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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十一話 立川駅 「若者たち、ジムで戦闘訓練をする、おじさんは健康診断です」
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 しゃなりしゃなりと音がするように歩き、衆目を集める美女がシンウに寄り添った。


 「ちょっと、危ないから離れてくれない?セイカ」


 矢をつがえた状態のシンウの後ろから手を伸ばし、彼女の手をとって一緒に弓を引き絞る。弓のたわみが強まるほど、二人の体は密着し、シンウは彼女の胸の大きさと柔らかさを中心とした、飲み込まれるような柔らかな肉体に背中を押され、反り返るような姿勢になってしまった。


 そんなセクハラまがいのフザケた行為をしながらも、戦神清華のパーティーリーダー、セイカは美しい女教師のように真面目な声でいった。


 「もっと腰に重心を乗せて、」


 彼女の両ももがシンウのもも裏を押し、重心を正しい位置へと導く。


 「柔らかく、解き放つように…」


 絡まった二人の手から弦が離れ、矢が飛び出した。矢は狙いを外さず動きまくっていたモンスターの的にヒットした。


 「お見事」


 セイカは絡んだ体を離して的中を祝福した。


 耳元の囁き声に顔を赤くしたシンウが文句を言う。


 「もーー、邪魔すんなっていったでしょ」


 「邪魔じゃなくて、教育的指導よ。スカウトやってるシンウより、アーチャーの私のほうが、弓に関しては教える立場にある、でしょ?」


 シンウとしてもそう言われると言い返せない。弓を専門職とし、なおかつ名うてのセンシンセイカのリーダーであるセイカは、業界内でも弓の名手として知られる存在だ。そのうえ彼女はシンウの幼馴染だ。疎遠期を挟んだためか、今はその時期を取り返そうとするかのように(特にセイカ側から)積極的に付き合いを重ねている。


 シンウが弓の教えを乞うのにこれほどふさわしい相手はいない、と思っていたのだが、繰り返されるセクハラレクチャーにまた疎遠に戻りたいと思い始めていた。


 射撃ブースのテーブルに腰を掛け足を組むセイカ。薄地のスポーツウェアが彼女の豊かな肉体をようやく収めている、といった状態だ。しかも布地のある胸部と臀部はピチピチであるにもかかわらず、布がない腹回りは実にスマート。同じ女性のシンウが思わず目線をそらさなければならないくらいセクシーな体だ。豊かな髪をかきあげるだけで、香りが漂ってくる。シンウにも彼女のこの仕草が、自分だけを狙っているものだというのは感じている。それが嬉しくないわけではないのだが、今はそういう時間ではない。


 


 セイカの一挙手一投足にドギマギするシンウの姿を、彼女はウブな少年を前にした美女のような気持ちで眺めていた。とはいえ、弓を教えると言った手前、セイカも遊んでばかりはいられない。冒険者にとって技術の交流というものは、命の懸かった大切なもの、おろそかにしてはいけないものなのだ。


 「弩弓タイプも射ってみましょ」


 シンウを自分のブースに誘った。


 この場合の弩弓とは、いしゆみの事ではなく、ド級タイプの大型弓のことだ。人力では引けない超大型の弓をメモリーの力で引き、矢に溜まったエネルギーもメモリーで強化する。二種類の運動エネルギーを制御しなければいけない難しい弓だ。その分威力は通常の弓の四倍はある。


 彼女のブースに立てかけられていた弓は背丈を越え、幅も射手であるセイカと同じくらいある。


 射撃ブース前方のテーブルは外されている。射つために構えただけで弓がブースからはみ出すためだ。


 「持って」


 シンウは先日、この弓を射つセイカをサポートしている。動かない彼女の足の代わりに弓と彼女を支えたのだ。


 しかし今回は、自分自身で持たねばならない。普段持っている弓が猫だとしたら、これは虎を持つのに等しい。大きさも重さも危険さも。


 おっかなびっくり構えると、ずしりとした重さが体にかかる。


 セイカが無言で弓の一番下に付いている金具を床に突きたてさせ、弓を真っ直ぐに立たせる。シンウの体の位置をそれを支えるベストの位置に誘う。


 終始無言で体を押し引き、正確な姿勢を導いていく。冗談で扱うようなものではない、という真剣さが伝わる。じゃあさっきまでのセクハラは何だったのか、と思ったシンウだが、自分の専門分野を触らせる以上、プロは一切遊びを認めなくなるものだ。


 「引いて」


 矢をつがえさせた後の、セイカの真面目な声。これには二つの意味がある。弦を引っ張ることと、それにはメモリーの力を使えということ。


 シンウは腕に装着されたメモリーを消費し、頑丈な弦を引っ張る。鋼鉄のように垂直に張られていた弦がゆっくりと引かれていく。シンウにしてもこの程度は普通にできるが難易度は高い。気を緩めると指を持っていかれる。


 引っ張られピンと張った太い弦。通常の弓では生まれない力が矢尻に集中しているのがわかる。この爆発的な力をメモリーを消費しながら維持しなければいけない。


 セイカが後ろからがシンウの頬に四本の指を添えて、クイっと後ろに下げる。少し前に出すぎていたようだ。冷たい指が気持ちよかったが、それはすぐに離れた。


 放つことを意識する。弦を離した瞬間のエネルギーをさらにメモリーで倍加する。そうすればこの矢は、この弓でも到底生み出せない破壊的なスピードを身にまとって飛び出すだろう。


 今この指先に溜まっている力を、二倍にする…そう覚悟を決めて指を離し…


 指から解き放たれた弦のスピード。運動エネルギー。これを溜め込んだのは自分の力。その時の引く力。放たれた瞬間の弦のスピード。


 それらを一瞬以下の時間でもう一度イメージした。


 …手に装着されたメモリーがそのイメージに反応する。


 信じたとおりに矢の運動エネルギーは二倍になった。


 シンウの横っ面を衝撃波が叩く。


 髪が高速で飛び出す矢の動きに吸い寄せられる。


 戻った弦の勢いで巨大な弓がたわむ。床に突っかかっていた金具が床をうがつ。


 飛び出した矢は、鋼鉄フレームのマト二枚を貫通し、遥か先の土嚢に突き刺さる煙となった。長い矢は全て土嚢に埋まり、土嚢に空いた大きな穴から砂がこぼれ続けていた。


 「お見事」


 セイカはそう言ってくれたが、


 射線上のマトを全て貫通し、敵も味方も巻き込んで破壊し尽くしていた。


 ただ、体感したことのない巨大な破壊エネルギーの開放に、シンウの下腹部奥は疼き、口元は震えながらもニヤけていた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] セイカのデッカイ弓が地面につっかえる。 やはり和弓方式にしたほうがより巨大な弓も扱えるようになるのでは? と、弓道をかじった者として思ってしまう。
[良い点] 氷河期世代が大勢いなくなっているわけで、産めや増やせやの掛け声で、その辺は緩そうですね。ただ尾地さんの奥手なところは何か原因がありそうですが。同じ氷河期世代生き残りのおじさんは、若い女を弟…
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