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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十話 目白駅 「おじさん、大量の若者たちと共闘する」
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 もうすでに地平線の半分は触手で覆われていた。三体のジャークトパスは二つのパーティーを取り囲む位置に陣取り、その包囲網を縮めようとしていた。人が漁で魚を追い込むように、奴らは触手で人間たちを追い込もうとしていた。


 後退することも、逃走することも難しかった、伸縮自在の触手はたやすく人間の手足を掴み、その逃げを捕らえるだろう。今から逃走しても半数が捕まる。全滅よりも大きな傷を二つのパーティーに残す結果になるだろう。


 だが、一体に対して互角であろうと思っていた敵。それを見越して討伐対象に選んでいたモンスターが増え、二体ではなく三体になってしまった。戦力差は決定的だった。全滅の二字がパーティーの責任者であるセイカの思考を圧迫していた。


 陣の前に立ちすくみ止まってしまっていた。


 すでに戦闘は開始している。それぞれの場所で戦士が剣士が魔法使いが、戦いを始めている。三体のモンスターは雄叫び上げているが、それは獣の声ではなく、獲物を弄ぶ喜びの笑い声だった。


 「どうしたら…どうしたらいい」


 泣きそうな顔でセイカが止まっている。


 一体は倒せよう。もしかしたら向こうのパーティーも善戦して、もう一体も倒せるかもしれない。だが三体目がそれをただ見ているか?見ているわけがない。攻撃してくる。戦って


いるパーティーの後ろから遠慮なく抉ってくるはず。全滅する。それは避けられない。


 悲嘆が膝にのしかかってくる。立っていることが辛い。戦闘音が鳴り響きモンスターの声が轟く。激しい騒音の中、


 「セイカ!」


 シンウの声がセイカの耳に届いた。


 声の方を向くとシンウがこちらを見て、大きく励ますようにうなずき、そして右手を自分の後方に向けた。セイカがそちらに視線をよこすと、向こう側のパーティーのリーダー、ホリーチェの姿が小さく見えた。彼女は大きくサインを送っている。


 うなずき、


 胸に手を当て、


 その手を開いて、チョップする形でこちらを指す。


 セイカはそれを見た後、シンウに目線を移す。彼女も大きくうなずいた。彼女の横を触手が走って危険だった。シンウはそれを無視してもう一度、必死な顔で大きく叫んでうなずいた。モンスターの叫ぶ声と戦闘音が彼女の声を遮っていた。


 セイカはその意味をようやく受け取った。


 視線をホリーチェに移して、セイカも大きくうなずいた。


 それを見たホリーチェは自分の左腕を顔の前に出し、その手首を右手でグっと掴んだ。


 それを確認したセイカも自分の右腕を前に出し、ホリーチェに見えるようにしてその手首を左腕で掴んだ。


 両方のパーティーリーダーが離れた距離で握手した。


 合意が形成されたのだ。


 その次の瞬間、両者が同時に叫んだ。


 「レイドォォォォーーー!」


 「レェイドオオオオオオッ!」


 全メンバーが理解した。それしかないと。


 生き残るには、戦術的共闘契約、レイドを組むしかないと。


 セイカが全メンバー、全エリア、そして敵に対して宣言するように叫んだ。


 「今より我々戦神清華とホリーチェたちは共闘する!一致団結し、この難敵を打ち破り!無事に帰還を果たす!全員我が下に集結し半円陣形を組め!」


 指揮権はセイカに渡すと先程の無言の会議で決定していた。


 ホリーチェが続く


 「全員セイカの下に集え!防御陣を作れ!」


 バラバラに散っていたメンバーは敵の攻撃を避けつつ陣形を組み始める。しかし、最初に接敵したセイカ側の剣士が触手に捕まり動けない。


 セイカは己の弓を展開する。幾重にも重なった弓のパーツが広がり、高さは身長を抜き、二メートルを超える剛弓になった。それを引き絞る。巨大な弓は巨大な運動エネルギーをその矢に与える。そしてそれをメモリーの力で繰り返し再生し、力を倍増以上にする。


 放たれた矢は弓の生み出す力を遥かに超えるスピードで飛び出し、敵の触手の一部を吹き飛ばし消滅させた。


 触手から開放された剣士が喜びながら陣に加わった。




 半円陣が組まれた。前方は戦士と剣士たちが並び防御壁を作り、後方に黒魔法使い、白魔法使いが並ぶ。半円陣はジリジリと後退しつつ、三体のモンスターに背後を取られないようにする。


 一〇本×三体の、三〇本の触手の攻撃に両チーム合わせて七人の前衛で耐えねばならない。


 「左からのジャークトパスをA、B、Cと呼称する。まずAを撃退する。全力を尽くせ!」


 統合パーティーのリーダーのセイカが命令を発すると、両チーム合わせて二名いる黒魔法使いが狙いを付け攻撃する。戦士で壁を作り、黒魔法で仕留める。この不利な状況で取れる、ほぼ唯一の作戦だ。前衛が踏ん張ることで黒魔法の攻撃力を維持して、三体を順番に倒していく。


 尾地はすでに前衛に出ていた、無傷の二体、BとCの攻撃が重なる最も危険な地帯に身を乗り出し、攻撃を回避しながら触手を切りまくっていた。


 とにかく彼が敵のヘイトを稼いで攻撃を呼び込んで、他のメンバーへの負担を減らすしかない。しかしそれによって彼自身の攻撃力を発揮する事もできないでいた。


 彼の背後にシンウがいて、弓で攻撃を仕掛けるが、通常の弓では触手の雲に阻まれて本体にまで届かない。セイカ側のマッパーも側にいて同じ様に弓で攻撃しているがこれも通じていない。この三人が防御陣の一角を担っていた。尾地への負担は合同チーム内でも最大のものであったが、彼はそれを進んで引き受けた。


 Aに対してはホリーチェ側からスイホウ、セイカ側からも一番手の剣士が相対している。スイホウは今日のために持ってきた刃の長い薙刀を振るい、触手を切断しまくる。剣士も男の意地で触手を切り、セイカもその剛弓を撃ち続けた。


 黒魔法の火炎が何度も放たれ、剣風が撒き起こる。対するモンスターの攻撃も苛烈を極め、互いが互いを削り合う危険地帯が生まれていた。


 それ以外の場所、BとCの前も安全ではない。触手の叩きつけと薙ぎ払いを手に持った巨大なシールドで受け続ける戦士たち、ジンクもその中で耐え続けていた。こちら側は攻撃ではなく耐えることが目的だ。最大の攻撃力はAに振られているため、攻撃は最小限でひたすら防御に徹する。敵がAの加勢に加わることを許さず、人間側が敵を始末する順番を守らせる。まずはAを、続いてBを。


 しかし巨大モンスターの触手は一本が樹木のように太い。次々と打撲と骨折を食らう戦士たちを、後ろに控える白魔法使いたちが魔法で回復させる。


 ホリーチェなど、骨折した腕を秒で元に戻すと、背中を蹴飛ばして戦列に復帰させる鬼軍曹ぶりを発揮していた。


 「どんどんやられてこい!私がいくらでも治してやるぞ!」


 白魔法も気力を回復させることは出来ない。奮い立たせるしかないのだ、心が折れないように。





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