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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第十話 目白駅 「おじさん、大量の若者たちと共闘する」
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 「で、どうなの?私とシンウをくっつけるために協力する気はないの?」


 「ありません」


 シンウ手作りのババロアを食べながら、セイカは派遣冒険者の非協力な答えに不満な顔をした。


 「おいしー」


 ババロアを味わい尽くしているセイカ、油断が過ぎている。とてもモンスターを狩りに来ている姿ではない。


 「私がおいしいと言っていたと伝えろ」


 リーダーは真面目に派遣冒険者にメッセンジャー仕事を命じた。


 「それはいいですけど、ご自分でもアクションすべきですよ。私は嫌ですよ。若い人の間を取り持つなんて仕事は。昔の人は言いました ”後は、お若い人同士で”って 」


 「この世に最高の仕事があるとすれば、それは人と人の心をつなげる仕事だ。しかも両方とも美しく若い女性だぞ、お前はこの天上の仕事に選ばれたのだ。拒否するなどありえないだろ」


 「他人の頼る前に、まずご自分の勇気を見せるべきですよ。ダンジョンに挑む勇気の何分の一かで済む話でしょ」


 「ダンジョンに百回入るよりも勇気がいるんだよ!」


 乙女の切なる怒りの声が響いたが


 「ダンジョンではお静かに」


 尾地は動じなかった。


 「今のシンウは…見ただろ、オジだって。上野駅を獲ったあの子の姿。すごかった。みんなに出来ないことをあの子はやった」


 セイカはその華やかさに似合わぬ弱々しさで、シンウへの思いを語った。


 「私のほうがすごいんだって、そう思って今までやってきたのに…それなのにあの子は…。私、こんな格好でキャラまで作って…ほんとバカみたい。全然負けてる…」


 頂き物のババロアを口にしながら「これは厄介な事になったぞ」と尾地は思っていた。


 愛情と卑屈、それは同居できるし、今の彼女がまさにそれだ。さらにシンウたちの上野駅獲り金星に関して言えば、自分が大きく加担したことを尾地は否定できない。


 「どちらが成功してるかなんて比べていたら、それだけで人生は終わってしまいますよ」


 当たり障りのない感じで尾地はセイカに話しかけた。


 「あいつのほうが優れてる。あいつより私のほうが上、そんな考えは二段目にしまってください」


 「二段目?」


 「心の棚の二段目です。他人との比較で悩む心が出てきたら、すぐに心の棚の二段目に押し込みましょう。考える必要も見る必要もないです、二段目にすぐにしまう、隠す!」


 セイカは納得している様子もない。


 「一段目にはもっと重要なことを入れておくべきです。あの子が好き。友達でいたい。その気持だけ入れて、それをどうするか考えましょう」


 尾地は残っていたババロアの最後の一口を食べて「やったか?」と自分の言葉が彼女の心に響いたことを確信した。


 「でも、こんな、お嬢様キャラって。ぜったいバカだと思ってる…」


 「まだダメか!」尾地は心のなかで崩れた。


 「キャラ作って、愛想振りまいて。冒険者の強さ以外で勝負しようとしてるの。ほんとかっこ悪い。ピエロだよこれじゃ」


 彼女は自分の自慢の衣装を見てそう嘆いた。


 「ピエロじゃありませんし、ピエロに悪いですよ、あれも大切な職業です(今、サーカス自体ないけど)それにあなたのそれは、ピエロと言うんじゃありません」


 「じゃあ、なに?」


 「そうですね、強いて言えば…アイドル?みんなに好かれる、憧れて愛されるキャラクターをまとったアナタは、アイドルと言えるでしょう」


 イジイジと衣装をいじっていたセイカの顔に少しだけ輝きが戻ってきた。


 「シンウさんも、アナタの仕事は見ていたはずです。アナタの冒険者としてのスタイルを、活躍を。喜んでいたはずです」


 「ほんとに?」


 セイカの目に生気が蘇る。


 「ええ、だから大丈夫。彼女に会ってはっきり言いましょう。面と向かって言うんです。もう一度お友達になろうって」


 セイカの顔がみるみる陰る。


 「絶対無理~~~!」


 わめく彼女を見て、尾地はめんどくさくなっていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] セイカも面倒くさいが、尾地さんも十分に面倒くさいと思われていると思う。他の登場人物達と、読者に。
[一言] 共闘というより教導してるのかなオジさん。
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