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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十一話 立川駅 「若者たち、ジムで戦闘訓練をする、おじさんは健康診断です」
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 「おい、尾地。デートしてやるから待ってろ」


 健康診断が終わって、待合室に戻ったばかりの尾地に向かってナース姿のホリーチェはそう告げた。


 聞き返そうとした尾地が振り返るとホリーチェはすでに診察室内に戻り、確認する間もなく姿を消した。


 「どういうこと?」


 十分後に、ナース服から私服に着替えたホリーチェが現れた。


 「お仕事終わったんですか?」


 「ああ、ちょうど上がる時間だった。運がいいな、お前」


 どの当たりが運がいいのか、尾地に心当たりはなかった。


 さきほどのコスプレとしか言いようのなかったミニスカナース服から、白基調で膝丈にまで伸びたフレアスカート姿に変わったホリーチェ。ハツラツとした少女の姿だ。


 「さあ、デートだデート!」


 尾地の腕を引っ張り病院を出るホリーチェ。


 尾地の歩みは退院直後の病人のように重かった。


 立川新中央病院から駅へと向かう。時刻は三時過ぎ。平日とはいえ臨時首都のど真ん中であるので、人の通りは多い。


 そこを親子のように年の離れた二人が手をつないで歩いている。


 「あの…これは何なんですか?」


 「お前には色々と借りがあるからな。今日はそれを私が返してやろうというわけだ。殊勝な心がけだろ。債務者かくあるべしだ」


 ホリーチェは尾地の腕をブンブンと振り回して遊んでいる。


 「貸しですか。全部報酬のうちですから、特に貸したつもりもありませんが」


 「そう言うな。まず私自身の命の救出。上野駅ゴールへの貢献。蛸壺戦での共闘。見に覚えのない債権とは言えまい?特に蛸壺戦では別チームとしての協力だった。これは返さないとな」


 尾地も指折り数えてみる。彼自身、一つのパーティーに対してこれだけ協力したことは珍しい。それも彼の身内ではなく、見ず知らずだった連中に対して自分から行った事だ。


 「そうですね。意外と貸してるようです。じゃあ今日中に耳を揃えて返してもらいますか」


 「お、悪徳債権者らしくなってきたな」


 ホリーチェが繋いだ手を大きく振る。


 「あ、でもこれは止めましょう」


 「手を繋ぐの?なんで?多汗症?」


 「いえ、あなたくらいの年頃の子と手をつないで歩いてると、私が職務質問されます」


 中年の悲しい事情を聞かされたホリーチェは、ガバリと尾地の腕に自分の腕を絡ませた。


 「これなら危険な誘拐犯には見えまい。どこからどうみても美しい娘を持った幸福で貧乏くさい父親だ」


 背の低いホリーチェを腕を組むと、どうしても尾地はかがんでしまう。


 「私が貧乏くさいというのには同意してもいいですが、あなたを娘に持つことがすなわち幸福であるかどうかには疑問を感じますね」


 「はぁ~?私の父親になりたい、ならせてくださいって連中が列を作って並んでいるのを知らないのか?お前は本来、その最後尾で最後尾看板を持っているだけの男なんだぞ。偶然落ちてきた貴重な幸福を二度と離さないように、しっかりと脇をしめろ」


 そう言ってホリーチェは絡めた腕に力を込めた。


 言われ放題だった尾地は、その腕をさっと抜いて、ホリーチェの両脇に手を差し込んで


 「ほーら娘よ!高い高い~!」


 彼女を何度も上に持ち上げた。突然の子供扱いに動揺するホリーチェ。


 「やめろバカ!恥ずかしい!」


 「高い高い~~!」


 やけくそになって高い高いを繰り返す尾地。ホリーチェのスカートが何度も膨らんだ。


 平日に現れたくるくると回るバカップル親子の姿を奇異な目で見る人々が増えたので、息が上がった尾地は無言でホリーチェを地面におろした。


 「バカ!ハゲ!中年!」


 小学生のような悪口を繰り返すホリーチェだが、上気した頬でやがて笑い出し


 「あ~~~バカバカしい!これは楽しいことになりそうだぞ!」


 愉快に宣言した。



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