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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十一話 立川駅 「若者たち、ジムで戦闘訓練をする、おじさんは健康診断です」
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 立川冒険者訓練所。すでに夜七時を越え、訓練する人も少なくなっていた。


 ジャングルジムの怪物の前に座ってだべっている、スイホウ、ニイ、シンウ、ジンクの四人。今日一日続けた練習も切り上げ時だ。


 「この後、どうするんですか?」


 シンウがスイホウに聞いた。


 「どっかで飯食って…、帰る。ホリーチェは…」


 「帰ったでしょ。ナース仕事も三時に上がるって言ってたし。また古本屋に寄って、どっかでご飯食べて、今頃部屋で本を読んでるよ。後で電話してみる」


 時計を見ながらニイが答えた。


 「私は、もうちょっと弓の練習してから帰ります。せっかく立川に来たんだし」


 シンウがそう言うとスイホウが驚く。


 「マジで?まだやんの?根性あるなー。わたしもうダメ。お家帰ってホリーチェ甘やかしたい」


 「まあ弓はねー。ここ来ないと練習出来ないもんねー。そこらじゅうで射っていいもんじゃないし」


 同じ様に訓練所でしか魔法が撃てないニイが同意する。


 「ねーちゃん残るなら、俺も残ります。使ってみたい武器、いっぱいあるし」


 「ガンバレよー」


 ジンクに対しては軽い扱いをするスイホウだ。スイホウとニイは帰り支度のために立ち上がる。その二人をシンウが引き止めた。


 「あ、あの。尾地さんの連絡先って知ってる?」


 「おじ?あの尾地?…知らん!ニイは?」


 「え?あーーーっと、聞いた覚えはないし、聞かれた記憶もない…。わたしも知らない」


 二人の返答は半ば予期できていた。


 「あ~~そうですよね。じゃ!ホリーチェは?」


 「ホリーチェこそ知らんでしょ。あの子を助けるために呼んだのが尾地で、それ呼んだのシンウじゃん。シンウこそなんで知ってないの?」


 ニイの質問にシンウは


 「ギルドには使える人をってことで頼んだらあの人が来て。後から尋ねても個人のアドレスってギルドは教えてくれないんです」


 「あー個人情報は大切だから保護してるんだ」


 「いえ、派遣の個人アドレス教えると、ギルドを介さずに仕事を請け負っちゃうからダメだって。仲介料取れなくなるから」


 「コソク!」


 「そう考えると、また派遣の仕事を依頼しない限り尾地とはコンタクトとれないのか…いくらするんだよ、あいつの個人情報!」


 スイホウが嘆いた後にニイが


 「でもシンウは、なんであのオジさんのアドレスが知りたいの?」


 ストレートに聞いてきた。


 「えっと、あの人には色々お世話になっているので。飲み会を開こうかと」


 「いいねー。みんなであの中年を囲むわけだ」


 スイホウは参加する気があるようだ。しかしシンウは


 「いえ、わたしと二人で」


 さり気なく飲み会の参加条件を追加した。


 ニイとスイホウの動きが固まる。


 「え?」


 「え?」


 「え?」


 三人共に質問を口にしたが、答えは帰ってこない。


 ニイが難しい方程式を解こうとするような顔をしながら


 「え~~っと、シンウが尾地と、二人で、飲み会…?」


 「はい」


 もう隠すのもめんどくさくなったのか、仲間内で取り繕う気をなくしたのか、開き直ったシンウであった。


 「二人で飲み会って、デートだろソレ!」


 スイホウが事実誤認を正した。


 「いえ、飲み会です」


 シンウは即否定した。


 「いや、デートだよ、それ!二人で飲み会って。飲み会は三人以上だろ普通」


 「男性同士でも二人飲みというのがあります。わたしも、尾地さんと、二人飲みをします。すなわち飲み会です」


 シンウも折れない。


 まだ異議申し立てをしようとするスイホウをニイが止めた。


 「スイホウ、もうそっとしてあげて…」


 悲しい顔だ。


 「でも、ニイ、この娘があの中年に、あんな中年に…」


 涙を浮かべるスイホウ。妹のように大切な仲間の人生が、あの中年によってどう汚されてされてしまうのか。それを思うと…


 「ちょっと面白いな」




 「シンウ、あんたがどう考えて、なにを思ってあの中年と飲み会したいなんて思ったのか分からないけど、思い切って試してきなさい。失敗したと思ったら、私達が慰めてあげるから」


 ニイはスイホウと腕を組み、並んでシンウを見つめた。


 「付き合ったらダメな男って奴を知るいい機会だ。あの中年になにかされたら私らにいいな。個人的制裁と社会的制裁を同時にくれてやるから」


 スイホウもニイと同じく、人生の後輩の背を押した。


 「…ハイ」


 自分よりもオトナな二人にそう言われたら、このチャレンジはもう止められない。シンウも、止めて欲しいと思っていた僅かな気持ちを、心の奥にしまうことにした。





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