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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十二話 渋谷駅 「渋谷駅崩壊 おじさんたち死闘する」
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挿絵(By みてみん)


 「で、俺たちなんで呼ばれたの?」


 部屋の照明が点けられると、先程までいなかった男二人が現れた。


 「あなた達には、この子達のアドバイザーとして作戦に参加してもらいます」


 この部屋でもっとも高位に立つ、都市再生局局長のサクラが全員に告げた。


 二五歳であるにも関わらず「この子」呼ばわりされたことに、多少は腹がたった冒険者リーダーのトリヤであったが、四〇を越えたような中年女性、それも局長だ。雲の上の人間であるので不満の表情は見せないようにした。


 それよりも突然現れた「アドバイザー」である。


 壁にもたれている中年男性二人。自分たちの戦闘行動に口出してくる邪魔者ではないのか、トリヤは値踏みするように二人を見る。


 片方は長身で背広の着こなしも粋な美中年。壁により掛かる姿も様になっている。


 もう片方は、絵に描いたような中年。広くなったおでこと、よれたシャツ姿。




 「冒険者ギルドに所属する全メンバーの全ての戦闘ログを確認しても、今回のスキュミラとの戦闘記録は見つかりませんでした。現在スキュミラと戦闘した経験をもち、現役の人間はこの二人だけです」


 サクラがアドバイザーの理由を説明する。


 「お前、スキュミラと戦った記憶ある?」


 粋な中年ザンゾオが、隣のダサ中年尾地に尋ねる。


 「う~~~ん、おぼろげな記憶はあるが…」


 中年二人は壁から離れ、話しに参加する距離に近づいてきた。


 「二人共、自己紹介をしなさい。いい大人なんだから」


 サクラ局長に言われ、ザンゾオは名刺を取り出しトリヤに渡しながら


 「保安局、遺跡調査課のザンゾオです。よろしくネ」


 遺跡調査課といえば、冒険者とも縁深き役所。その人物から直接に名刺をもらい高揚するトリヤ。今日一日で政府とのパイプがどんどんと増設されていく。人生の階段がエスカレーターに変わったみたいだ。


 この仕事は美味しい。


 渡された名刺は厚みがあり、ずらすと六枚セットになっていた。


 「みんなに配っておいてね」


 ザンゾオはそう言った。全員に配る気はないようだ。


 もう一人の中年が続けて自己紹介する。


 「派遣で冒険者やってます、尾地です」


 照れたようにしゃべる中年男性。


 (この歳で、派遣冒険者…)


 トリヤたち若い冒険者の常識としてあまり歓迎されないタイプの男だ。人生の計画もなくダラダラと冒険者を続けた結果、この歳でまだ派遣をやっている。


 公務員として成功しているザンゾオの隣に立っていると、尾地のみすぼらしさ、人生の輝きのなさが際立つ。


 特に関心を買うべき相手ではないと分かったので、トリヤは尾地に対しては挨拶もなかった。尾地もその無関心に対しての反応はなかった。


 「でも、戦闘情報はギルドのモンスターガイドブックにもありましたし、アドバイザーに来て頂く必要はないんじゃ…」


 トリヤはパーティーの代表として、アドバイザー同伴の拒否を申し出ようとした時、


 「ああ、ちょっと思い出した。すっごい苦戦したわ、たしか」


 尾地がおぼろげな記憶をおぼろげな言葉で発言した。


 当てにならない発言にトリヤの眉が歪む。それを気にもしていない中年男性たちは


 「苦戦ね~、ほとんど苦戦しかしてないから思い出さないな、俺は」


 ザンゾオが続けた。


 「いや、あのぶっといシッポ、あれでお前潰されたって。思い出してきたわ~」


 トリヤが場の空気を読まない中年に苛立ち始めた時、扉が大きな音を立てて開き。一人の軍の野戦服姿の男が入ってきた。


 「守備隊・警備部・特科小隊 ゴイ軍曹、出頭しました!」


 部屋中に響く声で叫んだ後、敬礼を決めた。


 ラフでルーズで自由気ままが信条の冒険者とは真逆な人種、軍人が登場したのだ。


 中年達とは違う角度で場をわきまえない無駄に大きな発声。この会議室でそんな大きな声を出す必要がないのはひと目で分かるはずだ。それでもこの若い軍人は自分たち軍人の流儀だけで大声を出したのだ。トリヤにはそう思えた。


 局長のサクラは軍人の大声を聞き流したようで


 「さらに追加で、特科小隊のゴイ軍曹が同行することとなりました」


と、軽く一同に紹介した。


 見ず知らずの中年二人にプラスして、軍人まで同行してのモンスター退治、ということらしい。


 トリヤは先ほどまで目の前にあった「世界を救う英雄的ミッション」にどんどんと余計な人員が足されていく様子に、人生で初めて「お役所仕事」というものに遭遇しているという実感を感じた。



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