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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十二話 渋谷駅 「渋谷駅崩壊 おじさんたち死闘する」
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1 【第12話 開始】



 映像に映し出されているのは渋谷駅ダンジョン入り口を正面から映したものだ。


 ダンジョンを出入りする冒険者たちを監視するためのカメラだ。


モニターの中心にトンネルが映り、出入りする冒険者はほとんどいない。映像の隅には撮影時の時刻が表示されていて、今日の朝7時ごろであるのが分かる。


 トンネルの奥から一人の冒険者が血相を変えて走って来るのが見えた。


 彼の後ろ、奥まで続くトンネルのライトが遠くから順番に消えていく。人工的な照明に照らされていたダンジョンの道がどんどんと暗闇に変わっていく。


 走ってきた冒険者は入口前を塞ぐように並んでいる無人改札ゲートを飛び越え駅構内に入ってきた。ゲートについた赤いランプが点滅する。不正入場者を知らせる警報ブザー音が鳴り響いているはずだが、この映像には音声は録音されていない、映像だけだ。


 飛び込んできた男が冒険者、前衛職であることは身なりからすぐに分かる。彼は肩から血を流し半身が赤くなっていた。ダンジョンから出てきた男はなにかを叫んでいた。


 大きな渋谷のダンジョン口の全景を撮っているカメラでは、男の姿は小さく、その顔は潰れてわからない。なにより、音声が録られていない。


 しかし、彼の動きを見ただけで、なにを言っているのかはわかった。


 「逃げろ、逃げろ」


 大声で叫び手を振り、周囲に呼びかける


 「逃げろ!」と


 無音であっても、その必死なジェスチャーから伝わった。


 トンネルの暗闇が入り口にまで到達し、画面の中央が黒一色になる。


 男は背後を振り返り、もう一度叫ぼうとした時、トンネルから吹き出た爆風のような煙に飲み込まれて姿が消えた。その煙の中を大きな影が…


 カメラが変わった。




 ダンジョン口前のエントランス全域を見渡す、高い位置に備えられたカメラ。


 吹き抜けに改装された渋谷駅エントランス。


 見下ろすカメラで、画面の上部にダンジョン口、その下には入口前エントランスが広がり、いくつかの出立前のパーティーがたむろしていた。その周囲には様々な駅施設が営業している。朝の駅のどこにでもある風景だ。


 先ほどの映像と同じように、ダンジョン口から男が飛び出す。彼の小さなアクションの後、画面上部のダンジョン口から煙が吹き出す。


 周囲の冒険者は立ち止まって動けていない。先程の男性の「逃げろ」という言葉の意味をまだ理解できていなかった。男が出てきて二〇秒も経っていない、それも仕方がないことか。そして煙の発生。駅構内の視界が一気に悪化する。


 冒険者と言えど地上で、しかもダンジョン入り口前である。完全な安全地帯という意識であるため、完全に虚をつかれてしまった。


 ダンジョン口から煙が吹き出し続ける。


 そこから大きな人影が現れ、伸びていく


 どこまでも伸びていく。


 蛇だ。人影の下半身は足ではなく蛇だ。それもトンネルの太さ匹敵するほどに太い。そしてその太い蛇についた上半身が、普通の人間サイズのハズはなかった。下半身が蛇の巨人。それが平和だった渋谷駅構内に現れたのだ。


 その人間蛇は手に持った巨大な鎌を持ち上げ、周囲のどの人間から攻撃するか、贅沢な悩みで一瞬だけ迷った。




 見ているだけで嫌になる。


 冒険者パーティー「怒竜剣」のリーダー杉下トリヤはこの惨劇の映像を見る事に苦痛を感じ始めていた。


 いま切られた女にはなんの罪もない。たまたま今日は渋谷のダンジョンで仕事をしようと思っていた普通の冒険者だ。


 破壊された売店の下敷きになった男も、仕事場がたまたま渋谷だっただけだ。


 二つに別れた男の体の下半身が、床を三〇メートルも滑っていくのも、この男がなにか悪いことをしたからではない。


 たまたまみんな、運が悪かっただけだ。


 不運というだけで殺されていく人たちを見るのは仕事とはいえきつかった。


 ようやく映像が止まった。


 惨劇が終わったからではない、このモンスターの姿がもっともよく見える瞬間だから止まったのだ。


 「スキュミラ…」


挿絵(By みてみん)


 トリヤが呟いた名は、普通の冒険者がつぶやくことがほとんどない名前だ。


 「驚異レベル五五、スキュミラ」


 ブラインドが降ろされた真っ暗な部屋の中、モニターの明かりに浮かぶ女性がそのモンスターの名を皆に教えた。


 四〇代…くらいだろうか。まだ二七歳のトリヤには四〇歳以上の女性年齢は判別できない。スーツ姿でキャリアという人種なのだろうか。美人と、言うべきなのだろう。


 トリヤは三〇歳以上の女性の美醜について、まだ興味がない。


 ただ美人であっても、この女、タバコを吸っているのだ。この暗い部屋の中に彼女一人のタバコの煙が漂っている。ダンジョンのさまざまな悪臭に触れてきたが、タバコのニオイは独特で苦手だった。


 「朝七時二十七分に渋谷駅ダンジョン口から侵入して来たこのモンスターは、入り口周囲にいた冒険者を無差別に攻撃。渋谷駅の施設の従業員、ギルド関係者も被害にあい、画像で確認できただけで二〇〇名以上が死亡、あるいは重傷をおって動けない状態になっています。その時刻に渋谷駅にいたほとんどの人間がやられ、駅全てをスキュミラに支配された状態です」


 「怒竜剣」のメンバーたちがざわつく。彼らの生きてきた人生の中で最大の事件、最大の被害者数だ。それも地上でのモンスターによる被害。歴史的事件といっていい。


 タバコの煙を一息吐いてから女が続けた。


 「現在、政府と冒険者ギルドの協定により、全てのダンジョン口を閉鎖。出てくることは許可されても入ることは禁止されています。これは、ダンジョン内で一日に三〇名以上の死者が出た場合には、その原因を特定、排除するまでダンジョンを閉鎖する、 という両者の取り決めに基づくものです」


 そんな取り決めがあったことも知らなかった。おそらく彼らが冒険者になる前に決められたものだろう。


 一日で三〇人の死者、たしかにダンジョン閉鎖もやむを得ない状況といえる。


 女は腕時計を確認し、


 「現在、一〇時三五分…全てのダンジョン口は閉鎖され山手線も全線運休しています。


 この状態は、このスキュミラが討伐されるまで続きます」


 「それで僕らを呼んだわけですね。冒険者ランキングトップ5に入る僕ら「怒竜剣」を」


 トリヤが勇ましい声を出しながら前にでる。




 今朝突然、政府から立川に呼び出され、冒険者の活動と馴染みの深い都市再生局の建物の高層階につれてこられた。いきなりの社会構造の上部への呼び出しに、何事かと舞い上がっていたパーティーメンバーは、報道規制されていた渋谷駅での惨劇を見させられることとなった。映像は途中で止まったままだ。ここからまだ百人以上が殺される場面の映像もあるのだろう。それはできれば見たくはない。


 しかし、ようやく自分たちの役割がはっきりした。ここに呼び出された意味が。


 僕らの力でこの世界を守る。


 とんでもない仕事が回ってきた。


 「…そういうことです。現在、連絡がつくトップランカーのパーティーの中でもっとも単体の敵に対して勝率が高い。それが選抜の理由です。もちろん拒否することも可能ですが、協力していただければ政府として皆さんには感謝と報酬を、そしてギルドからもそれなりの取り計らいがあると、お約束します」


 政府の高官らしきタバコの女性が


 「受けますか (YES/NO)」


 と聞いてきてる。断る気などトリヤにはなかった。


 「あの…強制ではないんですか?」


 パーティーの白魔法使いのミツマが恐る恐る聞く。彼女もこんなお偉いさんと話したことはないようだ。


 それを聞いた女性の目が厳しくなり、声が少し大きくなった。


 「我々は前組織のような徴兵はいたしません!」


 と強く宣言した。ミツマはすごすごと下がった。


 リーダーであるトリヤはミツマの心配も分かっていた。スキュラミラは、普通ではない。


 ボス敵の中でも上位の存在で、戦ったというパーティーもここ十年で聞いたことがない。


 しかし、相手の情報は残っている。肉弾戦に特化しているという情報だ。


 それは彼ら怒竜剣にとってはプラスだ。単体ボスに強い、それは彼ら自身が売りにしていることだ。今まで倒してきた強敵は、入念に下調べして自分たちの特性を活かしてきた結果なのだ。


 さらに言えば地上駅に現れ虐殺をした、という事すらこちらに有利だ。地下深く出向くのではなく、列車ですぐに着き、すぐに戦う。地上駅で戦うという圧倒的なホームアドバンテージ。


 これは自分たちの勝ちの確率がかなり高い。


 見逃していい仕事じゃない。


 「やります」


 全員の顔を一瞥しただけでわかる。みな考えは同じだ。トリヤは即断した。


 女性は、吸っていたタバコを灰皿に押し付け


 「よろしい」


 聞きたい答えを聞いた、という感じだった。


 彼女の合図で明かりがつく。


 広い会議室と、そこに並ぶ頼もしいパーティーメンバー。


 それに相対する位置に立つ女性とその護衛が二人と薄型モニター。


 先程まで見させられていた地獄絵図の空気は闇とともに消えていった。


 トリヤは思い出した。


 (そういえば、一番最初にあの女、自己紹介してたな。すぐに照明が消されちまったから…)


 手元に名刺を持っていた。一番最初に自己紹介した時にリーダーのトリヤにだけ渡されていたのだ。


 「都市再生局 局長 香神 サクラ」


 名刺にはそう書かれていた。


 トリヤの背中に汗が流れる。都市再生局は臨時政府内でも大きく強い組織で、ダンジョンと都市をつなぐ仕事を取りまとめている。つまり冒険者とメモリーの管理だ。


 その局長といえば大臣クラス。国のトップの人間だ。そんな人からの仕事の依頼だったのだ。


 モンスターよりも怖い人間からの仕事の依頼だ。依頼の重さが一段と増し、リーダーへのプレッシャーが増した。




 「で、俺たちなんで呼ばれたの?」


 トリヤたちは後ろからの声に驚いて振り向く。明かりが消える前には部屋にいなかった中年男性が二人、壁にもたれかかって立っていた。


 トリヤたちが知らぬその男たちの名は、


 尾地とザンゾオといった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 生き延びた氷河期世代で紅一点、サクラさんの登場。優しい感じではなく、鋭い感じなのは予想を覆していてとても良かったです。
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