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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十話 目白駅 「おじさん、大量の若者たちと共闘する」
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 統合したレイドパーティーの半円の防衛陣はジリジリと後退していた。三体のジャークトパスの攻撃圧は凄まじく、冒険者側はその勢いに押されていた。


 その防衛陣の一歩前に尾地は立っていた。次々と降り注ぐ触手を寸前で避け、両手に持っている手斧とショートソードで切り刻む。切断に至らずとも相手に怒りとダメージを与え、二体の注意を引き受け続ける。本人が苦手と言っていたように、必殺の一撃を加える事ができず、ただ時間稼ぎをするしかなかった。


 尾地はこの男にしては珍しく無言だった。この位置を死守することだけを考えていた。焦りがその顔にあった。腕前は誰よりも上だが、体力は中年のそれだ。長期戦になれば最初に落ちるのは彼になるだろう。それでも前に出なければならなかった。若者たちが作っている薄い防衛陣では二体のジャークトパスの攻撃に耐えられないのは明らかだった。


 セイカの剛弓がAの触手を根本から吹き飛ばすが、すぐに再生を始める。この再生スピードの速さがジャークトパスの強さだ。いくら切っても触手は再生され攻撃は続く。弱点が顔を出すことはない。


 「ピューピュー!」


 セイカが口笛を二度鳴らすと、セイカ側のメンバーは攻撃を一旦止めた。黒魔法使いもニイの動きを止め、スイホウも隣の剣士の動きを見て止まった。


 再び合図、セイカの口笛を聞き、全員が同時に攻撃を加える。


 黒魔法、黒魔法、剣撃、槍の一払い


 全て同時にジャークトパスにヒットした。


 触手が6本同時に吹き飛んだ。


 触手の奥の口がついに見えた。


 引き絞られ、練りに練ったセイカの弓が、必殺の一撃を放つ。


 その一矢がジャークトパスの口に飛び込み、速度を破壊エネルギーに変換して、硬い壺の中の内臓器官に壊滅的ダメージを与えた。


 バフっと口から血を吹き垂れ流した後、ジャークトパスAは息絶えて地面に墜落した。


 「やっ…」


 喜びの声をあげようとセイカが横を向いた時、BとCの前に作られていたはずの防衛陣は半壊していた。


 モンスターの一撃に倒されたシンウを助けようとしていた尾地も背後からの一撃に吹き飛ばされ、陣の真ん中に倒れた。


 膝を付き立ち上がろうとした尾地が見たのは、ジャークトパスBが上空に飛び上がる姿だった。


 Bは陣の上空で全ての触手を四方いっぱいに広げて、


 ただ落下してきた。


 触手の範囲は直径三〇メートルの円形。中心は鋼鉄よりも硬い壺。


 倒れ込んでいたメンバーの上にその巨体は落下して、みなを押しつぶした。


 悲鳴と折れる音潰れる音が同時に響き、モンスターの巨体の着地の轟音がすべての音を消した。




 衝撃に倒されたセイカが顔を上げた時、顔には涙の跡に砂が付いていた。


 煙たい空気の中、公園にある地面から生えているの蛸の遊具が見えた。そんな情景だったが、その触手の下敷きになっているのは彼女の仲間だ。触手の下に打ちのめされ、苦悶のうめき声をあげている。まだ息がある。そこはセイカにとっては救いだった。


 生きているなら助けられる。しかし、周囲を見ると、Aと戦っていた連中が全て倒れている。敵を倒して気が緩んだ時に上空からの攻撃を受け、全く避けることができなかった。剣士、魔法使い共に倒れている。レイドパーティーの最大戦力が機能しなくなっていた。レイドを組んで自分が預かったホリーチェ側のメンバーたちも倒れていることに胸が傷んだ。


 自分は?


 セイカは立ち上がって傷を確認しようとしたが立ち上がれない。右足があらぬ方向を向いていた。


 戦えるのは誰か?セイカが探そうとしたが、彼女のすぐとなりに立っていた。頭から一筋血を流したホリーチェがいた。


 この小さな少女も先ほどの攻撃を食らったのか、セイカの心の傷は更に深くなった。


 彼女は血に濡れた顔でブツブツと呟いていた。


 「まったく、こんなことになるとはな…」


 「ホ、ホリーチェ!」


 セイカは彼女のライバルでもあるパーティーリーダーを心配した。その声に気づいたホリーチェは足元のセイカを見て。


 「ちょっと嫌なことするから、見てて。これ一発で私しばらく駄目になるから、後のことは…任せた」


 ホリーチェはそう告げると、足元に転がる黒魔法のマジックワンドに手を伸ばす。


 「ニイ、借りるよ」


 白魔法使いは黒魔法使いのワンドを手にとった。


 Bのジャークトパスは少し浮き上がり、喜びの舞いのように触手をうごめかす。Cも似たような動きだ。


 殺人的な重しが消え、潰されていた冒険者達が、血液混じりの呼吸をようやく再開する


 自分の獲物が仲間から少しでも離れたのを確認して、ホリーチェは詠唱を開始した。


 通常、黒魔法使いはワンドが作り出した炎をイメージの力で再生し何倍にも強化する。そのため黒魔法の攻撃は、巨大な火球弾となるのだ。炎の見た目、その熱を膨らませるだけだからだ。


 しかし、ホリーチェの場合は違った。彼女にはそんな事はできないのだ。炎をただの炎であるとして認識を止められない。。彼女はその炎の粒子の一つ一つをイメージしてしまう。その動きを全て、脳内でイメージできてしまうのだ。さらに彼女の天才はその粒子の動きを勝手に計算してしまう。彼女自身にその計算を止めることは出来ない。なぜならそれが天才だからだ。


 彼女の持つワンドの先に生まれた炎はあっという加速されプラズマ化する。炎が姿を変え、命を持ったエネルギーのように蠢き出す。


 膨大な熱量に耐えかねワンドの先端が溶けはじめて形を失っていく。


 そのエネルギーは鎌首をもたげ、獲物であるジャークトパスBに狙いを定めた。


 「ドラゴスプレイス!」


 黒魔法の高等術。天才達にしか放てない命ある魔法兵術が飛び立つ。


 伸び上がったエネルギーはジャークトパスの体に巻き付き、その壺本体を熱線で締め上げた。まったくのロスなくエネルギーが壺に伝えられ、突然の高熱地獄にジャークトパスBが絶叫の悲鳴をあげる。


 その最硬の鎧壺は超温に耐えきれず亀裂が走り、湯だった内蔵の蒸気が吹き出した。


 鼻血を流したホリーチェが膝から崩れる。


 とっさにかばおうとしたセイカだったが足が動かなかった。


 倒れるホリーチェを支えたのはシンウだった。彼女自身、顔に大きな怪我を負い半身が血まみれだ。


 敵を蒸し焼きにしたのと引き換えに、ホリーチェも自身が自動的に行なった膨大な計算の熱で脳がオーバーヒートを起こし、完全に飛んでしまった。しばらく目を覚ますことはないだろう。


 「シンウ!」


 「セイカ!」


 ようやく二人は見つめ合った。


 だが、ジャークトパスBの命はまだ尽きておらず、その触手をゆっくりと持ち上げた。その隣に浮かぶジャークトパスCはそれにくらべれば、ほとんど無傷と言っていい。仲間が茹でられたことに怒りの声を上げている。


 シンウとセイカは互いの手を取り合い。彼女たちの命とパーティーの命運を終わらせようとする、ニ体のモンスターを見た。


 「ウボアアアア!」


 ジャークトパスBのそば、死体だと思われていた人物が血まみれの姿で機械のように立ち上がり、手に持った剣をジャークトパスBの本体の亀裂に差し込んだ。


 その男は剣ごと腕を蛸壺の内部にまで差し込み、Bの内臓に致命傷を与えた。


 触手を力なく下げ、Bは活動を停止した。


 「尾地さん!」


 「オジ!」


 自分の血とモンスターの血で全身を赤黒く塗装された尾地が立っていた。


 彼はただぼんやりとそこに立っていた。


 後ろを振り向きジャークトパスCを確認して「イチ」とつぶやき、また振り返ってシンウとセイカを指差し「イチ、イチ…ニ」と数えた。


 彼はぼんやりとした表情のまま二人に近づいてきた。



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