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「オジ!ついてこい!」
「ハハっ」
セイカはパーティーのリーダーとして対外交渉の役割も担っている。彼女は下僕を引き連れて、ポップモンスターを奪い合う事となったもう一つのパーティーと交渉するために、堂々と敵陣へと向かっていった。
緩やかにうねる駐車場。コンクリートの丘を超えると廃車がいくつも並んでいる。見様によっては不気味な光景だ。
「ポップモンスターの奪い合いはよくあること。早い話が先手必勝。パーティーメンバーの誰かが先に攻撃する、あるいは攻撃されることで、そのパーティーに占有権が生まれるの」
セイカは下僕である派遣中年にも丁寧に説明を施した。
「五〇日に一度のポップですから、向こうとしても譲る気はないと?」
尾地は美人の後ろに続く参謀気分で答える。
「ジャークトパスは中堅パーティーにとっては登竜門よ。それが五〇日早いか遅いかは死活問題にもなるでしょ」
「とはいってもしょせんは名誉だけです。できればスポーツマンシップで綺麗にいきたいところでな」
「ここでスポーツマンシップを持ち出した所で詮もないでしょ。お互い欲を張ってるからこんな深くまでやってきたのよ。手ぶらで帰りたくないのはお互い様です。重要なのはスポーツマンシップという形式ではなく、プロ同士の契約、お互いのプロ意識の確認よ」
二人は丘を登り、丘を下る。目的地まではまだある。
「セイカお嬢様も、今回は絶対に勝ちたいと?」
「ブっ、お嬢様はやめなさい。中年のオジさま」
セイカはオジの軽口に軽く吹いてから答えた。
「私も普通の家の生まれよ。たしかにこの時代では珍しく、上手くいった家業の家に生まれた身だけど、このスタイルは後から作ったわ」
彼女はそのつややかな金髪をふわりと手でなびかせた。
「冒険者もキャッチャーなキャラが必要だしね。麗しのお嬢様冒険者。悪くないでしょ?」
セイカは下僕キャラの尾地に確認を求めた。
「お見事ですよ、セイカ御嬢様」
執事っぽく答える尾地であったが、様になっているわけではない。
「フフフ、まあ冒険者としては邪道かもしれないけど、普通にやって負ける人生は嫌だしね。今回は必ず勝ちたい。そのために入念に準備してきたし、みんなにも手伝ってもらってた。それにわざわざ派遣冒険者まで雇った。絶対勝つ。それは決まってるわ」
「それでは、わたくしも微力を尽くしますか」
尾地は、戦闘に参加して討伐を手伝う気はなかったが、彼女たちのサポートとしてならば全力を尽くすつもりだった。
そもそも彼が一緒になって討伐したらまったく意味がなくなる。若い人たちの成長の邪魔になるだけだ。
「あ~大丈夫。オジさんは荷物の番で雇っただけだから。あ、そうだな…オジさんにも仕事があった。モンスターがポップしたら全力でやられにいってね。そうしたら私達の獲物になるから」
そう冗談を言って笑った。
素直な彼女の微笑みは可愛らしかった。
それでも、彼女には自ら作った仮面と役割がある。相手方の陣にたどり着く時には、その顔は傲岸不遜のお嬢様に戻っていた。
「セイシンセイカのリーダーのセイカだ。今回のジャークトパス討伐に関する話し合いをしに来た。こちらのパーティーのリーダーは誰だ?」
「あ~~、私だよ」
現れた人物は、まさに子供、小さな美しい少女がひょこひょこと寄ってきた。
尾地は顔を見せないようにセイカの後ろに隠れたのだが、
「あ!尾地~~~お前なにしてんだ?」
対戦相手のパーティーのリーダー、ホリーチェに簡単に見つけられた。