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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十話 目白駅 「おじさん、大量の若者たちと共闘する」
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 「ですから、セイカさんのパーティーでもギリギリだと考えてください。みなさんの数値的なレベルでは倒せるとという計算になりますが、あなたは一日中同じ強さですか?といいたいわけです。朝起きた時、昼ごはんを食べている時、夜寝る前、全て同じ強さでいられますか?そうではない、そうでしょ?」


 地下世界の巨大駐車場。朝焼けの空気の中、尾地が喋り続けている。


 この場でモンスターのポップ待ちを開始して、もう四日目の朝になっている。


 夜の見張り番を担当しているセンシンセイカのリーダー、セイカの隣で、眠そうな尾地が眠気を覚ますためか延々と話している。彼自身、すでに疲労がたまり頭がぼやけているせいか、話の内容がどんどん踏み込んだものになっている。半目の彼はそれに気づかずに話し続ける。


 「ジャークトパス一体と一パーティーが互角です。それはどちらかの死が均等な状態だという意味です。モンスターにとっては一回の死ですが、パーティーにとっては全滅が同じ確率であるということです。六人同時の死亡です。これに対して冒険者側は白魔法というマジックで対抗しています。全滅手前で無傷の状態に戻せるということです」


 「我々がジャークトパスと対等だということは判った、じゃあシンウたちはどうなるんだ?」


 セイカも眠気覚ましのために会話に付き合っている。


 「シンウさんとこはもっと厳しいです。人数が少ないですからね。ただホリーチェさんがずば抜けていて、さらにスイホウさんも使い手ですしメンバーもまとまっていますので、こちらも…ギリギリですね」


 尾地はニヘラと笑う。


 セイカは周囲を見渡す、空もないのに朝焼け色に変わっている地下世界、影色の地面の上にぽつりぽつりと見張り番が立っている。両チーム合わせて、八人ほどが四方に散らばりモンスターの出現を待っている。他のメンバーはそれぞれの陣で交代で休息をしている。


 「とにかく、若い皆さんは数値に関心を持ちすぎるということです。自分と敵の力量を測るのに、相手ではなく端末の画面を見る。それではいつまでたっても、フワァア」


 尾地は大きく欠伸をした。そろそろ交代の時間だ。


 「シンウたちが獲物を獲ったら…、もしも彼女が危なくなったら…」


 セイカは心配を口にした。


 「大丈夫ですよ、ホリーチェさんはやばくなったらすぐ撤退するし、救援を乞うのに躊躇をする方ではありません」


 それを聞いてセイカも安心する。


 「そうだな、そしたらすぐに手を貸してやろう!でもその場合どうなるんだ?討伐結果は?」


 「最初っから共闘してたってことにすればいいんですよ。レイドですよレイド。戦術的共闘契約。レイドで倒しましたって報告して両パーティーの手柄にするんですよ。人数割で栄誉は減りますが、パーティー戦歴に記すには問題になりません。そういう例はいくらでもあります」


 「しかしそれは…様にならないな」


 「命がかかった状態じゃ、そんな理想、吹っ飛びますよ」


 「冷たいな」


 「冷たいもんなんですよ、基本的に」


 セイカと尾地は陣に戻り始める、見張りの交代の時間だ。


 「しかしこれは、もう出ないかもしれないな、もしかしたら前回で絶滅したんじゃ?」


 歩きながらセイカが聞く。


 「モンスターに絶滅があったら、とっくに人類が勝利してすよ。まあ、ここのは狩り尽くした、ということもなくはないでしょうが…。モンスターに関する知識なんて、その程度もないのが実情ですから」


 「どっちが倒すのでもいいから、早く帰ってシンウと食事がしたい…な~んて」


 キリカが冗談を言ってみたが、隣に尾地はいなかった。すぐ後ろで止まっていた。顔に浮かんでいた眠気は消え失せ、獣のように流れる空気を嗅ぎ、匂いを探している。


 「オジ…?」


 突然の豹変にキリカが戸惑う。


 鼻を動かし、異変の元を探している。周囲をギョロギョロと見た後に、


 「セイカさん!合図を!」


 「え?」


 「合図、早く!」


 気迫に押されてセイカは胸にかかったホイッスルを吹く。


 「ピー!ピー!ピー!」


 三回鳴らした、準備しろの合図だ。陣から仲間が駆け出し、見張り番をしていたメンバーが立ち上がって周囲を見始めた。


 そしてそれは敵方のメンバーにも伝わった。ホリーチェの陣も動き出し。何事かと周囲を見る。


 「あそこだ!」


 最初に発見したのは、やはり尾地だった。


 尾地たちがいる中心から北西に四〇メートルのあたりに、黒い空間の歪みが現れた。


 このエリアに居る冒険者たち、全一三名の目線がその一点に集まった。


 「近い!」


 セイカが叫ぶ。その出現地点の一番近くにいたのは、セイカのパーティーの戦士だった。彼は一直線にその歪みに向かって走っている。ホリーチェ側はシンウが走っているようだが、距離が離れている。


 


 ついに出現した。黒い巨体、全長一五メートル級。空に浮かぶ蛸壺。空飛ぶツボから下に伸びる一〇本の恐るべき触手。


 出現したてのモンスターに恐れなく飛び込んだ剣士は一撃を与えた。


 「ピシュイイイイイ!」


 出現とともに攻撃をくらい、怒りの声を上げるジャークトパス。


 「獲った!やった!やった!」


 隣でセイカが大喜びだ。


 一撃を加えた剣士が笛を鳴らす。 


 「ピーーピッピッピッピー!」


 祭りの音だ。獲物をとった一番槍の悦びの音が響く。 


 セイカは背負っていた弓を高々と掲げた。


 「獲物は、我がセイシンセイカのものだ!全員集結せよ、ヤツを、我が弓の前にもってこい!我が一撃でヤツを倒す!」


 リーダーの宣言にメンバーも雄叫びを上げる。占有権は獲った、ここからが本当の勝負だ。


 「アハッやったやった!」


 セイカは、他のメンバーには見せられない乙女な悦びの姿を尾地には見せてしまう。


 しかし、尾地はそんな彼女に目もくれていない。


 「どうしたの、オジ?」


 不安を感じたセイカ、その時、笛が響いた。


 ハッとしてセイカは笛の発生源を見る。中央から東側、距離は三〇メートル。


 もう一体のジャークトパスが出現した。


 その一体に対しては、ホリーチェ側の戦士ジンクが一撃を浴びせた。彼の目の前に現れたからだ。


 「わ、すごい凄い!二体同時出現!やったね。これでシンウも大丈夫だ!」


 無邪気に喜ぶセイカ。ホリーチェ側はその敵に集結しつつある。二体目の敵は中央からの距離は二〇メートルほどに移動している。お互いの戦域がやや近いか。


 セイカ側のジャークトパスは前衛メンバーが誘導し、戦いやすい中央、陣のそばまで来ていた。


 「ちょっと近い感じだけど、大丈夫か。私達、超ラッキーだね。四日も待ってて大正解!二体同時出現だよ!」


 シンウの獲物を取るような状況にならなかったのが嬉しいようで、セイカは大漁に大喜びだが、尾地は…


 「幸運…?、そうラッキー過ぎる…」


 と、今でも獣のような顔で周囲を警戒している。


 「ラッキーでしょ?喜びなさいよ」


 というセイカの言葉に


 「ラッキーなんてないんですよ、ココには」


 尾地は冷たく返した。


 二体の獲物を二つのパーティーが包囲しようとしていた時、


 「ピーーーー!」


 笛が響いた。その音はシグナルではなく、笛の音をした悲鳴のようだった。


 全員が異常な音に驚きそちらを見る。中央からみて、南。全員の後方だ。そこにいたセイカ側の白魔道士の女の子が笛を吹いたようだ。


 中央から南に、距離一五メートル地点の空間が歪みだしている。


 そこから現れるのは、長く太く、歯と吸盤がならぶ触手が一本。粘液を垂らしながらうねうねと空間の縁をまたいで現れる。それが次々と続き一〇本が揃うと、ついに本体がこの世界に現れた。


 三体目だ。


 ジャークトパスが広げた十本の触手は空の半分を掴んでいる。


 奴が雄叫びを上げると、他の二体も同じように雄叫びを上げる。愚かな獲物を取り囲んだ喜びの声だ。


 「ジャークトパス、三体同時出現…」


 尾地にとっても、この事態は初めてのことだった。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] シンウと食事をしたいと軽口を叩くあたりのセイカが数カ所キリカになってます。
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