って、枝のように横に伸びていた。


 そのコンクリの枝の影の中に尾地がいた。


 とっさにジャンプした彼が助かったのはただただ幸運がゆえであった。かれの腹の上には抱えて飛んだおかげで、同じく無事だったホリーチェがいる。


 夜の闇に占領されたエントランスホール。他のメンバーの姿は見えない。


 そしてこの惨状を引き起こした敵、スキュミラの姿も見えない。


 見えないからといって油断していいわけではない。


 影に隠れたまま身じろぎもせず、尾地は手元の端末に小声で話しかけた。


 「こちら尾地、生きている者は返事しろ。返事ができない場合は緊急信号を打て」


 闇に隠れ、反応を暫く待つ。


 ホリーチェがもぞりと動き、コンクリのホコリが床に落ちる。


 「こちら、ザンゾオ、メイビとともに無事」


 後ろにいた中年組は無事だったようだ。


 続いて魔法使いの女性二人、ホシナとミツマも無事であることを告げた。彼女たちも比較的後方にいた。


 それ以降、反応はなかった。行動不能になった冒険者が出す緊急信号もどこからも発信されなかった。


 これだけか、と思った時


 「こちらトリヤ。生きてるが動けない。足が潰れてる」


 苦しそうな声だ。


 「了解した。しばらく待て、すぐ助ける」


 尾地はそれだけ伝えると、神経を集中し敵の気配を探した。


 三分間気配を探り続けたが物音一つしない。渋谷駅の外に住む動物たちの鳴き声が僅かに聞こえたのみだった。もうここにはいないと判断した尾地はホリーチェと一緒に地上に降り、トリヤの位置を探した。


 上の階に避難していたザンゾオとメイビも地上に降りて、そばにいたトリヤを発見した。


 コンクリの床を二人で持ち上げ、尾地がトリヤを救出する。たしかに彼の足は潰れていた。治療をホリーチェに任せて、尾地は魔法使いの二人も見つけて連れてきた。


 生き残りは総勢七名、一人は重傷。


 それ以外の、前衛で戦っていた三名と、ゴイ軍曹と、彼の看護をしていたサポートメンバー三名の姿が見えない。崩れ落ちた瓦礫の下にいることだけはたしかだ。




 「引きましょう。ここまでです」


 尾地が決断した。


 「仲間置いて逃げれるかァ…みんなでやれば掘り出せるだろッ」


 未だ治療中で寝そべったままのトリヤが血の混じった言葉を吐いた。


 「たしかに瓦礫の除去は我々なら可能です。しかし、そこにまたスキュミラが戻ってきたらどうなります?武器も満足にないのですよ。今度こそ全滅です」


 「あぁッ!」


 トリヤは傷の痛みと心の痛みで叫び声を出す。だが彼も状況をわかっている、叫びをなんとか押し殺している。


 「悔しさは今は無用です。ここにいる人だけでも生きて帰します。そのうえで新たに戦力を整えて再戦します。蘇生の可能性はまだ充分に高い」


 「だが戦力といっても、雑魚をいくら揃えても話にならんぞ、アレは。上から見てたがアイツ、剣で切った傷の回復も早かった。即死させないといくらでも長引くぞ」


 ザンゾオが見た情報を尾地に伝える。


 その言葉に尾地も悩む。現状用意できる最大の戦力、守備隊の特殊兵器にプラスして冒険者パーティーの中でも屈指のボスキラーと言われていた怒竜剣の二つを用意しても敗北したのだ。


 ホリーチェが行っていた治療を、怒竜剣の白魔法使いが引き継ぐ。大きな傷はほとんど治して後は任せた。手空きになったホリーチェは廃墟の中を探索し始めた。


 そんな危険な行為に気づかないのか、尾地はザンゾオと相談し続けていた。


 撤退以外に選択肢はないか、尾地も悩んでいた。


 「ウヒョヒョ、これは凄い」


 瓦礫の奥から聞こえてきた素っ頓狂なホリーチェの声に眉をしかめる尾地。声のした方に向かいながら。


 「ホリーチェさん、少しおとなしくしててくださいよ」


 瓦礫を越えた先にあるものを見た時に、尾地も思わず声を上げた。 


 「ウヒョ」


 そこは渋谷駅のギルド支部の部屋、壁が打ち壊され内部に自由に出入り出来るようになっていた。さらに破壊の勢いは鉄製の柵を壊し、


 「どうだ尾地、すごいだろ。私が見つけたから私のものだぞ」


 メモリー保管庫が開放され、数十本の黄色く輝くメモリータンクが並んでいた。


 「どう考えてもあなたのものじゃないでしょ。しかし幾ら分ですかねコレ、」


 「五リッターが三〇本あるから一五〇〇万ってとこだな」


 天才少女は目ざとく計算していた。


 ギルド支部には冒険に旅立つ冒険者が使用するメモリーを提供する機能と、冒険者が持ち込んだメモリーを買い取る機能がある。


 そのために大量のメモリーが常時保管されているのだ。


 「なあ、尾地よ」


 ホリーチェが悪い顔で持ちかけてきた。


 「お前がこのメモリー全てを私にくれると言うなら、私があのモンスターを倒す秘策を伝授しないでもないぞ」


 暗闇の中、メモリーの黄色い光に照らされるホリーチェの悪い顔は、詐欺師か可愛い小悪魔にしか見えなかった。


 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 150リットル全部使う策を提示するんだと思いますが、これがどれぐらいすごい量なのかよくわからないです。今までメモリーの使用量目安は出てましたっけ?取得量の方は雑魚敵倒してこんだけしか稼…
[一言] 今回のホリーチェって挙動不審なおじさんみたい すげー才能あって美少女とかチート過ぎるし転生TSおじさん説唱えさせてもらう
[一言] この時点で報酬要求ですか。ヒロインレースからは脱落ですね(参加してない)
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