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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十二話 渋谷駅 「渋谷駅崩壊 おじさんたち死闘する」
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 渋谷駅に現れたモンスターを倒す。


 そういう仕事だったはずが、どんどんといらないコブが付いてくる。


 怒竜剣のリーダートリヤは、雇われ人の定めとして、事態を黙って見ているしかなかった。


 守備隊の人間まで登場した。


 守備隊とは、解体された旧自衛隊を起源とする、首都防衛を司る組織だ。


 ザンゾオがいる保安局は警察組織が縮小改変された役所だ。


 この場に現れたゴイ軍曹は、明確に軍人の血脈を受け継ぐ人物だ。軍曹という役職も、着ているオリーブ色の野戦服も、その動きと態度も、軍人という特別な役割を周囲に誇示している。


 「守備隊に参戦の許可をいただき感謝いたします」


 周囲にいる有象無象の連中を無視して、サクラ局長に敬意を持って感謝の言葉を伝えた。


 トリヤよりも少し年上、二七歳の軍人は軽く部屋を見回し、冒険者といういかがわしい連中が目に入ると、眉をひそめた。


 それに対して、冒険者の中でも血の気が荒いと言われる怒龍剣のメンバーもガンを飛ばして答える。彼らにもモンスター退治の専門家、プロとしてのプライドがある。難民相手に銃を振り回している守備隊なんてお呼びじゃないんだよ、と威嚇する。


 「今回はダンジョンの外、地上での戦闘ということになるので、守備隊からの参加要請があり許可しました。戦力は多いほうがいい。いち早くスキュミラを討伐し山手線と山の手ダンジョンを復旧させる。それが目的です」


 軍人と冒険者の、若者同士の冷戦が起こっているのを無視しながらサクラが言う。尾地とザンゾオの中年組もその静かな戦いを後ろから眺めているだけで諌める気もないようだ。


 「我が特科小隊の対モンスター用兵装が必ずや打ち倒してみせます」


 ゴイ軍曹が聞かれてもいないことを、高らかに宣言する。


 「今までダンジョンに潜るのを怖がってたような連中に出番なんてありませんよ」


 トリヤは聞こえるように嫌味を言った。


 「ドブさらいは労働者に任せていただけだ。我々の仕事は首都防衛。今回は我々の仕事だ。素人は危ないから後ろで見ていてもらいたい」


 軍人らしく抑制が効いた態度で返したが、言葉には冒険者に対しての侮蔑が溢れていた。


 両者がいがみ合いする中、冒険者の一人、白魔道士の女性が尋ねた。


 「あの、ダンジョンが封鎖されて、都市のメモリーの貯蔵量とか大丈夫なんでしょうか?」


 「ダンジョンの封鎖が多少長引いても大丈夫よ。一五日程度は生活を維持するだけのメモリー貯蔵量がありますから」


 サクラが答えた。政府組織上部の人間の答えだ。貯蔵量には問題ないということだ。しかし、だからといってこの状態を長引かせていいはずがない。メモリーは都市生活の生命線だ。これの採集活動を止めてはならない。


 その話を聞きトリヤとゴイは姿勢を正した。自分たちが関わるこの仕事が、全ての都市生活者の生命を預かる大切な仕事であることを自覚し直したのだ。


 「それでは、新宿の作戦本部に移動してください。作戦詳細はそちらで決定します。皆さんの健闘を期待します」


 サクラが場を閉め、一同は会議室から出ていった。ゴイは足早に一番早く部屋から出た。冒険者たちはこの場であったことの興奮をお互いに伝えながら出ていった。




 サクラはその場に残り、尾地とザンゾオも残った。部屋には三人だけとなった。


 「一五日とは、えらく甘い見積もりを言ったもんだな」


 ザンゾオがサクラに言う。


 「仕方ないでしょ。正直に話した所で得もないし」


 「実際どうなんだ。何日持つんだ」


 旧友であるサクラに対しては、普通に話す尾地。


 サクラはそう聞かれた後、答える様子もなくタバコを取り出す。ザンゾオもそれを一本もらい火を付ける。サクラは煙をはいた後


 「まあ、四日ってところね。切り詰めれば一週間くらいは持つわ」


 「ずいぶん吹いたな。市民を騙しすぎだろ」


 「だから。正直に言っても得はないって言ったでしょ。若い子には無駄なプレッシャーをかけたくないし」


 「しかし、四日とは…自転車操業都市もいいとこだな、ここは」


 尾地はそう言いながら、先日のホリーチェとの会話を思い出した。都市生活を維持するために若者には冒険者と工場労働の二択しか無い。その未来の搾取の成果が、この偽りの文明社会だという。


 二人の吐いた煙が尾地の顔を覆う。咳き込みながら


 「お前ら、いい加減タバコをやめろ。前世界の悪習だぞ」


 「尾地は昔から吸わなかったわね」


 「コイツは酒も嗜まないような奴だからな。大人になるのに失敗したんだよ」


 ザンゾオがニヤついた口から煙を吐き出す。


 「俺は退廃的な趣味趣向よりも健康を重視したんだよ」


 「うちのパーティーでタバコを吸わなかったのは尾地とリンジュだけだったわね」


 サクラは思い出からこぼれ出た、その名前を自ら言った後で、口をつぐんだ。


 三人共にその名に思うところがあったのか、場は急速に白けていった。


 その空気を消すように、タバコを灰皿に押し付けたサクラは


 「さあ二人共、とっとと行ってちょうだい。早くモンスターを討伐しないと、この街が危ないってことは本当なんだから」


 ザンゾオもタバコを消して


 「あ、俺はもう一人同行させるから。俺の弟子」


 尾地はザンゾオの言う弟子、メイビの冥い顔を思い出した。


 「どうぞ、お好きに。戦力は多いほうがいいって言ったでしょ」


 サクラのその言葉に、尾地はある一人の少女の顔が浮かんだ。


 


「あ、じゃあ、俺も一人連れてくわ」


 

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