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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十一話 立川駅 「若者たち、ジムで戦闘訓練をする、おじさんは健康診断です」
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5 ~~~挿絵追加



 訓練所最大のスペースが取られているのが、モンスターとの模擬戦を行う「かいぶつの森」だ。


 もちろん、そこに実際のモンスターがいて戦闘訓練を行うわけではない。


 飛行機が入りそうな格納庫の中にいくつもの大型ジャングルジムが建っている。


 巨大なパイプを組み立ててつくられたモンスターのシルエット。まるで子供向けレジャーランドにある恐竜の遊び場のようだ。


 ジャングルジムの怪物に顔が付けられ、可動する腕やしっぽ、牙もつけられている。


 巨大な動く標的の群れ。それが訓練施設「かいぶつの森」だ。


 「っそいぞ、シンウ」


 「ごめーん、おっまたせー」


 スポーツウェア姿のスイホウとニイ、そしてジンクの元に、シンウがかけつけた。


 建物内では他のパーティーたちが何組も訓練を行っていて、その掛け声が響いている。亀型、龍型、蜘蛛型、いろんなモンスター機械と演習をしている。


 「今日は、巨人タイプか」


 「予約取れたのがこれだったんだ。まあ、よくいるタイプだし。いいでしょ」


 スイホウはそう言うと肩に担いでいたロングソードの模擬刀をくるりと手首で回した。


 「っじゃ、みんな揃ったから、ルーティンやるね」


 戦闘班長のスイホウが告げるが、シンウが


 「ホリーチェは?」


 リーダーの不在を聞いた。


 「ホリーチェはナース仕事でいないけど、あの子、ルーティン関係ないからいいでしょ」


 「了解」


 ニイの説明に納得するシンウ。貸り出してきた練習用の弓を取り出す。個別の武器練習では自前の武器の使用を許されているが、ここでは安全のため武器はすべて模擬戦仕様の専用の道具を使う。ただしメモリーは使うので、打撃力はそれなりにある練習だ。下手をすれば怪我もする。


 「訓練所だとメモリーが一定量までタダなんで、お得っすね」


 自分のアーマーにメモリーを装着しながらジンクが言う。


 「タダって…もともと私達の上納金で運営されてるとこなんだから、まるっきりタダってわけでもないんだけど」


 弟に仕組みを説明するシンウ。


 「メモリー使って練習しないと、本番じゃ意味ないからね。といっても~魔法はバンバンメモリー使うから、魔法使いには使用制限かかってまーす」


 とニイ。黒魔法使いの彼女に演習での出番は殆どない。実際に黒魔法を使っては事故が続出してしまうからだ。


 「まあ、前衛のルーティンの練習だから、ニイは魔法撃ったら大きな声で叫んでよ、ボアァ~~とかゴゴゴ~とか」


 スイホウが茶化す。そのスイホウに対してくすぐりながら「ゴアアア」と魔法攻撃をするニイ。なかなかダレている雰囲気だ。


 ようやく準備が整い、ジャングルジムの怪物と相対する。


 「まあ、ルーティン通りに、まずシンウが撃って、その後私、続いてジンク、斬って斬って斬って、シンウ、そんでニイ。こんな感じ、いつもどおり、やってみよ」


 テンションは低い。まるでお芝居の稽古の打ち合わせのようだ。


 シンウが弓を構える。ファーストアタックは彼女、距離があるうちにダメージを稼ぐ。


 先程の練習の余韻がまだ体の中に残っている。それを思い出して、射る。


 メモリーを使って飛ぶ矢はジャングルジムの怪物の顔部分の鉄板にヒットし、高い音がなる。目に当たったのだ。


 「よし!」「ナイス!」


 ガッツポーズのシンウを褒めたスイホウとジンクが前に飛び出す。怪物の足元に走り込んで、まずスイホウが右足を斬る。続いてジンクが左足を斬る。


 左右入れ替えて二人が斬る。


 左右上下を入れ替えて二人が斬る。


 二人の連撃がクッションに包まれた足のパイプを何度も何度も斬る。


 ボスボスボスとクッションを強く叩く音が続く。想像上のモンスターの両足は深刻なダメージを受けているはずだ。


 「超すごいファイヤボール撃っちまーす!」


 頃合いと見たニイがそう宣言し、ワンドを振る。


 「どばぁ!ぶひ~~~ん、ドバーーン!」


 気の抜けたエフェクト音で臨場感を出そうと努力する。


 その間にもシンウは矢を放つ、六射中五射を急所にヒットさせた。


 「よっし、ハイ!終わり」


 パっとモンスターから距離をとった後でスイホウが宣言し、戦闘が終わった。


 前衛の二人は汗をかきながら戻ってきた。この間、二人はずっと斬り続けていたのだ。


 「あ~~疲れた」


 ジンクは水筒の水を飲む。


 「じゃ、次はサイドアタックと敵の攻撃ありで」


 汗はかいても疲れた様子のないスイホウが次のルーティンの説明をし、休憩もなくすぐに準備に入る。


 今度は横からの強襲。後衛を守るためにシンウも剣を握る。スイホウが据え付けの装置をいじると、モンスターの腕が左右に動き出した。ゆっくりとした動きだが、攻撃するには厄介な障害だ。


 「ハイ!」


 バレーの美人コーチのようなスイホウの掛け声で全員が動く。


 左側面に出現したモンスターに対して、ジンクとシンウで壁を作る。モンスターの動く腕を避け、敵の攻撃を弾く動きを繰り返す。


 「ハイ、攻撃!」


 スイホウの掛け声で攻撃に移る。シンウとジンクの姉弟による同時攻撃。肉親ゆえの見事なコンビネーション、というにはあと一歩至らなかった。ジンクの攻撃を避けようとするあまり、防御の壁に隙間が生まれる。


 「シンウ、離れすぎー」


 「ちょっと、ジンク暴れ過ぎだよ」


 スイホウの指摘があったが、ジンクの剣風の強さにシンウはなかなか近づけない。モンスターの腕の動きもゆっくりだが、それを避けながら連携攻撃を続けるのは難しい。


 「じゃ、私、入りまーす。ニイ、後ろについてね」


 スイホウが戦闘に加わる。それと同時に後衛のニイもその後ろに回り、横にいた敵に対してパーティー全体が移動して正面に相対するようになった。


 こういったパーティー全体の動きを練習して覚えるのがルーティンの目的でもある。リーダーのホリーチェはその動きを全て記憶しているし、後ろについて回るだけなので不参加でも問題なかった。


 スイホウ、ジンク、シンウの三人による攻撃が続く。狭い場所も多いダンジョンで三人分の戦闘力をフルに発揮するには、お互いの動きを知り、信頼して横で戦える関係を作らなければいけない。


 そのためには同じことを何度も何度も繰り返し、体で覚えなければいけないのだ。


 「はい、おわり~~」


 さすがに息が上がったスイホウが終了を告げる。彼女自身も呼吸が限界になるまで斬り続けていた。自分自身も訓練の対象だから手を抜くことを知らない。


 三人ともに座りこみ呼吸を整える。シンウとジンクの姉弟は呼吸が荒れて水も飲めない状態だ。


 「おつかれ~」


 後ろで見ているだけだったニイがタオルと水を渡していく。


挿絵(By みてみん)


 「いっち~~」


 シンウとジンクが同じように痛みを訴える。


 お互いの剣先がなんどもかすったのだ。


 「血は出てないね。かすっただけだね。上出来上出来。メモリーもったいないから直さないから」


 ニイは二人の傷の浅さから上達の具合を見て取った。


 「昔はマジで切ってたからな」


 スイホウも二人の上達を認めた。


 「ねーちゃん、もうちょっとおとなしくしてよ」


 「なにそれ、自分だけで倒せるっていうの?あんたこそ横振り大きすぎ。もっとコンパクト!」


 息が上がった状態でありながら、姉弟ケンカ未満のやり合いを繰り広げる二人。そんな二人にスイホウが非情な一言をかける。


 「ハイ、休憩終わり。次バックアタックー」


 「え?」


 「ゴメン、ちょっと待って!もうちょっと休憩!」


 姉弟の懇願を無視して


 「モンスターは待ってくれません。休憩している今こそ好機と狙ってきま~~す。座ってる人は死にま~~す」


 スっと座った状態からジャンプして立ち上がったスイホウ。疲れが消し飛んでいる。


 さすがに青くなる姉弟。こんな事が、あと一時間以上も続く予定なのだ。


 「ワッハッハ、がんばれ~死んだらダメだぞ~」


 何もしないことが確定しているニイの励ましを聞き、魔法使いにならなかったことを、兄妹はそろって後悔した。



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