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勇者科でたての40代は使えない 【ファーストシーズン完結】  作者: 重土 浄
第八話 上野駅 「おじさん、殺人鬼とダンジョンで対決す」
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 「俺の弟子の、加持メイビだ」


 短い黒髪の冥い女性が、ザンゾオの隣に立っている。


 「弟子?」


 「ああ、俺は部下は持たない主義だったが、弟子は持つことにした。コイツの才能を見込んで弟子にしちまった」


 「弟子ねー…」


 死んだ目の女性は尾地に対して特に挨拶もせず立ったままだ。


 「お前、さっきからなにしてたの?」


 「パフェが美味しそうだったので記念に撮ってました」


 ザンゾオ…師匠の質問に弟子が冥い声で返し、自分の携帯をザンゾオに渡した。


 画面をスワイプして撮った写真を何枚も見るザンゾオ。


 「お前、まったく同じものをこんなに撮ってどうすんの?」


 画面に写っているものは、まったく同じアングルのパフェの写真が百枚近く。


 「一枚では本質に迫れません。写真で本質に迫るには大量に撮る必要があるのです」


 メイビは自分の信念を冥い声で説明した。師匠は弟子の撮った写真にもう一度目を落とし、弟子の言葉をゆっくりと飲み込んだ後で、


 「だったら…もっといろんなアングルから撮ったほうがいいと思うぞ」


 教えと共に携帯を返した。


 師匠と弟子のテンションの低い会話を聞きながら、尾地は食器を返して帰りたいと思っていた。


 尾地の背後では、まだ一口もつけられていないパフェが崩れた。




「三日目頑張りましょー」


 ダンジョンの中、メイビの冥い雄たけびは響かなかった。


 尾地のリアクションのなさにも、特に動じることもなく仕事を開始するメイビ。彼女の言うように今日で三日目。三日も一緒にいるのにまったく馴染んでいない二人だった。


 尾地も最近ようやく若い女性との付き合いが増え、話し方にもなれてきたのだが、まったく新種の生物に出会ったかのように、コミュニケーションが発展していかなかった。


 彼女との関係性を深めることに諦めていた尾地は、彼女の言うとおりに仕事を頑張ることにした。


 忌々しいことだがザンゾオの言うとおり、尾地には連続殺人犯の動きを追う才能があった。この犯人の動きにかすかに残る規則性を感じ取れてしまうのだ。


 「モンスターと言えど、殺人犯と言えど、その根本の本能的な規則性には逆らえない」


 ダンジョンの一角でメイビのタブレット端末に地図を広げて、彼女に説明する。


 「コイツの行動は獲物が多い地域にやってきて、ダンジョンに潜る。そして最初の大きな分岐点で待っていて獲物が来たらそれを追跡。人気がなくなったら襲う」


 マップには上野駅口から入った冒険者たちの進んだルートが何重にも描き出されている。当然、入り口からしばらくの間はだいたい同じようなルートを通るので、そこが明るく濃く描き出される。そこからしばらくした所に、上野での犯行が行われた位置がマーキングされている。これは他の犯行現場でも同じだ。


 「ダンジョン口から追跡していないことは、ユコカの入場データと監視カメラ映像の突き合わせで確認しています」


 メイビもゲンゾウの弟子らしく、しっかりと仕事はしている。ただ冥いのだ。


 被害者パーティーがユコカで入った時間、そのあと五分以内にユコカで入った人間をシラミ潰しにチェックしたが、犯人らしき人物は見つかっていない。


 「犯人が狙うパーティーは四人以下。五人は手に負えないってことでしょう」


 尾地もそこのところは犯人と同意見だ。五人以上のフルパーティーと戦うのは、闇討ちであったとしても厳しい。たとえ低レベルなパーティーであっても苦戦はするだろう。三人以上の冒険者と戦う、尾地であってもそれは容易いことだとは思わない。それほどに連携を訓練した冒険者パーティーというのは、戦闘集団として優秀なのだ。ましてや一人でも目撃者を逃すことが出来ない殺人者ならなおさらだ。


 「尾地さんの言うような条件下で待ち伏せをして、もう三日になります」


 メイビは事務的に現状をまとめただけだが、イヤミにも聞こえる。


 「そんなうまくはいかないですよ。まだ三日です。私は一週間くらいかかってもおかしくないと思ってます。それに上野でもう一回やる可能性というのも高くない。半々といったところです」


 尾地も、待ち伏せという無為の時間を過ごした二日間はきつかった。ザンゾオからそれなりの額を貰うことになっているが、その金額の数字を数えるだけで退屈を紛らわすことは出来ない。無駄足というのは精神に来る。


 ダンジョンのルート分岐点が見える所で、休憩を装う二人。こんなダンジョンに入ってすぐの所で休憩してるのも不自然だが、尾地の中年姿がそれに真実性を与えていたのは幸いだった。




 待ち時間で暇なのか、メイビが携帯で尾地の写真を取り続けている。尾地ももう慣れたので、特にカメラの方を向くこともしない。


 「三日前から撮りまくってますけど、なんにも変わってないですよ」


 「そんなことありません。一日ごとに全く別人です。三日前まで知らない人だったのが、二日前は知ってる人、昨日はよく会う人、今日は隣によく座っている人です」


 一向に関係性が進行していなかったのは、お互い様だったようだ。


 「そのうち仕事仲間になって友人にもなりますね」


 尾地としては気の利いたセリフを言ったつもりだが、メイビは撮っていた指をピタリと止めて携帯を無言でしまった。


 尾地はひたすら気まずくなった。




 「師匠に二つのことを言われました。


 趣味を持て、物事を観察しろ


 その二つを同時に満たす妙案です。一石二鳥というものです。これは昔、猟師が一つの石で二羽の鳥を…」


 「それは知ってます…」


 「つねに観察し記録に留める。そうすれば相手の弱いところ、弱点が見えてくる。師匠はそう教えてくれました」


 思わず尾地はゾワリとした。弱点調べるために撮ってのかよ!と。




 そしてまた一時間が経過した。


 上野は未だに冒険者が多い。いくつものパーティーが通り過ぎたが、それを追う単独の者、つまり容疑者は現れなかった。


 「あなたは師匠の友人だと聞きました。いつからの友人ですか?」


 インタビューみたいな会話をしてくる子だな、と思いながら答えた。


 「あいつとは別に幼馴染とかじゃなくて、単に十八、十九の時に同じ地区に住んでた、それだけが理由で出会った」


 尾地も退屈していた。ダンジョンの暗闇を長く見すぎた。暗闇には記憶を簡単に引きづりだす力がある。




 「俺たち氷河期世代は、成人するくらいの時期に多くがダンジョンに突っ込まれされた。旧自が全滅したからな、その代わりだ。百人単位でパーティー、というか部隊を組まされて。それで沈んだ東京の探索をやらされたんだ。大人たちは百人もいればなんとかなるだろうって考えた。だが、その結果、帰ってこれたのは俺とザンゾオと、サクラ、それともう一人…たったの四人だった。その後も何千人とダンジョンに入れられて、ほとんど帰ってこなかった。氷河期世代…仲間のほとんどがダンジョンで無駄に死んじまった世代だよ」


 「最初の冒険者…」


 メイビもその悲惨な時代を知識として知っているはずだ。何事にも最初の人間がいる。山之手ダンジョンに潜った最初の一般人達。


 「あの時は冒険者じゃない。徴兵された少年兵だ…いや、青年兵か」


 暗闇の方を見ながら尾地は答える。メイビは携帯を取り出し、無言で尾地の顔を写真に撮った。


 「やっぱり顔が違います」




 そしてまた一時間。ついに獲物がかかった。


 四人パーティーの後方をつける男が一人。単独でダンジョンに潜る奇特な冒険者もいるが、あまりにも条件に合致している。


 「行きます」


 尾地が立ち上がる。


 退屈な待ちの時間が終わった。



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